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運び屋ヨン  作者: SPICE5
第9章 <日常編>
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9-3.陶芸家は居場所を明かす




「世間、ちょっと狭過ぎですよね」

「全くだ……」


 カウンターにて、吉備北先生はブラックコーヒーをすすり、あたしは隣で和菓子をパクついていた。藤岡さんは工房の様子を見てくると言って席を外している。


「先生も、いろんな経験されてるんですねえ……」


 しみじみと呟けば、


「まあ、上村より10年長く生きてるからな」


 と返された。


 10年かあ。それは確かに、とても長い。


「あ、そうだ! 10年先輩に質問があります!」

「何だその呼び名。まあ、言ってみろ」

「先輩は禁断の恋って、したことありますか?」


 隣でコーヒーが噴射した。


「きったなっ!」

「げほっげほっ、お、おまっ、何だいきなり!?」

「え……あの、ヨンと藤岡さんは姉弟関係だって聞いたから……そういう、禁じられた境遇のせいで拗れちゃうみたいな恋って、他にもあるのかなって……」

「あー。そっちか」

「そっち?」

「つーか、お前にはまだ早い話だよ」


 ぐりぐりと頭を押さえて子供扱いされ、あたしは手を振り上げて抗議した。


「先生、あたしもう15才なんですよ? 

 ええっと、誕生日がくればぁ結婚だってできちゃうんだからぁ」


 ルビちゃんがこないだ言っていた台詞をそっくりそのままに真似してみる。


「お前予定でもあんのか」

「ないですよ」

「あったら俺がショックだよ」

「それって、もしかしてあたしの事」

「んなわけあるか」

「知ってます」


 はああ。

 大きなため息をついてから、がりがりと頭をかくと、


「――まあ、経験はあるよ。そういうの」


 先生は呟いた。


「きゃー、あるんですかあるんですかっ? 教えて下さい!」

「……本来有り得ない立場を、そう指すんならな。

 まあ、心なんてそう簡単に制御できないもんだろ。要はそれを表に出さなきゃいいだけの話だ」

「でも藤岡さんの話、凄く苦しそうでした」

「そりゃあな。あいつの場合、踏み込んでから一度こっ酷くフラれちまってるからな。

 ま、恋愛ってのは往々にして上手くいかない事の方が多いもんだ」

「ちなみに先生の禁断の恋って、いつ頃でどんな間柄だったんですか?」

「……そういうのはズカズカと踏み込んでくるなよ」

「あ、はい、すみません」


 調子に乗っていたあたしは、慌ててぺこりと謝った。


「あー。お前も、15なんだよなあ……」

「はい」

「こうも違うもんかねえ……」

「何ですかそれ、馬鹿にしてるんですか」

「いいや。上村はな、今時なかなかいないくらい真っ直ぐに育った子だよ。その素直さは大事にしとけ。

 禁断の恋とかな、そんなどろどろしたもんは、今のお前が考えることじゃない」

「はあ」


 一応褒められているのだと思うことにして、あたしは饅頭の残りを頬張った。









 帰りの電車でも、二人掛けの席に與野木君と並んで座る。

 前の席では七村が先生と座っていたけど、やたらと静かだ。きっと疲れて眠ってしまっているのだろう。


「上村さん、どうだった?」


 異世界の話を知っている與野木君は、藤岡さんとの話を聞きたそうな顔をしている。



『あなたのお友達がもし、不思議な体験をしたと大げさな話をしてきたら。

 あなたは疑いの欠片もなく、その全てを信用できますか』



 あたしの胸に藤岡さんの言葉がちくちくと刺さった。

 

 與野木君、七村、ルビちゃん。

 友達だから、きっと信じてくれる筈と思っていた。


 不安になるのが嫌ならば、もう話さない方がいいのかもしれない。



「上村さん?」

「あ、うん。いろいろ話せて良かったよ」


 それからは、できるだけ取りとめの無いことに話を振った。


 



* 




 ベッドに潜り込んでから眠るまでの、僅かな間。

 目を閉じながら、あたしは藤岡さんとの最後のやり取りを思い出す。


 ヨンにリュージンさんの事を報告できるのは嬉しい。

 けれど……。

 


「組織側の目的は、異世界を知る私にありました。

 長年身を隠してはいましたが、数か月前に一人でいるところを再び拉致されてしまい、現在、あちらでの私は監禁されている状態にあります」


「あのっ、藤岡さんが今いる場所って一体どこなんですか!?」


 ヨンに早く教えてあげなきゃ!


 そう意気込んでいるあたしに、藤岡さんは確認するように尋ねてきた。 


「――上村さん。あなたが話してくれた中に、レナーニャ僧の若者が同行していると聞きましたが」

「ワジの事ですか?」

「彼は、あなたが異世界から来たと、知っているのですね?」

「はい。全っ然信じてはいないみたいですけど」


「レナーニャは単一世界が信条ですからね、当然の反応だとは思います。

 ですが、気を付けて。

 一介の僧である彼が何処まで事実を知っているかは分かりませんが、彼の報告如何によっては、あなたもいずれ私と同じ運命を辿ってしまうかもしれない。

 国が亡んだ後のヨジェリア国民のうち、奴隷身分を免れた者の殆どは亡命先にヨルダムを選び、レナーニャに改宗しています。現レナーニャ大僧正はヨルダム国王と同等権力を持つ存在だと言われています。 

 僧正がいるレナーニャ大僧院。 

 私が囚われているのは、そこです」



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