アマネとアリップ
「おはようアリップくん」
「おはようございます。店長」
「うんうん。しっかり目を見て、ハッキリと声出して挨拶出来てるねぇ。前と比べて凄い進化だよ。髪切ってコンタクトにしてからいい感じじゃない」
「そうですか? ありがとうございます」
「うんうん。今の君なら、任せられるかな。新人の教育」
「……え?」
「いやね、今日から新人さんが入って来てね。今着替えてるから、もうすぐ来ると思うんだけど……その子の教育、アリップくんに頼みたいんだ」
「は、はぁ……でも、なんで僕なんですか? 他にも、何でも教えられる先輩、たくさんいるのに……」
「それがねぇ、その子の注文なんだよね」
「……はいぃ?」
「『私、チャラい男、大嫌いなんで、小さくて、趣味に生きてるような人畜無害の、最近になって髪を切って眼鏡をやめて社交的になり始めたような人がいいです』って」
「何ですか……その具体的かつピンポイントなリクエストは……」
「そんなヤツいねーよって思ってたら、いるんじゃんここにねぇ、あっはっは」
「いやあっはっはじゃなくて」
「そんなワケでアリップくんにお願いするよ。あ、丁度きたきた」
「……ッ!?」
「こちらの、アリップくんにキミの教育係をお願いしようと思います。挨拶して」
「はい。はじめまして。アマネって言います。ご迷惑をおかけしますが、ご指導よろしくお願いします」
そう言って彼女は右手を差し出した。
「……ハジメマシテ。アリップです」
真っ白な頭でその手を取るアリップ。
「ど、どうかなぁ? 一応キミのリクエストを全部満たしてると思うんだけど」
「はい。ありがとうございます店長。ワガママ言ってすみません」
「じゃあ、アリップくん。あとよろしく!」
「……マジスカ」
「ふふ……マジデス。やっぱり、手、小さくて、綺麗だね。でも、長くて、しなやかで、ちゃんと男の子の手」
「あ、あの……あのあのあの、あの時は――」
「よろしくね……先輩」
戦いの末、何も残らぬ焼け野原だと思っていても、知らぬ内に撒かれていた種が、芽吹くことも、ある……?




