趣旨説明は突然に
「うんどーかい?ってなんですか?」
気絶から復活したリオ君が首を傾げながら声を上げると、アシュレイさんが待ってました、と言わんばかりに胸を張り答えました。
「よく聞いてくれたな、ボウズ。
今回は我が王が初めてご出席される記念すべき祭りだ。それを単純な祭りで終わらせていいのか?いや、それは盛大に、そして感動的にしなければならないのだ!
開催地の俺たちは三日三晩考えた。格闘系の血生臭いものは却下、我が王がお好きなお茶会は両隣り争奪戦で死人が出ることが予想された為に却下、仮面舞踏会も同じ理由で却下された。そんな出した案を即座に却下される悲しく虚しく過ぎる日々と俺たちの苦悩。
所詮は感動と平和的行われる都合のいいイベントなんてどこにもなかったんだ」
アシュレイさんは会場内に道具が設置されるのを眺めながら、その時の苦悩を思い出してでもいるのか悩ましげな顔で首を振りますが、平和的なイベントなんて腐る程ありますが?舞踏会や劇が危険って……あ、もしかして武闘会?…え、違う?踊るやつ。そうですか、最早私には彼らの思考は理解できません。
はぁ、私的にはお茶会でさっさと終わらせて帰りたかったですよ。
「そして俺たちは始まりの書物の中に発見したんだ。スポーツマンシップを伝えた女神の口伝を!そして運動会を!」
まぁ、スポーツマンシップにはいがみ合っている者同士でも同じ競技をする仲間として、と言う意味合いもありましたが…元の元凶は女神ヨーコさんでしたか。
「スポーツマンシップはフェアプレーの精神で正々堂々と戦うものらしい。しかも最後には勝った相手も負けた相手も手を取り合い健闘を讃え合う感動的な終わり方だ。俺たちはこの文を読んだ瞬間、これだ!と思ったぜ。
そして運動会とは赤組白組に色分けされた人数を二つに分け、いくつかの決められた競技をプログラムに沿って進行しながら勝敗を決め勝ちが多かった方が優勝するらしい。
しかし女神の口伝は神の言葉、中には意味がわからないものも多くてな。結局俺たちが勝手に解釈した部分もあるが問題は無いだろう」
問題大有りです。
「ふ〜ん、アゼルとガイラルが白組でレイラとルトが赤組か。守護竜を二つに分けて後は適当に人数を分けたのね。
まあ、妥当なところだけど種目別で出場する人は決まってるの?アゼル達は今まで知らなかったみたいだけど」
セシリードさんがいつの間にかプログラムを広げてました。あ、私も見たいです。
横から覗くと箇条書きで書かれてます。ちゃんと時間帯まで決めているんですね。ほー、先ずは玉入れからですか、リレーに綱引き、お昼休憩までしっかりあります。良かった、まともな種目そうで本当に良かったです。
「一応出る人数は決めているが、出たい奴が出るかたちだな。
どうだ、お前達も出てみるか?飛び入り参加も大歓迎だぞ」
「見るのも面白そうだけど、どうせなら参加したかったのよね〜」
「僕も出たいです!」
「ギャオス!」
こらこら、貴方達。ぷちっと潰されますよ。
むー、ガイラルさんと張り合えるセシリードさんなら大丈夫ですが、リオ君達は無理ですね、第一魔力体力が違いすぎますし…………ああ、ハチと一緒に目をキラキラと。……く、任せて下さい。意地でも何とかしてみせましょう!
なになに……あ、これならば安全かも。多分、きっと。
「ではこの借り物競争はどうだ?
これは紙に書かれた指定の物を周囲の持っている者に借り、そのままそれを持ってゴールするんだ。どちらかと言えば運次第だからな、出場する者は人化出来る者限定にすればいい」
「おお、流石は我が王。よくご存知でしたな」
「へー、面白そう。あたしそれに出たいわ。ふふ、これ訓練に取り入れてもいいわね」
「僕も、僕も!」
「ギャオス!ギャオス!」
「いや、ハチは字が読めないだろう?」
が〜んっと、ムンクの叫びの様な顔になったハチでしたが、最終的にはリオ君とペアで出場することになりました。
個人で出たかったのかしょんぼりするハチを宥めていると、そこへ識別の為に白いスカーフを巻いたアゼルさんが近づき絶世の美貌で微笑まれます。
ひー、な、何ですか!?鱗もご尊顔もキラキラで目が眩しいー。
「私アゼルは、我が主様にこの試合の勝利を捧げましょう」
「………」
……はっ、思わず見惚れてしまいました。顔はいいんですよね、顔は。
流れる様な動作で一礼し、会場に向かうアゼルさんの後ろ姿もまた優美です。……容姿端麗、文武両道、天は二物も三物も与えている代名詞のようなハイスペックなお方ですが、如何せん性格が。
周囲のおどろおどろしい視線に気付いている筈なのに、歯牙にも掛けない視界に入れない周りは全て空気。
敵どころか味方にまで敵認定されてますよ。
アゼルさん、玉入れに出場するらしいですが大丈夫でしょうか。
さてその玉入れですが、一般的には布でくるんだ中身は小豆や米、おがくずなど各家庭いろいろですが、今回このイベントの為に用意された中身には、巨大豆をぎゅうぎゅうに詰めたお手玉。私達のサイズに合わせたちょっとした米俵サイズです。
しかし豆を詰め過ぎです。当たったら相当痛いでしょうね。
赤と白の布に包まれた沢山の米…いえ、お手玉の移動を手伝おうと両手でむんずと掴みリオ君がえい、とばかりに必死で持ち上げようとしてますがピクリとも動かない傍でハチが口に咥えヨロヨロと向かう横をセシリードさんが軽々と二つ両手に持って歩いています。
何か和みますね。
着々と準備されていくのを見ながら、ふっと疑問が浮かびました。
あれ?
深いザルみたいなのじゃないんですか。普通は竿の先に付けて高い位置に置くんですけど、地面に置いたあの長方形の籠、サッカーのゴールポストに似てません?
え、何故赤組白組が向かい合ってるんですか。お互いが巨大豆入りお手玉を握りしめ睨み合って、、いえアゼルさんを睨んでいます………これは。
高まる緊張感の中、アシュレイさんの開始の合図と共に渾身の力で投げつけられたお手玉が弾丸の速度で目の前を通り過ぎました。
違う。
私の知っている玉入れと違います。
ゲームのし過ぎで文をペチペチ打つ右手が怠い痛い重いです。
( ̄◇ ̄;)




