第二百八十一話:張り込み〜あんぱんとフルーツ牛乳を添えて〜
牛乳飲めないのは作者なんですけどね。お腹痛くなっちゃう。
アカネが学術都市とやらから帰ってくるまでは特段やることがない。せいぜいがあの商店を見張ってるくらいだろう。見張りのお供はあんぱんと牛乳。牛乳はあまり好きじゃないからフルーツ牛乳で代用。
もちろん、張り込みのイロハなんて知らないので、蜃さんに姿が見えなくなる幻影を掛けてもらってる。これでお風呂覗き放題とか思ったりするのかね? 正直ぼくは触れもしないのに見ても虚しくなるだけだと思うけど。え? 二次元も触れもしないだろって? いいんだよ、そっちはもう触れないことが織り込み済みなんだから!
「それじゃあセーラ、留守番してなさい」
「あの、お母様、今日もお出掛けなんですか?」
「何よ、文句あるの?」
「いえ……」
「変な子ね。行くわよアビニア」
「はい、お母様」
そして二人はまた馬車に乗っていく。何処に行くのかは分からないけど、商店主たる旦那が居なくてやりたい放題だ。となると番頭と組んだのは純粋に店の利権の為で不倫関係とかじゃないのかな。
ここ二、三日見張っているがいつも日が暮れるこの位の時間になると出掛けるのだ。勿論それまではセーラは蜃さんの執事喫茶に行ってるのだろうが。
「お嬢様ももうお休みになられては?」
「コビル、まだ店を開けておくのでしょう? お母様がいない以上はこの店の責任者は私です」
「奥様は私に店を任されたんですが?」
「父は何かあった時は私に店を任せると言っておりました」
「そんな言葉の証拠など何処にもありませんが」
「父が帰ってくれば分かることです!」
「そうですな、帰ってくれば、分かりますなあ」
番頭のコビルとか言うやつがニヤリと笑う。こりゃあこいつもなんかに関わってるな。もしかしたら共犯者だから奥さんがこいつに店を任せたんじゃないか?
しかし、このまま見張っとくのも暇だなあ。ゲームでもやりながら待っとくかな。なるべく分身体との同期は切りたくないから頑張って見てるけど。
コビルが中に引っ込むと店先でセーラがポツリと呟いた。
「お父様……早く、早く帰って来て……」
その頬には涙が流れていた。いや、さすがにぼくでもこの涙を「男に言うこと聞かせるための演技だ!」なんて言ったりはしないよ。家族の心配してる涙をそんな風には言わないんだ。第一、ぼくがここに居ることも分からないだろうしね。
「失礼、こちらを貰えますかな」
「あ、はい、申し訳ありません。こちらですね」
「何か泣いておられるようですな」
「お客様の前で申し訳ありません」
「良いのじゃよ。まだ若いんじゃからなあ」
「ありがとう、ございます」
「やまない雨はないんじゃよ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げるセーラさん。ええと、蜃さん、口説いてんですかね? あれ、蜃さんが変化してる爺さんだよね?
「こちらにずっと居られたのですかな?」
「何故分かった!?」
「それはそうでしょう。私が自分でかけた幻覚が分からなくなるわけが無い」
「いや、まあ一度こういうのやってみたくて」
「それで、何か分かりましたかな?」
「そうですね、毎日のように日暮れ過ぎになると奥さんと娘が出掛ける事かな」
「つまり大して分かっていないと」
「まあそうかな」
そりゃぼくも見張っては居るけど情報収集のプロじゃないんだから、そういうのはエージェントか誰かに言ってもらわないと。
「御館様、聞こえますか?」
「おっと、その念話はアカネだね。学術都市かい?」
「はい、学術都市に到着したのですが。その、セーラさんのお父君ですが、既に学術都市からは出発している模様です」
という事は商売上のアクシデントで出発が遅れたとかそういう事では無いのか。
「いえ、実際アクシデントはあったようですが、そこまでなアクシデントでは無く出発したのも二週間くらい前だそうで」
「という事は帰路についてる途中という可能性も」
「ですが御館様、私はすれ違いませんでしたが」
なるほど。アカネは帰りに遭遇することも考えて短距離転移でなく加速で移動したらしい。移動には特化してるからそれくらいのことは出来るんだけど。
「となると何処かで襲われてる可能性があるな。悪いんだが途中にある村とかを探してくれないか?」
「村、ですか?」
「そうだ。襲撃されたけど逃げ延びたとかそういうやつかもしれないしね」
「逃げ延びられなかった可能性もありますが」
「その時はその時だ。それは仕方ないだろ」
なるべくならそういう可能性は無い方が良いんだけど。でも時間は巻き戻せないからね。ぼくには時術魔法の素質は無いんだ。というか時術魔法自体あるのか分からないけど。時の君のいるリージョンはどこだ?
アカネから「セーラさんのお父君が見つかりました」との連絡が入ったのはそれから更に二日程後の事だった。見つかったのか、それは良かった。いや、良かったんだけど、ちょっと問題みたい。




