第三百三十七話:リックリターンズ
リックは父親としては失格なんですよね。
見た目はゴツくても乱暴な感じではないらしい。一人ぐらいはギルドに入って来た奴に「おいおい、お前みたいなガキが冒険者とか本気で言ってんのかよ!」みたいなゴブリン顔のおっさんがいると思ったんだけど。
なんでどいつもこいつもイケメンなんだ? それも整ってる系では無くて、無骨だけど男らしさが滲み出てる様なかっこよさ。女には分からないって? いやいや、多分これだけ凄かったらきっと子宮にキュンキュン来てる女性だっているんだと思う。
「ええと、リックさん。エルさんがうちで働きたいとか言ってますけど大丈夫なんですか?」
「は? 大丈夫って何が?」
「ほら、エルさん育児もあるのに働くとか大丈夫なんです?」
「いや、妊娠中あれだけ食っちゃ寝してたんだからそろそろ働かないと動けなくなっちまうだろ?」
動けなくなる? 何を言っているんだろうか? 妊娠中に食欲が増すのはお腹の赤ちゃんに栄養を与えるためなんだってのは分かるはずだし。あ、いや、もしかして分からない? この世界ではそういうの教えないの?
「それに金も稼がないと。ほら、俺も戻ってきたばかりで仕事とか探さなきゃいけねえから」
「嵐の運び手再結成じゃないの?」
「今更だろ。それこそ盾役なんていくらでも居るんだからあいつらも新しいパーティメンバー揃えてんだろ」
どうやら確認してないらしい。トムさんもリンさんも多分リックさんを待ってたはずなんだよな。でなければうちの店の手伝いなんてしてないんだよ、多分。いや、リンさんは手伝いしてたかもしれない。おしるこ目当てに。
そう、おしるこ目当てだからリンさんは一号店にしかいないのだ。ここ、三号店の方がギルドに近くて良いと思うんだけど、ラケシス様、アヤさん、ヴィオレッタさんと競うようにしておしるこ食べてるらしい。良いけど、他のお客様の分も残しておいて欲しい。
「ええと、リックさんはお金を稼ぐ気はあるけど、パーティ募集するまで活動は出来ない、と?」
「そりゃあそうだろう。俺は盾役だからな。ほら、あまり攻撃とかは得意じゃないんだ」
普通に考えたら重い盾とか鎧とか着ける様な筋肉があるならそれなりに戦えると思うんだけど、どうやら重くてまともに剣を振るったり出来ないらしい。かといって鎧を軽くしても、回避に慣れてないからつい鎧を着ている感覚で身体で攻撃受け止めたりするらしい。本当に何やってんだ。
「エルが居ねえから回復もねえしよ」
あ、そういえばエルさんってシスター服だったけど、シスターじゃなかったの?
「ああ、あれ、回復術師の制服なんです」
エルさんが横から答えてくれた。へぇ、制服とかあるの?
「駆け出しの回復術師は教会の学校で学ぶんですけど、卒業した後もそれを着ることが多かったので。それに、その」
「なんか言いづらい理由でも?」
「胸が、その、サイズなくて、服とか高くて古着屋になかったので」
ああ、エルさんの豊胸薬飲んだアヤさんやリンさんを凌駕する「母性の塊」ね。子ども産んでいっそう大きくなった気もするけど。つまり、安定して稼げるまで買えなかったと。なるほど。
「なあ、護さん、そんなにうちの妻の胸ばかり見ないでくれるか?」
「やだ、リックってば。妻かあ」
「主様、巨乳に興味無いって言ったよね?」
「むう、ボクのを護の為に大きくしてあげるから待っててよね!」
いや、ぼくが見てたのは胸でもあるけど、そこに抱かれてる赤ん坊なんだよ。なんかウトウトしてるから眠いのかなって。
「ええと、言いたいことは沢山ありますが、先にその子を眠らせてからの方が良いのでは?」
「あ、本当だわ。ありがとう護さん。どこか平たい場所を貸してもらえると」
「裏に仮眠室がありますからそこを使ってください。ハンナさん、案内してあげて」
「分かりました。こちらですよ」
エルさんはハンナさんに連れられて退場。ぼくを三つの目が見つめている。だから巨乳には興味無いけど、爆乳は思わず見ちゃうでしょ。性的な意味ではそれもそこまで興味無いんだよ!
「それで、リックさん、嵐の運び手のほかの二人、トムさんとリンさんにもそれは伝えたんですか?」
「いや、何となく顔を合わせづらくってな。まだなんだよ」
「リックさんのやるべきことはトムさんやリンさんとちゃんと話し合う事です。あと、リックさんが冒険に出て、エルさんがここで働くなら赤ちゃんはどうするんですか?」
言われたことの意味わからなかったのか、キョトンとした顔をするリックさん。あ、これは子どものことなんて考えてなかったって顔だな。
「子どものことは考えてなかったなあ」
そのまんま言うのかい! と、とにかくまずはトムさんとリンさんに帰還報告してきてください。話はそれからだ。エルさんを雇う分の枠はありますから。




