第百五十一話:壁に耳あり、障子にメアリー。あなたの後ろに居るのはメリーちゃん
なんでアリスが護の個人情報に詳しいのかはまあ推して知るべし。
さて、レベルアップの事はまあおいといて、ぼくが御使い?使徒?とかいうものだと分かったらレナさんと騎士団の人たちが平伏してしまった。いや、助かるよ。ほら、まともに人の顔見られないし。生身だもん。
「おお、フォルトゥーナ様、御使い様、降臨していただき、大変な僥倖にございます」
言葉遣いまで大仰になってるんだけど? いや、その、もっとこう、すんなりと話して欲しいなあ。
「ん〜、お兄ちゃん、さっきと違うの?」
ミラちゃんが頭にはてなマークを浮かべたような顔をしながら言った。えっ、なんでわかったの?
「ええと、さっきのお兄ちゃんよりも横に拡がってるの!」
ぐふぁ! いやまあ、そりゃそうだよ。外に出ないで食べる事だけはしているんだから。分身体動かすのもカロリー使うとはいえ、そこまで凄まじいエネルギー消費はしないからね。
「言われてみればご主人様は少しふとましくていらっしゃいますね」
「そうなんだよ、アインのご飯が美味しいから」
「私のご飯よりもカップ麺の消費量の方が上なのではないでしょうか?」
いやいや、ちゃんとアインのご飯は作り置きの時も含めて三食食べてるよ! だからカップ麺の方が消費量多いってことはない!……かもしれない。
「昨日は十時のおやつと三時のおやつと夜食で食べていらっしゃいましたよね?」
バレテーラ。おかしいな、誰も見てないと思ったのに。
「アリス姉様に教えていただきました。心配されていらっしゃった様ですので」
「??? う、うん」
なんでアリスがぼくの行動を知ってるのかは分からないけど、アインが言うなら根拠の無い事じゃないんだろうな。
「それでお兄ちゃんは誰なの? 偽物?」
「ミラ! 御使い様になんという事を! お、お許しください、この子はまだ幼いのです」
「シスター、私はもう大人なのよ」
「あなたは黙ってなさい!」
半泣きになりながらミラちゃんをどやしつけるレナさん。ミラちゃんはそれを聞いてビクッと身体を震わせ、ごめんなさいってわんわん泣いてしまった。ああ、もうめちゃくちゃだよ!
「あ、あ、あ、あの、その、泣かな、いで?」
スマートに涙を拭えれば格好もつくんだけど、そんなことが出来るわけが無い。ミラちゃんに声を掛けるだけで精一杯だ。むしろこの進歩に賞賛を与えて欲しい。
「ご主人様、こういう時は飴玉がいいと思います。さあ、レッツ餌付け」
アインは何を言ってるんだろうか? いやでも飴玉はいいかもしれない。ネットスーパーでカバンの中に飴玉をざらざらさせたくて買ったり、缶に入った三九〇ドロップとか食べたくて買ったりしてたもんな。とりあえず、ハッカ以外の飴をあげよう。
ぼくはハッカとかミントとか好きなんだけど、ああいうズーズーする系は子どもにはウケが悪いからなあ。やはり単純に甘いのがいいのだろう。誰だ、歯磨き粉とか言ったやつは!
「これ、あ、あげる」
手に出して渡すと手汗がすごくなってるのがバレちゃうし、飴がベトベトになるので、缶を振ってハッカじゃないのを確認して出してやる。色が赤だからリンゴかストロベリーだろう。
「これ、なんなの? 媚薬なの? 私が美少女だから一服盛るつもりなの?」
いや、美少女というのは否定しないであげるけど、君にはぼくが一服盛る様に見えるのかな? 見えるよね、そうだよね、怪しいよね。本当にごめんなさい。生きててごめんなさい。
「美味しいの! すごいの! 甘いの! 幸せなの!」
一服盛るとか言ってた割にはそのまま食べた様だ。泣いてたのに涙が引っ込んでぴょんぴょん飛び跳ねてる。
「フォルトゥーナ様、御使い様、重ね重ね申し訳ありません」
レナさんが本当に深々と頭を下げる。騎士団の人たちも頭をあげてない。フォルトゥーナさんはそんな彼女たちを普通に立たせた。
「私は一時的にこの世界に降臨した身。過度な干渉はしません。私の子たちよ、自分に恥じず生きなさい」
「ありがとうございます」
そうしてるとフォルトゥーナさんの身体がだんだん薄くなってきた。これは時間切れかな?
「護さん、そろそろ地上での滞在時間が限界の様です。家の詳細はフォルテに言ってもらえれば出来るようにしますから」
「あ、はい、ありがとうございます。その、体型詐称はやめた方がいいんじゃ」
「しつこいですね! いいんですよ! せめて下界だけでも私の自尊心を満たしてください!」
そんなことで満たされる自尊心って意味があるのだろうか? あ、いや、フォルトゥーナ様が居なくなるって事はぼくに視線が集中するって事!? そ、そ、そ、そ、それは何とかしないと! アスカ! ぼくとフォルテを連れて自宅に転移! その後分身体をここに入れ替わりで設置な!
「後でマヨネーズ」
「わかった」
という訳でみんなの目がフォルトゥーナさんの昇天に釘付けになってる間にぼくは家に戻ってきた。ふうやれやれ。




