第三十話:ぼく(分身体)、参上!
始動時にバランス崩すのはお約束
帝国御一行様がステーキに舌鼓を打っている間にぼくの分身体が出来上がったらしい。見た目は、うん、ぼくなのかな? 無駄な脂肪が無いから判別つかない。ぼくはこんな顔だったっけ? スリムなボディにしたのは見栄だ。人前に出るならちゃんとしないと。
そして服装。ぼくはジャージを着てるけど人前に出るのでスーツ。着るのは営業してた時以来だ。いや、着てるのはぼくじゃないけど。ネクタイの締め方なんて忘れてるから自分で着ろと言われても無理だな。
どうやって動かすのかと思ったらVRゴーグルを渡された。これで思った通りに動かせるらしい。いや、ニューロリンカーですか? 頭の中にワイヤは組み込まなくてもいいらしい。いや、組み込んだら大変だわ。ちなみにこのVRゴーグルもパペットマスターの付属品らしい。
ぼくはドアを出て階段を降りていく。なんか実体ではなくても緊張するなあ……うわっ!?
段差があると操作が難しく、ぼくはそのまま階段から落っこちた。厳密に言えば「ぼくの意識の入った、ぼくを素体にして出来てるパペットの分身体」なんだけど面倒だから「ぼく」ね。
「なんだ今の音は?」
「様子を見て参ります」
どうやらアインが様子を見に来るらしい。アインはぼくを見るなり「無様ですね」と言い放った。おい、忠実な下僕?
「ご主人様、首が曲がっております。常人では死んでますのできちんと直した方がいいかと」
「いや、どうしろと?」
「パペットマスターの画面から修復が出来るはずですが」
マジか? てことはアリスやアインもいじれるんだな?
「はい可能です。どうぞ、私とアリスの身体をご存分にご堪能くださいませ」
「そういう意味じゃねえわ!」
画面開いて十秒そこそこで修復完了した。あ、そういえば飲食って出来るのかな?
「おそらく私どもと同じで問題ないかと。もっともこれが食べてもご主人様のお腹には溜まりませんよ?」
むしろ溜まる方が怖いわ! そう思いながらドアを開く。ちょうどピザにかぶりつこうとしている皇帝と目が合った。うん、なんか画面見てるみたいだから人と目を合わせてるって感覚ないな。アドベンチャーゲームの登場人物と話してるみたい。犯人はヤス。
「我がザスカー帝国皇帝、ライハルトである!」
大音量の声が響いた。そんなに大声出さなくても聞こえるって。
「ほほう? 我が《獅子の威圧》を食らっても動じんか」
なんですかね、獅子の威圧って? よく見ると周りのアヤさん、ヒルダさんがへたりこんで立てなくなってる。アインとアリスは大丈夫そうだ。これはパペットだからかな?
「へ、陛下、なんて事を……」
「同盟相手がどんな度量なのか試さねばなるまい。ダメな様ならこのまま制圧しとったわい」
冗談なのか本気なのか分からないけど、あの大声で慣れてそうな帝国側の二人も立てなくなるくらいだから、きっと本体のぼくなら失禁してただろうな。
「試す様な真似をして申し訳ない。お名前を聞かせていただけますかな?」
「護といいます」
「ほう、マモォール殿と仰るか」
そんな鳥しらんがな。でもまあマモォールでもいいかなあ。あ、いやいや、条約締結するんだからちゃんとした名前書かなきゃダメじゃん。
「いえ、マモルです。よろしくお願いします」
「ふむ、なるほどな。では条約締結をしたいが、その前に……このピザというものを食べてもいいかな?」
「あ、はい。歓待のために用意しましたので御自由に」
そして皇帝陛下は美味しそうにピザに手を伸ばす。そしてピザのチーズも伸びる伸びる。唐揚げにはレモンとマヨネーズが添えられている。ぼくはレモンをかける派だけどかけたくない人も居るから勝手にかけたりなんかしない。
一通り食べてデザートの出番。ここはショートケーキでも良かったけどずっとそれだと飽きるし、皇帝が甘いもの苦手だったらいけないかなと今日はチョコケーキ。
「なんですか、この不気味な色は?」
ヒルダさんは怪訝そうに眉をひそめた。皇帝は興味津々だ。なお、アヤさんは美味いと確信してるらしくもうスタンバイしてる。
アインに切り分けさせてやると真っ先にパクついたのはアヤさん。一口口に入れると……
「何コレ!? ちょっぴりほろ苦くてそんで甘い! なんというか深みのある味わい。でも美味しい!」
皇帝もそれに続いてパクリ。
「ほう、これは甘ったるくもなく程よい苦味を持ってるが不快では無い。むしろこれがアクセントになっている。こんなのは初めてだ」
最後にヒルダさんがパクリ。
「甘い……でもほんのり苦い、大人の味。これは良いわね。癖になりそう」
「チョコレートケーキといいます。チョコレートというものを使ってまして、なんならチョコレート持って帰りますか?」
「是非!」
チョコレート溶けないようにドライアイスもつけといてやるかな。




