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越後屋さんは突然に

ふふ、ふふふふふ。


今は、見た目も年齢もピチピチのお年頃(ドラゴン基準)ですが、前世の記憶がある私にその言葉は禁句なんですよ〜。

ふふふふふ。そういえば、使えない媚を売るだけの後輩が、トイレでクソババア呼ばわりをしていましたね〜。周りはちゃんと確認しないと。ふふふ。結婚適齢期なんて本人の自由なんですよ〜。人を干物女呼ばわりですか〜?ふふふふふふふ。



「……あの〜リン様?」

「…っ。何だ?」

「そろそろですね〜、そのガキ離さないと窒息するかな〜なんて」


………ガキ?

はっ!?ぶら下げているのを忘れていました!

見ると抵抗も止み、猫のようにブラ〜ンと垂れ下がってます。

慌てて地面に降ろすと、もう一人の少年が泣きながら寄ってきました。


「ゔゔぅうあ〜〜〜んっっ!!!兄ぢゃん、じなないで〜〜!!」



涙と鼻水でグチャグチャの顔で兄と呼んだ少年に取りすがります。

周囲の人達も、「大丈夫だ、まだ息はある」「しっかりしろ!」「皆のお金を出し合えば何とか足りるわ。これで医者に」「老い先短いワシの前に死ぬんじゃないぞ〜」など、弟君は別として、やたらとノリが良い住民達ですね。

…ところで貴方達。そんなに私を犯罪者に仕立て上げたいのですか?




「…死ぬかと思った〜、っていい加減に離れろよ」

「兄ちゃ〜ん、良かった〜」

ようやく体を起こした少年に弟君が抱きつきます。

そこへ大きなお腹を揺らしながら息を切らせて男の人が駆け寄ってきました。



「足止め助かったぞ…こらクソガキども! よくも大事な品物を壊してくれたな!」

「な、なんだよ!そっちが押したからじゃないか!」

「そうだそうだ!僕達品物を見ていただけなのに!」

「うるさい!だいたい、うちの店にはお前達が買えるような程度の低い品物はないんだよ!よりにもよって巨匠の作品を〜!弁償してもらうからな!孤児院のマザーにも責任を取ってもらわなければな」

「マザーは関係無いだろ!」

「お前達の保護者だろうが!一体どういう躾をしているんだ」


「…マザーとは誰だ?」


果物屋さんの女性に尋ねると気の毒そうに見ながら答えてくれました。


「教会の司祭兼、孤児院の院長だよ。孤児達を育てている優しくて素晴らしいご婦人さ。…でも相手が悪いね。アイツは古美術商をしてるけど、あんまりいい噂を聞かないよ。貴族とも繋がりがあって、裏ではかなり悪どいことをやってるとか聞くけどね」



ーー時代劇に出てくる越後屋さんのような人ですね。

なんとなくですが、品物を見ていたあの子達を孤児だからと馬鹿にし、押して追い出そうとしたところ、ぶつかって商品が壊れた、といったところでしょうか?

逃げたのは後で叱るとして、大の大人が子供に対してあの態度はいただけませんね。

すると、リオ君が彼らに駆け寄りなんと二人を庇ったのです。


「二人とも泣いていますよ?何で虐めるんですか?」

「なんだこのガキ?…そいつ等は悪い事をしたんだ。だから今から罰を受けなきゃならないんだよ」

「でもおじさんが押したから壊れたのですよね?

じゃあ、おじさんも罰を受けなきゃ駄目です」

「何で自分の店の商品を壊されて罰を受けなきゃならねぇんだ!…もういい、関係無い奴はあっちに行ってろ」

「分からないです。どうしてですか?

長老様はきちんと教えてくれますのに」

「うるさい!」


そう怒鳴るとリオ君を払い除けようとしましたが、許しませんよ!

足に力を込め一足飛びで越後屋さんの横に着地します。

ジルさん達も咄嗟に動こうとしましたが、私の方が身体能力は高いんですよ?ふ。怒ると金髪になる某宇宙人にも引けは取りません。



「な!?何だお前!?」

「何を壊したと喚いている?鬱陶しい。

だいたい本当に壊れているのか?」

「なんだと!?見てみろ!巨匠レオダルド作の女神像に亀裂が入っているだろうが!」


見ると陶器の様なもので作られたビール瓶程の大きさの白い像に胸の辺りから下まで一直線にヒビが入っていますが……それにしてもレオダルドって。咄嗟にツッコミを入れなかった自分を褒めたいです。



「…どこにヒビが入っているんだ?」

「何処を見てるんだ?ここから一直線に……!?」

「何処にだ?」

「亀裂が無くなっているだと?」



周りはざわつき少年達も目を真ん丸にしています。

残念ながら鏡はありませんが、我ながら意地悪な顔をしているでしょうね。

お察しの通り、魔法でこっそり直しました。言うほど簡単ではなく、其れなりに魔力とコツが要るのですが、魔力の流れを感じたのかダンジュさんは絶句しているようですね。



「何処だ?」

「そんな!?確かにあったんだ!お前達も見ただろう!?」

「例え壊れていたとしても、今元通りなら問題はないだろう?」

「いや、しかし…」



渋る越後屋さんの耳元にそっと囁きました。


「わざと孤児院の子供に難癖をつけ、あわよくば教会に飾られてあるオリハルコンの創生神像でも欲したか?…床下に金貨が山のようにあるのにまだ欲をかくのか?」


越後屋さんがギョッと目を剥き、信じられない様な目で私を見ました。

ふふふ。ビックリしてますね〜。


【この人キラーイ。嫌〜な目で夜に下から金貨だっけ?あれ出して一枚一枚数えてるんだよ〜】

【知ってるよ〜。怖いよね〜】

【そう言えば、この間教会を見ながら創生神様の像が欲しいってブツブツ言ってたぜ】

【私も見たよ。自分に相応しいとか、どうやって手に入れようかとか言ってたよね】

【そうそう、それにアイツ騙して人の家を奪ったんだぜ】

【それに…】


まあ、出てくる出てくる。

ありがとうございます。精霊ちゃん達。

貴方達のおしゃべりはどんなスパイよりも優秀です。



「ワシを脅す気か!?こっちには偉いお方が後ろにいるんだぞ!」


なんの。こっちには魔王様アゼルさんが私の後ろにいるんですよ!



「ここで色々喋ってもいいのか?」

「…くっ。覚えていろよ!」


悪役の捨て台詞で来た道を走りながら戻って行きました。……後で精霊ちゃん達に、アゼルさんに告げ口してもらうようにお願いしましょう。



「アイツがあんなにアッサリと引くなんてアンタ凄いよ!一体何を言ったんだい!?」

「主様、ありがとうございます!」

「護衛が遅れをとるなんて…」

「落ち込むなダンジュ、あの方は規格外だ」



「…あ、あの…」

そこへ孤児院の子供達がまだ赤い目を擦りながら近づいて来ました。


「あの………ありがとう」

「お前達を庇ったのはリオだ。礼ならリオに言ってくれ」

「あ…。リオ…だったっけ?俺はニック、こっちは弟のトーマス。その、ありがとう!」

「ありがとう〜」

「リオです。どう致しまして、です。悪いのはあのおじさんです。お目々が赤いけど大丈夫ですか?」

「ああ、へっちゃらだ!」

「へっちゃらだもん!」



心温まる少年達の姿に皆さんホッコリしてます。ちゃんとお礼を言える子供達です。きっとマザーさんの教育がしっかりしているのでしょうね。

ーーしかし、言うべき事は言わなければいけません。



「お互い無事を確認しあったところで、二人ともそこへ座れ」

「へ?何で?」

「お前達には私からの説教があるからだ。そこへ正座だ」


リオ君が綺麗だと言ってくれた笑顔を浮かべてみたのですが、何故に皆さん顔が青くなっているのですか?




ーーーババア呼ばわりを忘れたわけではありませんよ?





















リオ君がヒロインでいいような気がしてなりません。(汗)

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