第六話 コンプライアンス!
間一髪で食べられかけた下着を回収すると、ソアラは温泉施設に戻った。私が下着泥棒たちを保安官に引き渡した頃には、リーナとターニャとソアラの三人がそろってやってきた。
ふん縛った下着泥棒たちに、リーナは今にも強烈な猫パンチをお見舞いしそうだったし、ターニャは散々罵倒した。ソアラのドス黒い怒りのオーラは、まだ消えていない。
私はというと、保安官に事情を説明して、下着泥棒たちを厳罰に処すように求めた。さわやかな男性は私にウインクをしてごまかそうとしたが、もはや私の心はぴくりとも動かなかった。
ターニャが下着泥棒たちを罵倒している。
「復唱なさい。『自分たちは下着泥棒です』、と」
「自分たちは下着泥棒です……」
「『嫉妬から、ミトさまを慕う女性たちの下着を盗み、食べようとしました』……はい」
「嫉妬から、ミトさまを慕う女性たちの下着を盗み、食べようとしました……」
「……よろしい。あなた方は、ミトさまの足元にも及びません! ご自分のなさったことを振り返って、身の程をわきまえなさいな! 女性に不快な思いをさせて、好かれるとお思い? 恥を知りなさい!」
保安官が下着泥棒たちを連行していったあと、私の服のすそをつかんで、ソアラがちょいちょいと引っ張った。すでに怒りのオーラは消えている。
「……さっきのミトのセクハラパンチ、かっこよかった」
「セクハラパンチ? なんですのそれ? くわしく!」
「え、コンプライアンスパンチじゃなくて?」
いつの間にか変な技名をつけられていたことに、私は笑った。
「下着、無事に戻ってきてよかったね。……まあ、洗濯はしないといけないだろうけど」
「いいえ、買い直しますわ。下劣な男が触った下着なんて、履きたくありませんもの」
「そっか。そうだよね」
ターニャが、フン……と鼻を鳴らすと、リーナも「そうだそうだ!」と拳を突き上げた。ソアラは「お気に入りのパンツだったのに……」とつぶやいて、怒りのオーラを再び少しにじませた。
「それにしても下着泥棒を追いかけるミト、かっこよかったー!」
「本当! それですわ! 私たちを気遣って、女湯にいてだなんて……」
「……セクハラパンチも」
「ずるーい! 私もミトのセクハラパンチ、見たかった!」
リーナは表情の変化が豊かだ。きらきらと憧れを表したかと思うと、次の瞬間にはむくれている。
そこに思慕の念があったとしても、私が彼女たちの助けになれたのだと実感できて、くすぐったかった。
人事課で仕事していたときもそうだったなと、わたしは元いた世界を懐かしく思い出した。
あの痴漢は捕まったのだろうか。
もしそうだとしたら、痴漢に加えて、過失致死の罪もついているはずだ。
すっかり日が傾いている。
私は少し湯冷めした身体をぶるりと震わせて、街の大通りへと向かった。
<おわり>




