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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第四章:射抜く狩人

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第180話「黒鵺と剣士-1」

「そんなもの!」

 俺が放った矢は正確にイマジナの胴……より正確に言えば胸を射抜くように放たれていた。

 その速度は音を超えており、この距離であるならば回避どころか認識することすら難しい……はずだった。


「なっ!?」

 だがイマジナは氷の剣を殆ど無造作に振り上げると、それだけで人外の視力を持っている俺でも捉えることが難しい速さで飛んでいるはずの俺の矢を正確に両断して軌道を逸らす。


「ちぃ!」

「ふははははっ!」

 有り得ない。

 以前のクリムさんの魔法の撃ち落としを見て、イマジナの先祖であるヒフミニの逸話を聞いていなければ、その思考だけが頭を占めて、何も出来なくなってしまいそうな光景だった。

 だが幸いな事に俺の中にはそれらの情報があったため、舌打ち一つはしてしまったが、ほぼ無駄なく次の矢を生成してベグブレッサーの弓につがえる事が出来た。


「シッ!」

「効かぬと言っているでしょう!」

 二射目。

 俺は敢えてイマジナの顔だけを見て、矢そのものは左脚の太ももに当たるように矢を射る。

 だがこれもまたイマジナは防ぐ。

 流れるような動作で氷の剣を振り下ろし、俺の矢を斬る。

 それはつまり、イマジナは俺の視線などから矢の向う位置を予測しているのではなく、矢をはっきりと見て斬っているという事だった。


「さあ!さあ!」

「くっ!?」

 三射目を行う時間は無かった。

 そのため俺はベグブレッサーの弓から矢ではなく剣を生成すると、それを全力で振るい、イマジナの剣と正面からかち合わせ、鍔迫り合いに持って行こうとする。

 だがその考えは直ぐに捨てることになった。

 イマジナの氷の剣が俺の木剣に当たった直後、木剣の厚みの三分の一程まで一気に斬り進んだのが見えたからだ。


「どちらかが倒れるまで……」

「っつ!?」

 故に俺は剣を捨て、後方に向かって跳躍する。

 直後、木剣は完全に断ち切られた。

 もしもあのまま持っていたらどうなっていたかは考えるまでもない。

 そして、イマジナの攻撃はこれで終わりでは無かった。


「楽しみつくそうじゃありませんか!」

「なっ!?」

 既にイマジナは俺のすぐ前にまで迫って来ていた。

 振り上げられた左腕も既に振り下ろされ始めていた。

 その速さはもはや人間のそれとは思えない速さだった。


「カアッ!」

「し……っつ!?」

 目の前に迫る脅威に対して、俺の身体は理性ではなく本能で動いていた。

 俺の口から例の獣が口から吐いているのと同じ黒い煙が勢いよく噴き出してイマジナの視界を奪い、腰から生えた蛇の尾が俺の身体を引っ張る事で更に後方に跳躍。

 そして煙の中から飛んで来た氷の剣を、黒い毛皮に覆われた右腕が氷の剣の刃も、イマジナの魔法によってその刃が爆発したのも気にせずに、傷一つ負う事なく吹き飛ばす。


「はぁはぁ……」

 腰の蛇が消え、右腕が元の姿に戻るのを確認しつつ、俺は次の矢をベグブレッサーの弓につがえる。


「いやはや、流石は化け物ですね。いい意思魔法と勘を持っている」

 桁違いに強い。

 それが煙の向こう側から身体にこびりつく煙を剥しつつ、ゆっくりと現れたイマジナに対して俺が抱いた感情だった。


「それにしても私もアレですね。やはり御先祖様……いや、ルトヤジョーニの奴に思考制限か何かでも掛けられていたのでしょうね。今は随分と頭がすっきりとしている」

「そうかい……」

 はっきり言って倒す順番を間違えたとしか思えない。

 方向性がかなり違うので一概には比べられないが、明らかに今のイマジナはルトヤジョーニより強い。

 避ける余地も防ぐ暇もない大規模攻撃魔法と言うのも厄介な事には違いないのだが、勝てるかどうかという観点で考えたらこちらの方が遥かに厳しい。


「それだけの剣技を持っているなら剣を専門とする騎士にでもなればよかったんじゃないか?引く手数多だっただろう」

 いずれにしても今は呼吸と準備を整える暇が欲しい。

 そう思った俺は出来るだけ平静を装いつつ、イマジナの関心を惹けそうな話題を出す。


「ははは、これでも一応は紋章魔法の名家、ミナタスト子爵家の長子ですよ。そんな道は許されなかった。ま、私に紋章魔法の道を強要した両親も、私より紋章魔法の才には溢れていた弟たちも私が毒を盛って殺したんですけどね」

「ルトヤジョーニの意思でか?」

「ルトヤジョーニに会う前に。ですよ。色々と邪魔だったので」

「……。そうかい」

 そして、その話のおかげで分かった。

 ルトヤジョーニなど関係なしにイマジナがイカれた人間であるという事が。

 この分だと御先祖様であるヒフミニも人格者だったのか怪しい気がしてきてしょうがない。

 兄弟がアレだしな。


「さて、呼吸は整え終りましたかね?」

 イマジナが氷の剣を左手の中に再び生成する。


「随分と余裕だな。自分が負けるとは思っていないのか?」

「言ったでしょう。私が求めるのは究極の自己満足であると。少し待てばもっと満足できる戦いが出来るかもしれないんです。それなら待つに決まっているでしょう」

「そうかい……なら、勝手に満足して逝け!」

 対する俺は赤黒く輝く矢……『魂狩り(ブラドボーンド)の血矢(チェイサー)』をイマジナに向けて放った。

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