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18.校外実習

 翌日、俺たちは校外実習のため、学校から少し離れた森へとやってきた。天気は良く、絶好の実習日和だった。



「みんな、今日は実践的な魔法の使い方を学ぶぞ。自然の中では魔力の流れが学校とは違う。それを感じ取ることが大切だ」



 エルトリンデが同行するということもあり、緊張していた生徒たちは目を輝かせて頷いている。とある事情の為参加している生徒は少ないが皆熱心である。特にテレサは一番前に立ち、熱心にメモを取っていた。彼女の向学心には本当に感心させられるものだ



「先生、この植物から魔力を感じます! すごいですね!!」

「よく気づいたね。この森に生える青苔は魔力を蓄える性質がある。昔は魔法を使う時の触媒として重宝されていたんだ」



 興奮した様子のテレサに説明していると、ふと昔の記憶が蘇った。エルトリンデと二人で王宮の裏庭で魔法の練習をしていた日々。彼女が初めて魔法陣を描いた時の誇らしげな表情が懐かしい。



「アスト先生、大丈夫ですか?」



 心配そうにこちらの顔をのぞいたテレサの声で我に返る。どうやら少し考え事をしていたらしい。



「ああ、すまない。ちょっと昔のことを思い出していたんだ」

「もう、先生ったらしっかりしてください。エルトリンデ様もいらっしゃるんですよ」


 こそこそとこちらに耳打ちをするテレサの言葉の通り、少し離れた場所には、エルトリンデが立っていた。

 彼女は相変わらず無表情だが、なぜか俺とテレサを睨みつけるように見つめていた。その後ろにはアンビーが周囲を警戒するように立っていた。



「アスト先生、この森は危険ですね。私の故郷では、こんな森に入ると十人中八人は帰ってこないと言われています」



 突然、アンビーが俺の横に立って言った。テレサが驚いて小さく悲鳴を上げる。



「そ、そんなことないよ。この森は学校の管轄内だから安全だよ」

「そうですか?でも私の目には少なくとも七つの殺傷ポイントが見えます。あの木の枝は首を絞めるのに最適ですし、あの岩は頭蓋骨を粉砕するのに十分な重さがあります」


 生徒たちが青ざめた顔でアンビーを見つめる中、俺は慌てていると、突然、一人の女性との声が響く。



「エルトリンデ様! お願いします!」



 声の主は、学校の女子生徒のイザベルだ。元々はアーノルド先生の教室の生徒であり、今回の授業にどうしても出席したいと言っていたので同行させたのだが……

 彼女はエルトリンデに向かって走り寄り、地面に膝をついた。



「アーノルド先生を復学させてください! 彼は確かに過ちを犯しましたが、私たち上級クラスには彼の教えが必要なんです!」



 だが、エルトリンデは冷たい目で彼女を見下ろした。



「あの男は自分の限界を知らず、他者を危険にさらしました。そのような者に教師の資格はないと思いませんか?」

「ですが……アーノルド先生はわが校のために色々と尽くしてくれていたんです。いつか宮廷魔術師を育て、エルトリンデ様を守れる魔法使いになりなさいと……魔王殺しの英雄のように素晴らしい人間になりなさいって……あなたにいい所をみせようとやりすぎてしまっただけなんです!!」

「……」



 さらに食い下がるイザベラにエルトリンデが困ったように眉を顰める。そして、ため息をつくとこういった。



「わかりました。このまま話していても授業の邪魔になるでしょう。あの男がアスト先生に頭を下げるというのならば今回の事は不問にしましょう。アスト先生もそれでよいでしょうか?」

「え? はい、もちろん構いません。確かにあの人の言動はどうかと思う部分もありましたが教師として優秀なのも事実でしたから」

「ありがとうございます。エルトリンデ様!! アスト先生!!」



 俺たちのやり取りを聞いたイザベラはこらえていた涙を流しながら安堵の吐息を漏らす。

 まあ、実際アーノルド先生は優秀な教師である。俺に色々と雑用を押し付けてくるけど……


「アスト先生、この植物から魔力を抽出する方法をもう一度教えていただけますか?」

「ああ、これはね……」



 気を取り直して授業を進めていると再び、テレサが質問してきた。俺が説明を始めようとした時だった。



「強く引き出そうとすれば、植物は枯れてしまいます。必要な分だけ、感謝の気持ちと共に受け取るのです」



 いつの間にかそばにいたエルトリンデの指先から繊細な魔力の糸が紡ぎ出され、青苔に絡みついていく。次第に苔から青白い光の粒子が浮かび上がり、彼女の手のひらに集まっていった。



「この方法なら、植物を傷つけることなく魔力を分けてもらえます。自然と共生する魔法使いの基本です」



 彼女の手のひらには今や青く輝く魔力の球体が浮かんでいた。生徒たちは息を呑んで見つめている。

 そんな中テレサが恐る恐る手を挙げた。



「でも、エルトリンデ様。私たちにそんな繊細な操作ができるでしょうか?」

「基礎を学び、極めることが最強への近道です。焦らず、一歩ずつ進めばいいのですよ」



 その言葉にアストは思わず目を見開いた。かつて自分がエルトリンデに教えた言葉だった。彼女は一瞬だけアストの方を見て、小さく頷いたように見えた。

 その時、森の中から複数の気配を感じた。



「みなさん気を付けてください。何者かが潜んでいます!!」



 アンビーの声を共に木々の間から数人の男たちが飛び出してきた。その中心にいたのは見覚えのある男……ガゼルだ。かつてリンドを無理やりナンパしようとした男である。

 しかし、彼の姿は俺の記憶とは大きく異なっていた。全体的にみすぼらしく汚れているのだ。



「久しぶりだな、アスト。お前のせいで俺の人生は台無しになった。今日はその借りを返させてもらう」

「みんな、後ろに下がれ!」

「お前らは生徒とエルトリンデを狙え!! 人質にすれば抵抗できねえだろ!!」



 ガゼルの声は低く歪んでいた。俺は生徒たちを守るように前に立ちはだかった。テレサが怯えた表情で俺の袖を引っ張る。



「先生……怖いです……」

「大丈夫だ、テレサ……大切な生徒は俺が守る」

「は、魔法学校の先生ごときが俺様から守れるかよ!!」



 ガゼルが不気味な笑みを浮かべながら斬りかかって来るのを見た俺は木の枝を握ると同時に魔法を使ってその時を止め、立ちはだかる



「アスト先生、生徒はお任せください。アンビー!!」

「わかっています、エルトリンデ様。みなさん、こちらへ!!」

「アスト先生……!!」



 俺を心配するテレサをアンビーが無理やり引張り避難してくれる

 腐っても元はパーティメンバーだったのだ。以心伝心とばかりに、背後をエルトリンデたちに任せて俺はガゼルと斬りかかる。



「そんな木の枝で俺の魔剣が受け止められるかよ!!」

「魔剣か……じゃあ、お前のそれをはじく俺のは魔枝ってところかな?」

「なっ!? その魔法……お前はやはり魔王殺しのアストだったんだなぁ!!」



 火花を散らしながらガゼルの攻撃を受け流すと驚愕の声を浮かべる。時を止められた枝は壊れることのない魔剣とかしているのだ。



「悪いね……怒っているのはお前だけじゃないんだよ、よくも俺の大切なリンドを怖がらせてくれたな!!」

「がはぁ!?」



 返る枝でガゼルのあごを振り上げると面白いくらいに吹き飛んでいく。しばらくぶりの戦いだったが、Sランク冒険者とはいえフリューゲルに比べれば雑魚だ。



「こっちは……心配するまでもないか?」



 振り向くと冷たい目をしたエルトリンデがガゼルの部下を全員氷漬けにしているのが目に入る。

 だが、彼女の顔が赤いのはなぜだろう。やはり……リンドの事を言って顔を赤らめるということはそういうことなのだろうか?



「エルトリンデ様無事なようですね」

「当たり前でしょう。私がこの程度のやからに後れを取るとでも?」



 二人っきりということもあり緊張しながらも声をかけるが冷たい反応である。だけど、今しかチャンスはないよね?

 リンドは言ったのだ。はなしあってみたらどうだろうかと……



「エルトリンデ様……いや、エルトリンデ。君に聞きたいことがある」

「……なんでしょうか?」



一瞬彼女の表情が驚き瞳が揺れたのは気のせいだろうか?  そして、俺は問う。



「エルトリンデ、なぜ俺を追放した? 何か理由があったはずだ」



 彼女は目を見開き、一瞬言葉に詰まった。その瞳に様々な感情が交錯するのが見えた。悲しみ、後悔、そして…何か別の感情。



「それは……」



  言葉の途中で、彼女の左腕が震えた。袖の下から黒い模様が浮かび上がり、一瞬光を放ったように見えた。エルトリンデは痛みに顔をゆがめ、腕を押さえた。



「待て、エルトリンデ、その腕は…」


 俺が一歩近づくと、彼女は慌てて後ずさった。


「近づかないで! これ以上はあなたに移したくはないのです!!」



 その声には恐怖が混じっていた。まるで俺に触れられることを怖がっているかのように。

 俺が彼女の元へと一歩踏み出した時だった。



「何を全てがおわったような顔をしていやがる!!」

「なんだ?」

「襲撃したのが俺達だけだと思ってんのか? まだ仲間はいるんだよ!! お前らの学校の先生だぜ。元教師のアーノルドとケイオスがなぁ!!」



 いつの間にか意識を取り戻したガゼルが得意げに話すが俺たちの反応は冷たい。



「そんなことは知ってるよ」

「もう、手は打ってあるに決まっているでしょう」

「は?」


 ガゼルの驚いた顔にいい気味だと思ったのはここだけの話である。



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