第百四十二話:最後の悪あがき
戦いには美学があるべきだと思う時もあります。
「主様を操るだなんて許せない。メタメタのギタギタにしてやる!」
「くっ、何故だ、何故私の術が効かんのだ!?」
驚愕の表情を浮かべるクラウザー。確かに精神に干渉する能力があれば対人戦では無敵だろう。今まで官憲に踏み込まれないできたのはその能力が原因なのかもしれない。
アリスたちはパペットで良かったよ。もし、反逆されたらぼくじゃ手に負えないもんな。
「地獄で償え!」
アリスがまず机を上に蹴飛ばす。重量がトン単位はありそうな机が宙を舞ってそのまま後ろに落ちる。アスカが少し避けて机は床に激突した。
「ひいいいいい」
クラウザーは椅子から転げ落ちて腰を抜かしたのか這うようにして逃げようとしている。まあ逃げられないとは思うけど。
と思ったら伝声管みたいなものに辿り着き、蓋を開けると声の限りに叫んだ。
「お前ら、敵襲だ! 早く迎撃しろ! 命令だぞ。命を賭して戦え!」
階下から上がってくる音が聞こえる。確かにこの男の能力だと大人数を扇動するにはもってこいだよな。下手すると帝国転覆なんて事出来てしまうかもしれない。
そうなるとヒルダさんの仕事が増えるよね。いや、転覆なんて成功しないと思うよ、あの皇帝陛下とヒルダさんだもん。
「姉様、下は私が」
「アスカちゃん、頼むね」
アスカは廊下に出ると上がってくる奴らがこの階に到達したのを確認して最初のやつが足を掛けた瞬間
「〈腐蝕〉」
階段の一番上の段を腐り落ちさせた。先頭を上っていた男は床板を踏み抜き、バランスを崩して倒れ込む。そこに後続の奴らが前に出たものだから男を踏んでしまい、更にバランスを崩して倒れる。後は将棋倒しに階段に居たヤツらを巻き込んで落ちていった。
呪文は使い方次第だな。でもまだ安心は出来ない。続いてそいつらを避けて上ってくる。
「〈凍地〉」
今度は腐った床板の一歩先。そこを凍らせた。普通に地面でもない所を凍らせるのは至難の業だと思うけど、平然とやってのけた。
当然ながら床に足を滑らせてまたも階段を落ちていく。まあスパイクとか靴に着いてないし、耐滑ソールとか以ての外だろう。
それでもバランス感覚のある奴は二、三人は居るらしい。そのまま上がってきてアスカに迫ってきた。
「魔法使いなんざ、接近しちまえばこっちのもんだ! その胸、揉ませてもらうぜ!」
いや、お前の目的はクラウザーを助けることだろうがよ! やはりおっぱいは全てを払拭するのだろうか。ぼくは別にどっちでもいいです。
「〈魔弾嵐〉」
アスカの後ろから魔力の弾丸が嵐のように吹き荒れた。上がってきた奴らは残らず弾丸に撃ち落とされその場に這いつくばった。
「アスカ、最初からそれで全部撃墜すれば良かったのでは?」
「力押しは美学に反する」
どうやらアスカなりの美学があるらしい。なんだろう、どこで覚えたんだ? そういやなんか戦隊モノのブルーレイとかアリスと一緒に観てたな。
さて、部屋の中では仁王立ちしてるアリスと未だに這いつくばってるクラウザーがいる。クラウザーは吠える。
「今に部下たちが来てみろ! 貴様らなんぞ多勢に無勢でお終いだ! そうしたら貴様らを思う存分弄んでやる! そうだ、部下たちに代わる代わる楽しませてもいいな」
アリスにはドアの外の様子が何となく分かっていた。アスカの魔法は日頃一緒に狩りをしてるんだから把握済みらしい。それにアリスには全部報告してるらしい。これが姉妹の絆というやつかな?
「なかなか来ませんね?」
いつになく優しい声でアリスが言う。顔はニヤけてるが目は笑っていない。
「それで、私を、どうするんでしたっけ?」
「バカな、バカな、バカなバカなバカなバカなバカなバカな!」
「バカはあなたでしょう、お・バ・カ・さん」
ニッコリ笑うとアリスがクラウザーの右足を踏み抜いた。迸る激痛からか声にならない悲鳴をあげる。
「右の足を踏み抜かれた、左の足も差し出しましょう」
ぼくはキリスト教徒じゃないけど、それはきっと違うんじゃないかな? アリスは差し出されてない左の足を引き摺り出して、踏み抜いた。これで移動が出来なくなった訳だ。
「主様を惑わしたのはこの舌が悪いんですよね? 邪魔な舌だから引っこ抜きましょう」
「アリス、それはストップた。それは死ぬからやめなさい。せめて顎を外すくらいにしておいて」
「主様、また操られてる?」
アミタが「こんなこともあろうかと」とでも思って持ってたのかさっきのクソマズ薬を取り出す。
「いや、正気だから。さすがに帝国の司法に任せよう」
「えー、あのビールオヤジに任せるの?」
「……皇帝陛下じゃなくてヒルダさんを信じろ」
「やっぱり主様は大人の女性の方が好きなの!?」
そんな話はしてねえだろ!




