第五十二話:痩せた!
後五キロ落としたいなあ。
「はい、ねぎまのタレ、三本お待ちどうさま!」
「塩皮五本とタレのつくね五本ね」
「もも塩二十本あがったよ!」
焼き鳥は好評な様で次から次にお客さんが詰めかけて来た。
「なあ、タレだけ貰うというのは出来ないのか?」
「さすがにそれはやってないですね」
「塩とこしょうをこっちに寄越せ!」
「一昨日来てください」
「なんだと!? ワシのバックには貴族様がついてるんだぞ? こんな店直ぐにでも……」
「直ぐにでも、どうするんですか?」
「なんだ、貴様! 女の分際でこのワシに逆らうというのか? 良く見たらなかなかの美人じゃないか。庶民にしとくのは勿体ない。ならば貴様を妾としてやろう。貴様と貴様もだ!」
こんな勘違い野郎も出てくる。なお、ラケシス様が自己紹介したら青くなって逃げようとしたところを騎士団の皆さんに取り押さえられてしまった。そりゃそうなるよねえ。バックの貴族様とやらが取り潰されるのも時間の問題なのかも。
「この調子だと直ぐにでも売り切れそうね」
実はストレージにまだ予備があるので売り続ける事は出来るんだが、せっかくラケシス様が来ているんだし、今日のところは店じまいでいいだろう。
「今日は売り切れです! 皆さん、ありがとうございました!」
並んでる人の大半はすごすごと肩を落として帰ろうとする。おい、アイン、あの作戦を発動だ!
「なお、今並んでくださってる方に整理券をお渡しします。これをご持参いただければ列に並んでる人とは別に優先的に焼き鳥を販売させていただきます」
アインの付け加えた言葉に並んでる人たちは歓声をあげた。このまま帰したら評判悪くなるかもだもんな。整理券は複製出来ないように透かし入り。アミタが透かし入れの機械を作ってくれたからね。
「さて、ラケシス様、私どもの営業は終わりました。お待たせしました」
「いいえ、色々と楽しませて貰ったわ。それにしてもハーミルトン伯爵がねえ、ゲッゲッゲッ」
その笑い方はやめた方が魅力的だと思います。ともかく王妃様の方だ。
「こちらはうちの薬師が作った痩身薬です。これを王妃様に飲ませてください」
アミタは「私は薬師じゃない、パーフェクトクラフターだ!」って騒いでたけど、そんな職業は普通に無いからね。
「信じていない訳ではないのですが……得体の知れない薬を王妃様へ飲ませる訳には」
「それは……」
まあ確かに毒味とかする身分の方だもんね。いくら切羽詰まってようと出処の分からない薬を飲めないか。
「ですのでもう一粒同じ薬はありますか?」
「え? ええ、ありますけど、誰かで実験するおつもりですか?」
「ええ、大変都合のいい事に、いまさっき実験台が名乗りを上げてきたところです」
ついでということでぼくたちもお城に案内された。というか、痩身薬がダメだったら処刑台の階段をのぼらされるんだろうなあ。
「そんな事はありません」
いや、公爵令嬢が保証してくれてもなあ。処刑は国の制度じゃん?
「絞首刑も磔刑も斬首刑もありません。この国の死刑は魔法での火刑か毒殺刑ですから」
物理的にのぼらねえって話かよ! そんなこんなで話してるうちに王妃の部屋……ではなく、寒々しい闘技場の様なところに通された。そこには縛られた豚ではなく、太った貴族がいた。
「ごきげんよう、ハーミルトン伯爵。お招きに応じてくださって嬉しいわ」
「公爵令嬢様、なぜ、私がこの様な目に?」
「決まってるではありませんか。あなたのお抱えの商人が全部吐きましたわよ」
「あの無能が!」
悔しそうに嘆く伯爵。言い逃れしないのかと思ったら、公爵令嬢が全権を握ってるんだって。いやいや、それでも公爵令嬢ってそこまで権限持ってんの? 普通に現職の貴族の方が偉いのでは?
「私は一応、王太子様の婚約者ということで特別な立場をいただいてますので」
王太子様の婚約者……それはあれだね。追放もののオープニングみたいな。ほら、婚約者が卒業パーティとかで婚約破棄されて。
「縁起でもないことは仰らない様に。それで貴方にはこれを飲んでもらいます」
「そ、それは毒か? 私は死罪になったのか?」
「いえ、毒ではありません。もしも飲むなら結果に関わらず罪一等を減じましょう」
すると伯爵は一も二もなく「飲む、飲ませてくれ!」と意気込んだ。いやまあこのデブなら効果は実感出来るだろうけど。
「よし、飲んでやる!」
口の中に薬を放り込むと、伯爵はそれを嚥下する。すると身体から湯気のようなものが噴き出して本体の体型がゆっくりと変わっていく。
「こ、この身体は?」
湯気が晴れた後にはスマートな体型のなかなかの美形な青年が現れた。太ってたから老けて見えたのか。
「本当に痩せるなんて……」
あ、ラケシス様、信じてなかったんですね。まあそれも仕方あるまい。




