第三百三十一話:葬送のアンヌ
いや、葬送ってないですよ?
奥の方で暴れる男の声がして、「大丈夫ですよ、痛み無いように葬送ってあげますから」なんて言うアンヌの声が聞こえたと思ったら静かになった。おい、葬送るのはナシだぞ!?
「大丈夫です。葬送るのはまだ未経験ですから。助けるのは得意ですが」
まあアンヌの性格的に怪我人は放っておけないってのがあるからなあ。まあ、モルモットと決めたら散々実験に使ったりするんだけど。
アンヌに頼んだのは、足の復元。とりあえず片足だけでも復元させて後はこれからの行動を聞いてからにする。ダメなようならそのまま放置かな。
「チーフ、提案があるのですが」
「なんだ?」
「取り付ける足はバッタとクモとカブトムシのどれがいいですか?」
「なんで全部昆虫なんだよ!」
「クモは昆虫ではなく鋏角類です」
聞いた事ないよ。よくよく聞いてみるとクモやサソリなんかが居るらしい。カニやザリガニは甲殻類だから違うんだと。鋏持ってんじゃん! じゃああの足の一番前の一対が鋏部分なのかと思ったら頭胸部の先端にある顎にあたる部分が鋏角なんだと。足は足で移動のための歩脚というらしい。奥が深い。
いや、それはどうでもいいや。とか何とかやってるうちに詐欺師の足が復活した。そういえば名前を聞いてなかったな。ウッドというらしい。裏切りそうな名前だこと。
「ふう、助かったぜ。もう片方の足も治してもらえるのかい?」
「ああ、それには条件がある」
「なんだよ? 言ってくれりゃなんだってやるぜ」
「そうだな。商売人だったんならルドルマンさんの店を立て直すのに手伝ってもらえるか?」
「お易い御用だ。おっと、そこの嬢ちゃんには近寄って欲しくねえなあ」
こっそりユーリが近付こうとするのを制止した。なるほど。ある程度は周りの気配に敏感ということか。まあぼくもあまりユーリにはやって欲しくない。
「ユーリありがとう。でも読心なくていいよ」
「で、でも」
「ユーリに危ないことはして欲しくないからね」
「うん。わかった」
まあユーリが近付いて人質に取られたら元も子もないからなあ。それにあんなの一人ならアリスで十分抑えられるし、そもそもアンヌでも大丈夫だ。
「アンヌ、残りの足の復元も頼むよ」
「分かりました、チーフ」
再びウッドを眠らせて、培養器の中に放り込む。アンヌはクモとかバッタとか言ってたけど大丈夫だよね? ミュータ〇トや仮面ラ〇ダーじゃないんだし。
「出来ました」
培養器のカプセルを開くと、中からウッドが出てきた。ズボンは糸で切られたままなので太ももまでしかないが、モロ出ししてないからセーフだ。
「おお、足が、足がある! こりゃあ助かったぜ」
「気に入って貰えたか?」
「ああ、気に入ったぜ。この家もそこの女どももな」
「褒められて嬉しいがその言い方は無いんじゃないか?」
「はあ? 何言ってんだ。ここは俺のアジトにするからよ。そこの女どもは俺が面倒見てやるぜ。お前は……そうだな、奴隷としてなら飼ってやるか。有難く思えよ!」
こいつは何を言ってるんだろうか? いや、確かに男はぼく一人だし、後はアリスとアンヌ、そしてユーリがいるくらいだけど。
「まずはお前だ! こう見えても喧嘩は得意なんだぜ? お前なんか秒殺だよ、秒殺」
まあ喧嘩はぼくやったことないから確かに本体なら秒殺だと思うよ。でもこの身体は分身体だから殴られても痛くないし、何よりアリスが黙ってないだろう。
「さて、まずはこいつを人質にとるか」
ウッドは腕を伸ばして近くにいたアンヌを引き寄せた。
「あの、チーフ、これはどうすれば」
「うるせえ、黙ってろ! さあ、どうするね? 大人しくお前が殴られるなら解放してやるよ」
いや、別に殴られても構わないんだけど。多分痛いのはあっちの手だし。でも殴られるのは不快なんだよね。例え痛くなくても。
「アンヌ、そいつ振り解けるか?」
「問題ありません」
「なんだと!?」
「じゃあそいつを制圧してくれ」
「はい、分かりました、チーフ」
アンヌは肘を顎に向けて打ち上げ、解けた腕を取って足を引っかけ、そのまま腕を抑え込んだ。腕抑え、という技のようだ。
「ガッ!?」
めるぽって言ってないよ? いや、それはいいか。痛さで悲鳴をあげるウッド。アンヌはサブミッションが得意のようだ。まあ人体の仕組みには詳しそうだしね。
「よくやったね。そのまま麻酔で寝かせといて」
「分かりました。チーフ」
なんかアリスがうずうずしてる。もしかしてアリスはアンヌと戦いたがってる? うーん、あまり姉妹でそういう事はして欲しくないんだけど。
「いいな、アンヌちゃん。主様に褒めて貰えて」
「アリスは壊すだけだからああいう捕縛は無理でしょ?」
「なんだとぉ!」
なんでアリスはユーリと口喧嘩してんだろうね。




