第三百二十話:アッサラーム商法
初めてあれを見た時、「こんな店で買い物なんてするか!」ってなりましたよね。
ルナにはアンヌは医者で、お父さんは疲労で疲れてるから寝てもらってるだけだと説明した。急に寝ちゃったのはよっぽど疲れてたんだろうねなんて言い訳までつけてあげたよ。
「そう、ですよね。お父さん、頑張ってて、だから、私も」
唇をきゅっと結ぶルナ。うん、ややこしくなるから奥さんに言っておかなきゃ。ええと、奥さんは?
「お母さんは居ません」
「ええ? もしかしてあのアッコギになんかされたの?」
「いえ、弟が産まれるので出産で実家に帰っています」
あー、弟さんがね。ええと、それならルナもそっちの実家に帰れば良かったのでは?
「そうお父さんもお母さんも言ったんですけど、借金も減らないし、何よりお父さんが早まったことをしそうで」
ああ、まあ、さっきの様子を見ていると思い詰めてどうにかなってしまいそうだよね。というか騙されたお父さんなのにちゃんと心配してるのはとてもいいお父さんであり、いい娘だったんだろう。こういう家族の絆ってぼく弱いんだよね。なんせ、ぼく自身が家族に支えられて生きてきたもの。
「ううん、こ、ここは?」
「お父さんの部屋じゃない。分からなかったの?」
「ルナ!? おお、無事だったか! あの男は、あのアッコギの使いの男はどこだ?」
どうやらぼくはアッコギの使いだと思われていたらしい。いやまあ確かにそうだよね。でも、この人娘を担保に借金チャラにしようと思ってたんじゃ?
「どうも、はじめまして。誤解があるようですが、ぼくはあんなデブの手下ではありません」
「何? だ、だがしかし、娘が紹介したい人など」
「違うのよ、お父さん。私ね、働けることにしたの」
「なんだって? お前が働く? そ、そんな危ないことはやめなさい」
「だって、そうでもしないと借金が」
「そ、そんなものはお父さんが何とかする! な、何とかしてやるんだ、何とか」
な、なんか目の色が危ない色に染まっていく。これは緋の眼? いや、充血してるだけですね。
「という事でして、ぼくがその店のオーナーの護といいます」
「そうでしたか。ですが、うちの娘はご迷惑をお掛けしてるのでは?」
「そうですね、働きぶりは問題ありません。接客態度も抜群ですし。まあ製作には向きませんが、仕事は製作だけではありませんからね」
ルナは恥ずかしそうに俯く。いや、別にいいんだよ、作るのが下手でも。上手い人がやればいいんだよ。世の中適材適所なんだから。だからぼくの仕事も少しぐらい減らないかな? ぼくに労働、それも対人のやつは向いてないんだよ。
「そ、そうですか。ですが、やはり、娘を雇うとご迷惑になるかと」
「それは先程仰っていたアッコギとかいうデブのことですかね?」
「そ、そうだ。何故それを知っている?」
「うちの店に乗り込んできましたからね」
「なんと! もうご迷惑をお掛けしておりましたか。それでお店の方に被害は」
「ああ、ちゃんと取り抑えましたし、軽微ですね。大丈夫です」
「え? しかし、やつは冒険者崩れの奴を雇って居て、そいつらはかなりの腕前だとか」
かなりの腕前? いや、そんな風に思えなかったけど。どう見てもやられ役の雑魚……あ、いや、だから新米冒険者は動けなかったのかな? もしかして動かなかったんじゃなくて威圧で動けなかった?
それ考えると平然とそれを手刀でノックダウンした黒狼が凄いのでは? うん、まあバックヤードでもあの格好なのはどうかと思うけど。
「うちの店には優秀な冒険者が護衛についてくださるので大丈夫です。それよりも、詳しい話を聞かせていただきたい。ぼく達は巻き込まれたのですから」
「そ、そうですな。分かりました。お話しします」
ルナにとっては曽祖父にあたる、お父さんの祖父の代からその息子、お父さんのお父さんの代に替わった頃には店も順調だった様だ。祖父さんは開発費用が高過ぎると職人たちの給与を落とした。これで利益が増える、と思ったのも束の間、職人たちがやる気をなくしてデザインが更新されなくなった。
曽祖父の頃だったら職人を大事にしたのだが、祖父は甘えだとつっぱねて更に報酬を減額した。そうすると契約をしていた職人がどんどん契約更改をせずに辞めてしまう。で、山師みたいな事業に手を出した。まあここまではルナから聞いた話と同じ。
その山師みたいなのをやるのに金を払って情報を仕入れては盗掘する。そう、やってるのは盗掘だった。そんなことがいつまでも続く訳もなく、盗掘していた従業員は捕まり、とうとう断念せざるを得なかったんだとか。で、心労で祖父は倒れて、お父さんが責任者になってまもなく息を引き取ったんだとか。なんとも迷惑な爺さんだ。
で、お父さんはお父さんで、そういう山師的なことは良くないと思ったものの、商売のアイデアも見つからない。そんな時に酒場で友達に会ったんだそうな。うん、いわゆる「おお、ワタシのトモダチ、売ってるものを見ますか?」みたいなアッサラーム商法的な友達である。




