第三十三話
お昼ご飯はスーパーのコンビニ弁当だよ~という、さっきの面接官のお姉さんの言葉通り、スーパーで売ってるコンビニ弁当みたいな奴だった。うむ、なかなか美味い。
私達三人は同じ部屋でお昼ご飯を食べながら、次のオーディションは何だろうと駄弁っていた。一次試験が即興劇、二次試験が面接、そして三次試験は……
「きっと色々な仕掛けが施してある塔の頂上に降ろされて、無事に下まで降りて来いって奴だね……」
「ハンター試験だったのか……」
冗談も交えつつ、私は慧美ちゃんと面白おかしくオーディションの内容を推理。それに対し、唯一の男の子の環君は黙々と弁当を食べている。ちなみに三人とも、お昼ご飯を食べる前に自己紹介しておいた。
「環君は? どう思う?」
要君と似たようなクール系イケメン。唯一の男の子で居心地悪そうだが、両手に花だぞ、もっと明るくせよ。
「……実技、面接、と来たら……次はペーパーテストですかね」
しかし要君よりは社交性ありそうだ。無表情ながらも私達に会話を合わせてくれている。食はあまり進んでいないようだが。
「ペーパーテスト……私は勉強できない……」
むむ、慧美ちゃんは勉強苦手か。奇遇だな、私もだ。
「それとも……先程の面接が何か関係してくるのかもしれませんね。漆原さん、何聞かれたんですか?」
「ん? なんか推薦状来た時の事を正直に答えてくれてって……。まあ、私はあまり気乗りしなかったって答えちゃったけど……」
「俺もそれ聞かれました。気乗りしなかったのは同じです。アス重工のマスコットは早乙女 凜が既に居るんですから。同じような人間は二人もいらないでしょうし」
それでも君はここにいるじゃないか。しかしそうだな……凜ちゃん、彼女の次なる新しいマスコットを探しているというオーディションならば、誰でも躊躇ってしまうかもしれない。憧れはするが、果たしてその後釜が一体誰に務まるのか、と。
「でもさー、早乙女 凜の芝居はなんていうか……分かりやすいんだよね。まだそこまで幅広く役柄熟してるわけじゃないから、アレだけど」
凜ちゃんはこれまでドラマにも既に数本出演している。学園物の青春劇や、家族物のコメディなどなど。どれも明るい元気な女の子という役柄だ。確かに大地君のような、親友を殺してしまった高校生みたいな役はやっていない。確かに役の幅は狭いが、そんなのまだ若いんだから……
「あ……もしかして……」
もしかして今回のオーディション……凜ちゃんのイメージを覆さないよう、彼女に会社側がやらせたくない役柄が得意な人材を求めている……?
「……漆原さん、即興劇の時のあれはメソッド演技ですか? 遠目からでも分かりましたよ、村娘が隠し持ってる刃物」
「ん? あぁ、ありがと……環君もカッコよかったよ、なんか格闘技の構えして……」
「ジークンドーです。ブルースリーって言えば分かりやすいですかね」
「実際にやってるの?」
「まあ……少し齧ってるだけです」
どうりで……。鍛えてそうだもんな。線は細いが肩幅は結構がっちりしてるし。ちょっとお腹触ってみたいな……。イカン、そんな変態行為はけしからん!
そんなこんなで次の試験。お昼ご飯を食べ終わった私達は先程の面接した部屋へと。今度は三人で入り、面接官のお姉さんの指示の元、新たな試験が始まろうとしていた。
※
三人で揃って何をやらせるつもりなのか。私達はそれぞれ立ったままお姉さんの説明に耳を傾ける。
「さて、では……ここで一人だけ帰ってもらうから。逆に言えば落ちるのは一人だけ。残り二人は次のステージだよ」
一人だけ脱落か。でもこのオーディションを受けてるのは私達だけじゃない。歌が得意な子達も居るんだし……紅葉ちゃん残ってるかな。
「じゃあ最初に聞いとくね。ここで帰ってもいいって子、居る?」
シーン……と静まり返る私達。
いやいや、居るわけないだろ。何のためにここに来たと思ってんだ。
「よしよし、じゃあこれから簡単なクイズをします。それに先に正解した二人が合格だよ。ちなみに一問につき一人一回の回答まで。OK?」
三人とも「はい」と答え、心の準備を。
一体どんなクイズ出す気だ。芸能関係か? まさか本当にただのクイズって事は無いだろうし……。もしかしたらFBIの試験に出てくるような奴だったら私に勝機があるかもしれない。一時期、その手のサイトをボーっと見続けてたし。
「では問題です」
私達は生唾を飲み込み、問題を聞き逃さないようにと気構える。
「とある所に、心臓の弱い女の子が居ました。彼女は心臓の移植手術を受けなくてはいけません。しかし手術を受ける為にはアメリカに行く必要があります。だから今回のオーディションで合格して、有名になって、お金を手に入れなければなりません」
……?
今回のオーディション?
ちょっと待て、まさか……それって……
「さて、彼は無事に合格し有名になってお金を得られるでしょうか。はたまた、合格したはいいけど世間の荒波に揉まれて蹴り落されてしまうでしょうか。さあ、どっち?」
……今、彼って言ったよな。
というか、なんだこの問題。まさかさっきの面接で答えた事が……
横目で環君の様子を伺う。拳を握り、今にもお姉さんに殴りかかりそうな雰囲気。
轟監督が言ってた「悪趣味」とはこういう事だったのか。
「……はい」
すると慧美ちゃんが手をあげた。若干、声が震えている。
「どうぞ?」
「……お金を得られます。彼なら……」
「あら、なら貴方は脱落していいって感じ? じゃあもう出て行っていいわよ」
そう面接官のお姉さんが言い放つと、環君がお姉さんのスーツの胸倉を掴みあげた。息は荒く、今にも殴りかかりそうな……
「あらあら、どうしたの? 殴ったら勿論、失格だよ」
「あんた……何考えてんだ!」
「あはは、この程度でブチきれてたら、この業界じゃ身が持たないよー?」
「ちょ、ちょっと!」
思わず二人の間に入って止める私。環君の目を見ながら落ち着かせようと……って、あれ?
「じゃあ慧美ちゃん、君は脱落で良かったんだっけ? ほら、出てって」
「ま、まって……待ってください……!」
「んー? じゃあ今の無しにする? 別に無回答に戻してあげてもいいよ?」
「……そ、それで……」
「はい、オッケー。じゃあ紗弥ちゃんの答えは?」
……どういう事だ。環君は芝居している。目を見なければ気付かなかった。
きっと直前で知らされて即興でやってるだけだ。
「……私は、子供の頃から劇団で育ってきました。テレビには出た事ないけど……何人も劇団から去っていくのを見てきたわ。精神的にきつくなったり……自分の芝居に行き詰って」
「うんうん。で?」
環君だけに、お姉さんはこの芝居の指示をした? 何のために?
慧美ちゃんはもうすでに泣きそうな顔だ。彼の妹の命を救う為には身を引かなければならない。しかし、引いたとて彼が売れるとは限らない。第一、オーディションで身を引くなんてこと、出来るわけがない。
「……お金が欲しいだけなら……もっと色々方法はあるわ。募金を募ったっていい。まだそっちの方が現実的だわ」
「……で? 君の答えは?」
「私の答えは……」
いや、まて、お姉さんの言った問題文を思い出せ……えーっと……なんか違和感感じたんだ、なんて言ってたっけ……
『合格してお金を得られるか、合格しても蹴落とされるか。どっちにしても合格してるよね』
その時、耳元で囁く誰かの声。
あかん! これ反則では?! 椿ちゃんの協力はありがたいが……罪悪感がハンパねえ! しかし今ので完全に分かった!
「答えは……無いわ」
「ほう? 無いとは?」
だって……
「どちらの答えを言っても、彼、合格しちゃうじゃない。慧美ちゃんが言われたみたいに、どっちを答えようが私も出て行けって言われるんでしょ?」
……あれ? 違う?
何この沈黙……環ちゃんと椿ちゃんの視線が痛い……
「……すげえ、名探偵かよ」
「意外と頭回るね……紗弥ちゃん……」
……ん? え? あれぇ?!
慧美ちゃん? もしかして……芝居してた?
「おめでとう、合格だよ紗弥ちゃん!」
「……は?」
思わず半ギレ状態でお姉さんを睨んでしまう私。
お姉さんはビクっとしつつ、半歩後ろに。
「ご、ごめんごめん、実はこの子達、受験生じゃないんだ。こんな感じで今、数組、君と同じ試験受けてるよ……って言えば分かる?」
「まさか……二人とも……」
「そう、この二人は私が雇った役者だよ」
……全然気づかなかった。
ちょっと待て、二人とも……芝居してたのか? 今の今まで……ずっと……
「あー、クールイケメンキャラとか何だよ。マジで疲れた」
「私も陰キャ設定とか何ですか。ごめんねぇ、紗弥ちゃん。悪いのはこの人だけだから」
「五月蠅いな二人共。まあこれで晴れて紗弥ちゃんは合格! 次のステージに行けるよ! 良かった良かった!」
とても……そんな気分にはなれない。
二人の芝居に全く気付かなかった。半生を舞台の上で過ごした私が。
二人は今までとは全く違う雰囲気で駄弁っている。
こちらが本来の二人? 私は、全く見抜けなかった。
「……どうしたの? 嬉しくない?」
……洗礼を受けた気分だ。
今まで芝居をしているしていない、なんて一目見れば分かるなんて豪語してた自分に腹が立つ。
私はまだ……この世界ではひよこなんだ。
「……二人の顔、覚えたわよ」
絶対に仕返ししてやる。
この屈辱を糧に……私は絶対勝ち上ってやる……。




