第六十九話:焼き鳥には焼き鳥の缶ビール
作者はビール、そこまで好きでは無いです。
「な、なんじゃあ、これは!?」
皇帝陛下の素っ頓狂な叫び声が響いた。
「主様!?」
ちょうど狩りから帰ってきたアリスがぼくのところに一目散に駆け寄ってくる。その時のぼくの姿は、屈強な成人男性に詰め寄られ、押し倒されているひ弱なぼく、という構図。
「あ、主様は女性よりも男性の方がお好みなんですか?!」
盛大に勘違いをかますアリス。いや、そうはならんやろ。
「道理で私たちに手を出してこないと思ったら」
「その、言ってくだされば男娼の奴隷も用意しましたのに。それとも屈強な成人男性に手篭めにされる願望をお持ちで?」
「うちなあ、非生産的なのはどうかと思うんやわ」
いつの間にいたのかアイン、アスカ、アミタも参戦して来た。だからそういうのじゃないって言ってるだろ! さっさとこの皇帝陛下をおどかしあそばせてくれ!
「マモォール殿、これは、この食物はなんなのだ?」
「えっと、好物、です」
「こ、これが鉱物だと!? 一体どこで産出されるというのだ!」
「算出……いや、計算、じゃなくて本能」
「渓山ではなく本野……つまり、山ではなく平地で採れるのか! なんという不思議な!」
なんか微妙に齟齬が起こってる気もするんだけど、心の余裕はそんなことを待ってくれない。誰か、誰か助けてくれ……
「主様から離れて、離れてください!」
ショックから立ち直ったアリスが陛下をぼくからひっぺがしてくれた。
「ありがとうアリス。助かったよ」
「主様の為なら!」
うん、抱きしめてくれるのは嬉しいよ、嬉しいんだけどね、ほら、骨がミシミシって、ミシミシって悲鳴をあげてるんだ。聞こえるか、聞こえるだろう、骨盤の轟き。
「いや、すまなかった。つい興奮してしまったようだ」
皇帝陛下が深深と頭を下げた。流石にこの状況で二人きりというもの困るのでパペットたちの同席を許してもらった。
「それで皇帝陛下は本当に何しに来たんですか?」
「だから決まっておるだろう。貴様の飯を食いに来たのだ」
いや、うち、料理屋でもなんでもないんですけど? あ、いや、焼き鳥は売ってるから料理屋だな。それでもまだ開店の目処もたってないんだけど。
「さあ、肉だ肉、肉が食いたいぞ。あとはそうだな、酒なんかもあるといいな」
肉に酒。なんというか肉食系を絵に描いた様な人だよ。お酒は出すかどうか決めかねてる。というかお酒出したらその分客層が悪くなりそうなんだよなあ。酔っ払ったら暴れる人も出てくるだろうし。
「それでしたら焼き鳥を試食していただきましょう」
アインが指示を出して焼き鳥を焼かせる。これはミカエル、モニカ、カタリナの三人にやらせる練習だ。生焼けにならない様に、焦げない様に。串打ち三年、焼き一生と言われるくらい焼くのは難しい。まあ、今は指導係としてアインがモニタリングしてるんだけど。
「これはアイン姉様が居らんでも何とかなるような機械が要るわなあ」
アミタのやる気に火がついた様だ。まああってくれたら確かに助かるだろう。
「おまたせしました。当店の焼き鳥です。シンプルにもも肉の塩とタレの二種類を用意しました」
「なんと、小さいのだな。食べた気がしなさそうだ」
そう言いながら皇帝陛下はタレへと手を伸ばした。
「この匂いがな、なんとも堪らんでなあ」
そして一口パクリ。
「うおおおお! 美味い、美味いぞ! この甘いタレが肉によくあっておる!」
興奮して叫び出した。いやまあそれは仕方ないのかもしれない。タレ、が無いもんね、この世界。
「こっちはタレとやらがついてない様だが?」
塩の方を見ながら手抜きはいかんぞとばかりにこっちを見る。いや、それは手抜きじゃないのですよ。
「まあ仕方あるまい。我は寛大だからな。味がついてないのも面白そうでは無いか……」
そして一口パクリ。
「な、なんだと!? 先程のタレには無いさっぱりとした味わい、そして塩気。そうか、塩か。これは塩味なのだな! うむむ、これは酒が欲しくなるな!」
何度もチラチラこっち見るな! 催促されても酒は出さないぞ!
「まあまあ、どうぞこちらを」
「む? エールか? この様な大衆酒はあまり飲まないのだが」
あ、おい、なにビール渡してやがる! というかいつの間に買ったんだ?
「ふおおおおお!? つ、冷たい!? キンキンに冷えておる! そして美味い! 何だこののどごしは。いくらでも飲めそうだ!」
正直、ぼくはビールの何が美味しいのか全く分からない。いや、夏の暑い日に外から帰って飲むキンキンに冷えたビールの一杯目は美味しいと感じるんだけど。どうも苦いのは苦手なのだ。
結局、皇帝陛下はビールを何杯かおかわりして、そのまま千鳥足で帰って行った。本当に何しに来たんだか。




