王子様のストーキング
劔先輩の追求を準備しておいた写真で切り抜けた俺だったが、俺の目論見通りとはいかず、アレからも劔先輩から度重なる接触を受けていた。それはもう、何度も何度も……。
《早朝、ホームルーム前の空き時間》
「御堂く〜ん」
《休み時間》
「御堂く〜ん」
《昼休み》
「御堂く〜ん」
《移動教室中》
「御堂く〜ん」
所構わず、あらゆる場所、あらゆる時間帯で劔先輩は接触を試みてくる。ああ、今にも劔先輩の「御堂く〜ん」が聞こえてきそうだ。
幻聴が聞こえてきそうな程に「御堂く〜ん」を聞かされた俺はノイローゼ気味である。今の劔先輩はもはや、ストーカーである。
あの人、ストーカー規制法で取り締まれないかな?
今までは、神崎との一件もあり、男子から敵対的な態度を取られていた。しかし、女子憧れの学園の王子様、劔朝日がぽっと出の俺なんかに構っているという事実に、最近では女子から厳しい視線を受けている。
女子からも男子からも嫌われた俺に学校での居場所はほとんど無い。そのわずかにある俺の居場所も最近は、劔先輩に奪われ、いよいよ俺には天蘭高校に居場所がない。
現在、唯一の癒しスポットは学校で俺しか入れない第6用具室だけである。劔先輩に尾けられていない事を確認した後、第6用具室で過ごす時間は最近の俺の、ささやかな楽しみだ。
そして、今日も今日とて劔先輩は元気に俺のストーキングである。美形の女子からのストーキングなんて、一部の男子からはご褒美だと言われそうだが、TS体質の俺にとってはひたすらに迷惑である。
いや、劔先輩のストーキングならむしろ女子が喜びそうだ。男子から刺されるよりも、女子から刺される日の方が近いかもしれない。
「やぁやぁ、御堂く〜ん」
「劔先輩コンニチハ、ソレデハシツレイシマスッ!」
散々、劔先輩にストーキングされた俺は、最近では社交辞令を済ませてからソクサリ、このワンパターンで乗り切っている。まあ、さっさと逃げた所で劔先輩の尾行を振り切るという、もう一つのミッションがあるのだが。
とある日の放課後、今日も今日とて劔先輩の追跡から逃げ切った俺は、第6用具室の扉を開ける。
「ハァ……今日も疲れた……!」
連日に及ぶ劔先輩のストーキング行為には流石に疲労を感じずにはいられない。おっと、昼休みに飲んだ性ホルモン抑制剤の効果がもうすぐ切れそうだ。
いつも通り、俺は用具室のソファに横たわる。もうすぐ訪れるだろうTSの兆候を待つ。
しかし、今日はいつも通りにはならなかった……。
ーーガチャ。
誰も入れないはずの第6用具室に、俺以外の人間が入ってきたからだ。それは俺も知っている人物、劔朝日先輩だった。
「ッ!」
鍵は閉めたはずだッ!
どうやって中に入ってーーいや、それより!
現在、俺はコレからTSをする直前だったのだ。このまま劔先輩に居てもらっては大変困る事になる。今まで、ひた隠してきたTS体質がバレる事になってしまう。
それだけは何としても避けなければッ!
「つ、劔先輩……鍵は閉まっていたはずですが?」
「ああ、閉まっていたよ。だから、ピッキングをさせてもらったんだよ」
そう言うと、劔先輩は見せびらかすように、ピッキングに使ったのだろうハリガネを左右に振る。
まさか、ピッキングなんて強引な手段で扉を開けるとは……。それにしても、なんというガバガバセキュリティーなんだ。そこらの女子高生がピッキングできる作りの扉って、何やってるんだ校長!
「それよりさ……コレなぁんだ?」
「……!」
口元を三日月のように歪めた劔先輩が懐から取り出したスマートフォンを操作し、画面を見せる。
画面に映っていたのは……第6用具室から出る女の子。
つまり、女子の制服を着た女子形態の俺だった。
「ここで御堂くんに質問です。入ったのは男子ひとり、出てきたのは女子一人、これってなーんだ?」
「……さっ、さぁ……なんでしょう?」
「正解は……御堂涼太くんでした!」
「…………」
劔先輩の尾行を振り切ったと俺は思っていたが、完全には振り切れていなかったという事か。改めて、劔先輩の俺に対する執着心に恐れを抱く。
「ねぇ、どういうことかな? 間違いなく、この部屋に入室した人間は御堂涼太くん、キミだ。しかし、出てきたのはまさかまさかの女の子。この不可思議な状況、ぜひ御堂くんの口から説明してくれないかな?」
「…………」
何も言えるわけがない。ここで劔先輩に説明するということはイコールでTS体質のことを明かす事になる。劔先輩が何を思って、俺にこんなに執着するのかは分からない。
しかし、それでも俺は……どうしてもTS体質の事は知られたくない。俺の頭に、はじめてTS体質を発症した中学時代の苦い思い出が蘇る。あんな生活は二度とゴメンだ。
ここは多少、強引でも兎に角、誰の目にも触れられない場所に移動する。今こうしている間にも、TSの兆候がいつ襲ってくるか分からないのだ。
考えている時間は……ないッ!
俺は今も第6用具室の扉の前に立つ劔先輩の横を通り抜けるように滑り込む。扉は開けっぱなし。今なら、扉を開ける動作を省いて最短で逃げ切れるッ!
しかし、まるで俺の行動を予測していたように劔先輩は、扉を閉めるという最適の行動を取る。俺にとっては、最悪の行動だが……。
「どこに逃げようというのかな?」
「クッ……!」
思い通りにいかない展開に、歯を強く食いしばる。そうしている間にも、劔先輩は距離を詰めて、俺を壁際に追い込む。そして、スマホの写真を突き付ける。
「さぁ、説明してくれたまえ。どうして、入った人間は男子だったのに、出ていった人間が女子だったのか!」
「ッ!」
ジリジリと縮まる劔先輩と俺の距離。
もうすぐ顔と顔がくっ付くという所で、俺に覚えのある感覚が走る。
ああ……ヤバい。これは……猛烈に激しくヤバいッ! 遂にきてしまった……!
TSの兆候が……!!!
身体中に蟻が這い回るような独特な感覚が俺を襲う。
やめろッ! 止まってくれ! 止まれ! 止まれ! 止まれ!
しかし、俺の願いも空しく、一度始まったTSは止まることはなかった。
平たい胸に重量が追加されるのが分かる。股間付近にあった存在感が無くなる。握っていた拳から力が無くなっていくのを感じる。
ああ……俺は今……劔先輩の前でTSしてしまった……!
一部始終を目撃していた劔先輩が後ずさる。目の前で、男子が女子になるという衝撃映像を目撃したのだ。動揺するのも無理はない。
しかし、ある意味コレはチャンスだ。動揺している間に、一旦この場は逃げよう!
そうと決めた俺は、素早く鞄を回収すると、第6用具室から勢いよく飛び出す。
明日のことは後で考えよう。とりあえず、今日は帰って家でゆっくり考えを練るとしよう。劔先輩を置き去りにして、俺は校舎から遠ざかっていくのだった。
ーーーーーーーーーー
場所は第6用具室。一人、取り残された劔朝日はいまだに目の前で目撃した光景に体を震わせていた。
20分か、30分か……少なくない時間が流れた第6用具室で動揺から立ち直った劔朝日は御堂涼太が去って行った入り口を見つめる。
「御堂涼太くん……ああ……ボクは……」
劔朝日はここにいない御堂涼太に宣言するように叫ぶ。
「……キミを孕ませたい!!!」
現実世界[恋愛]週間46位まで上がりました。
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やっと、このシーンまで来れました。
この孕ませ発言がやりたくて、この作品を始めたと言っても過言ではありません。
美少女がまさかの孕ませ発言……興奮するぜ!
無駄話もさておき、今後も作者の趣味全開の拙作をよろしくお願いします!
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