第百七十八話:もしもし亀よ亀さんよ。世界のうちでお前ほど。身体のデカいものはない。
どうしてそんなにデカいのか(説明不要!)
川下から上ってきたそれは、みるみるうちに大きくなっていった。いや、物理的にデカくなったんじゃなくて近付いて来たから大きく見えるようになっただけなんだけど。
小山かと思う程のその影はそのままぼくらの前を通り過ぎようとして止まった。
「ア、アーケロンだー!?」
どうやらこいつの名前らしい。騎士の人が知ってるようだ。
「アヤさんはアーケロンって知ってる?」
「当たり前じゃないですか! 二百年に一度現れるっていう生きる災厄ですよ!」
「亀だけど」
「アーケロンです!」
いや、ぼくにはどう見てもデカい亀にしか見えないのよ。それになんでここで止まって……
とか思ってたらアーケロンが大きな口を開けて噛み付いて来た。もしかして、ぼくらをおやつかなんかとでも思ってるのか?
「主様に、触るな!」
噛み付きに来た頭をアリスが思いっきり殴り飛ばす。少し亀が浮いた様な気がした。
「GYAGO?!」
なんかびっくりしてるみたい。まあ、そりゃあぼくだってコ〇ラのマーチを食べようとして蹴りかまされたらびっくりするけどさ。
アーケロンはそれでも構わんというように更に襲いかかって来た。頭はあまり良くないのかもしれない。まあ爬虫類だもんね。いや、本当に爬虫類かどうかは分からないけど。
アリスは素早く頭の下に潜り込むと、上にかち上げる様に蹴り上げた。水の抵抗もあったのに、甲羅ごとアーケロンが後ろにひっくり返った。
亀の甲羅は確かに硬い。まあ元々は骨格だったと言うからそれが重なって出来た甲羅は硬いに決まっている。特にここは異世界だ。伝説の金属みたいな名前の亀だっているかもしれない。だから甲羅を攻撃するのは愚策である。
翻って、腹部だ。亀の腹部は普通に下側にあるから泳ぐときぐらいしか外に晒さない。そして水中だと亀は俊敏……あ、いや、こいつは違うんだろう。ともかく、腹なんか晒した事は無いはずだ。
「ちぇすとぉー!」
お前に捨てる知恵があるのかと言いたいところだが、一撃かますときの掛け声はチェストであるべきだろう。掛け声と共に振り下ろされた手刀はアーケロンの腹部にめり込んだ。
「GYAGOOOOOOOO!」
大絶叫をあげて逃れようと右に左にと動く。しかし、甲羅が邪魔で動けないのかジタバタするばかり。こうなってしまうとあとは弱いものである。
「か、かかれ!」
それまで呆然と見ていた騎士たちと兵士たちが
一斉に向かっていった。アヤさんは「えやー、おりゃー」とか口で言いながら寝っ転がっていた。やる気ねえなあ!
殆ど動かなくなったところで騎士たちに託して最悪の事態に備えてるのかもしれない。そなえよつねに。なんでアインさんにサンドイッチ頼んでんだ? そしてアインもなぜ出す?
「ご主人様も御一緒にどうでしょう。魔物討伐を見ながらの食事です」
「みんなが働いてるのにぼくが食べてていいのかね?」
「何を仰ってるんですか。今までもみんなが働いてるのに我が道を往くだったじゃないですか」
「ぐふぅ」
まさかアインからクリティカルヒットを貰うとは思わなかった。造物主に対する配慮とかないんか? 世界はもっとぼくに優しくしてもいいんじゃないかな?
「第一、ご主人様があそこに行かれても姉様の気が散るだけで邪魔です」
「ぐほぁ」
畳み掛けるようにボディブローのような言葉を放ってくるアイン。いや、本当に役立たずで申し訳ない。
「主様、ストレージをお願いします!」
アリスがぼくに声を掛けてきた。あ、なるほど。アリスのストレージじゃなくてぼくのに入れるのはぼくの能力という事にしたいからだな。いや、実際はアリスのもぼくのも等しく「家」のストレージだから回収は同じなんだけど……
え? ぼくの方から入れるのだけ入口が広いの? アリスたちのは簡易版だからそこまで一気に入れられない? うむ、ぼくの活躍の場はここだったのか! いやいや単なる荷物持ちじゃん! よし、じゃあお望み通り特別なストレージで……あれ?
「ご主人様、本体でないとダメなのでは無いでしょうか?」
な、なんだって! いや、そりゃあまああれだよ。ぼく本体じゃないとダメだろうよ。さっきの理論で言えばね。そこまでする事もな……あ、なんかみんながワクワクした目で見てる。これはダメかなあ。
「アスカ、ちょっと手伝って」
ぼくは本体で階下に下りていきアスカに姿を消させて川のところで待機させた。【入城】。本体を外に転移させて入れ替えるやつ。
「近くで見ると大きい」
ボソリと呟いて、アーケロンの側に行ってストレージに収納した。ぼくがやるとアーケロンの巨体は瞬く間にストレージに入った。売ろうかなって思ったら「売却不可」って書いてあった。あんまりだ!




