111 竜の国へ 10
竜の国の内部は様々な塔によって構成されていた。
灯台に似た一般的な螺旋階段を備えたもの。ただの柱のような円柱。細長く、そして木のように枝を伸ばしたもの、テーブル状になったものなど、様々な形の塔がそびえ立っている。
そんな塔に様々な竜が乗ったり絡まったりしている。
灯台や木のような塔に絡みついているのは蛇に細い手足が生えたような竜。円柱に張り付いたり乗ったりしているのはチョウタンと同じ地竜だろう。
そしてテーブル状の塔にいるのは形は様々だが大きな翼を持っているというのが特徴的な竜だ。
そしておれたちのように地上を歩く者たちもいる。
チョウタンのような竜頭人身の者。ただし、こちらは質素な服を着ている。
そしてこちらは知っているリザードマンだ。
彼らはチョウタンが近づいて来るのを察すると、すばやく道を空けて頭を垂れる。
その後で後ろにいるおれたちに訝しげな視線を送ってくる。
「なぁ、人間が来ることはないのか?」
「ないわけではないが、それでも門前での応対がほとんどだな」
「へぇ、そうなのか」
「来るのはほとんど薬師や錬金術士か、彼らに雇われた者だな。この国は合い言葉を知っている者にしか姿を見せることはないからな。同じ者ばかりだ」
「合い言葉?」
「そうだ。まさか知らなかったのか?」
「いやぁ……初耳だな」
そう答えてハラストを見ると、あからさまに目を反らされた。
なんだかなぁ……やっぱりなにか隠しているか。
「それで、おれはいまどこへ連れて行かれてるんだ?」
「リュウサク様がそなたたちをお招きになった。故に、都に入ることが許された」
「ていうことは、さっきのあいつの所か」
「そうだ。こういう場合は住まいではなく人用の応接館に連れていく決まりだ。久方ぶりの出番だからな、今頃は女官たちが慌てて掃除をしているだろう。少し、観光案内とやらをするがどうだ?」
「それはありがたい」
普段とは違う独特な建築様式はたしかに見ていて楽しい。
竜の国は木材での建物が多く、さらに建物の外壁を赤く塗るのが好きらしく。そこら中の建物が赤く塗られている。
そういったものを見て回り、食事もしていく。使われている香辛料が種類も数も違いすぎる。味も濃いものが多く、そしてはっきりとした味付けが好みのようで辛いものはとことん辛く、甘い物も同様だ。
辛さで痺れた舌を花の香りのお茶で癒しながら、おれはチョウタンから色々なことを聞いた。
まず、竜の種類と階級とやらだ。
塔に張り付いていた細長いのは翔竜。そしてテーブル塔にいたのは翼竜というそうだ。それぞれの竜の中でさらに細かな区分けがあったりするのだが、大まかには地竜、翔竜、翼竜の三種類がわかっていれば問題ないと言う。
竜頭人身の者は竜人。そしてリザードマン。
階級は、上から翼竜、翔竜、地竜、竜人、リザードマンとなる。
では、一番下のリザードマンが奴隷のような状況なのかというと、そういうわけでもない。
いや、奴隷と言えば奴隷的なのかもしれない。塔にいる竜たちは、基本、なにかをしているようには見えない。
代わりに街の中をうろつき、働いているのは竜人やリザードマンたちだ。
しかし、チョウタンはそれを奴隷とは言わない。
単純な役割分担だという。
竜人やリザードマンが肉体を駆使した作業に従事し、竜たちはそれ以外の……目で見てそれとわかることではないことをしているのだそうだ。
その中でも地竜はまだわかりやすく、さっきの門番など都の防衛を担当する。
そして昇華だ。
最初は教えることを渋っていたようだが、おれがしつこく聞くのと、掃除が終わったという報せが来ないためにしかたなく説明を始めた。
まず、この国に住む者は全て等しく竜である、ということだ。
便宜的にリザードマンと呼んでいる連中にしても、おれたちの住む地上にいるそれとは違う種族であるらしい。
「全員が竜であり、そして竜とは天に至ることを運命付けられた生物なのだ」
「天?」
「そう、天だ」
おれが空を見上げるとチョウタンが笑った。
「それは空だ。天とは……簡単にいえば神々の住まう場所のことを言う」
「そこへ行くことが、竜の目的なのか?」
「そうだ。そのための修行の地として竜の国はある」
竜の国で生まれた者は、親がどんな竜であろうとリザードマンとして生まれ、そして修行を重ねて竜人となり、地竜となり……と、昇華していくのだそうだ。
「そして翼竜の王たる天翼竜となったとき、天への門へと至る方法を得ることができる」
そう語るチョウタンは陶然とさえしているようだった。
不可思議、というのが感想だった。
個人としてそれを目指すというのであればわからないでもない。
だが、ここにいる全てがそれを目指すというのは意思を強制されているような気がしないでもない。
しかしそれをあえて口に出すようなこともしない。
結局それはおれ一人の感想でしかないのだ。竜から見れば貴族と庶民という階級がありながら、庶民が貴族に牙を剥く姿を見れば「なんて不完全なんだ!」とでも思うかもしれない。
国も違えば種族も違う。ならば考え方が違うのも当然なのだ。
ちょっと見ただけのおれがわかった気になったところでどうしようもない。
「それで、天っていうのはどんなところなんだ?」
全ての竜が目指す場所なんだ。ずいぶんと素晴らしい場所なのだろう。
そう思ったのだが、チョウタンは「わからん」と首を振った。
「知らないのかよ」
「生とは驚きの連続であるべきだ。全てをあらかじめ知っていたとしたら、それはずいぶんと退屈なものではないか?」
「ふうむ……」
その考えはわからないでもないが……やはり、いろいろと言いたいことはある。
「しかしそれは、夜を明かりなしで歩いているようなもんだな」
「その通りだ。だからこそ、生きるとは素晴らしいものなのだ」
気が付いたら谷底に落ちていた……という言葉は呑み込んだのだが、それを察してくれたのかどうかがわからない。
やはり、種族が違うのだと思うしかなかった。
そうしていると使いの女官……なのだろう竜人がやって来た。竜人の性別はわからないのでなんともいえないが、服装がなんとなく女性っぽくもある。
女官とともに向かった先は大きな建物だった。
内部もやはりいままでとは違う文化様式だ。飾られている絵画の雰囲気まで違う。芸術は素人だからはっきりと言い切れないが、物の描写に対する技法が完全に違っている。
異国の雰囲気を心地よく味わいながら奥へと案内されていく。
通された部屋でお茶を飲みながら待っていると、リュウサクが現われた。
「やあ、お客人。お待たせしたね。都は楽しめたかな?」
「おかげさまで。ルナークだ」
「晶翼竜のリュウサクだよ。よろしく天の階梯に選ばれた者よ」
赤い化粧が映える美少年は、その姿よりもはるかに大きな雰囲気を漂わせている。
それでも、友好的な雰囲気は変わることはない。
なにより、リュウサクが言ってくれなければおれは竜の国に入ることができなかったのだ。
なので、特別構えることなく接する。
「天の階梯……とは?」
「ふふ、わかっているだろう? だが、今回はその話をしに来たのではないはずだ? ならば別の機会としよう」
思わせぶりに笑うリュウサクに、おれもしかたないかと諦める。
リュウサクが言っているのは『天孫』のことだろう。
天を目指す種族と、天と付けられた称号……たしかに関係があるかもしれない。
だが、今回は関係ない。
それにおれとしてもこの称号に関してはあまり興味がない。
おれはここに来た二つの用件を説明した。
「建国物語の竜と玉霊華か……」
笑いをこらえように唇を引き伸ばすリュウサクの反応は、チョウタンに言ったときと同じだ。
「ルナーク。……君は利用されていると思うよ」
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