第三十二話
二十三組の即興劇が終わった後、私と男女二人が違う部屋に案内された。なんだかさっきよりは手狭な殺風景な部屋。そこに私とあと二人のみが呼び出され、目の前には髭ヅラ……轟監督が。
「よう」
私は下唇を噛みながら、なんとしても返事をしないように。
「何だその顔……とりあえずお前等、三人合格だ。次の会場に案内されるまでここで待機」
三人? あれだけの人数から一気にここまで絞るのか。
最終的に一人しか選ばれないとはいえ、かなり思い切った事をする。
「質問……いいですか?」
すると私以外の二人の内、一人の女の子が髭ヅラへと質問を。
「どうした」
「歌が得意な子達とはいつ合流するの?」
そうだ、そっちもあった。
紅葉ちゃんはそっちに行ってる筈だし……。私達はそれぞれから一人ずつ選ばれるわけじゃない。役者志望と歌手志望、異なるジャンルを最終的にごちゃまぜにして、そこから一人選ばれるのだ。過酷だ。
「合流するかどうかすら俺は知らん。というか俺の仕事はここまでだ。本当は五人選べって言われたんだが……まあ三人でも変わらんだろ」
この髭ヅラ! 適当過ぎる……。まあ、でも選んでくれたんだから喜ぶべきなんだろう。たとえそれが顔見知りだという理由でも、選んでくれてありがとうと言うしかない。
「お待たせしましたぁ!」
その時……突然、大声を上げながら部屋へと入ってくるスーツ姿の女性が。
なんだ、びっくりした。
「ん? 三人しかいないじゃん! 轟さん五人選んでって言ったよね?!」
「居なかったんだから仕方ないだろ。見込みのあるやつ」
「相変わらず適当な……」
ぁ、この人も私と同じ感想抱いてる。
「まあ仕方ないか……じゃあ三人共、ついてきて。これ終わったらお昼ご飯だから、頑張ってね」
そのまま私達三人はその女性へと着いて部屋を出る。すると轟監督もついてきた。なんだ、あんたの仕事終わったんじゃなかったのか? しばらく廊下を歩いた後、まるで校長室のようなオーラを放つ部屋の前に到着した。何の変哲もない、さっきまでと変わらない部屋の扉だが。
「じゃあ次は面接やから。一人ずつ中に入ってきてね」
最初は君から、と唯一の男を指名する女性。二人と共に中へと入っていった。今の女の人が面接官なのか。さっきまで即興劇してたのに、今から面接……なんか順番逆じゃね? と思いつつも、あれだけの人間を面接だけで判断するのも難しいという事だろうか。それなら、いきなり得意分野やらせたほうがいいという判断かもしれない。
「……気を付けろよ。あの女は悪趣味だぞ。俺以上に」
むむ、いきなり女子二人に話しかけてくる轟監督。もう一人の女の子は若干ビクっとしつつ、轟監督と数歩距離を取る。あ、ちょっと傷ついてるな、監督。
「悪趣味って……いきなり殺し合いをしろって言うより?」
「あんなもん優しいくらいだろ。ガキでも出来る」
ガキ……そういえば、劇団のジジイからこんな話を聞いた事がある。子供は本物の殺意を持っている。しかしそれに見合う体力がないだけだと。
「じゃあ……俺は最終まで残ってるから。お前等も頑張れよ。俺が見出したんだから恥かかせんなよ」
そのまま去っていく轟監督。
「なんなんだ、一体……」
一言私がグチると、傍らにいた女の子が私と同意するように笑ってくれた。
「……そうだね。あのおじさん……ちょっと怖いし」
いい笑顔……! いかん、本日一番癒された……。即興劇見てるだけでも結構面白かったけど、今一番私の心にオアシスが! 抱きしめたいが、いきなりそんな事をしたら警察に捕まるかもしれない。自重しよう。
すると先程の男が出てきた。むむ、早いな、もう面接終わったのか。
「次……入ってこいって……貴方からだそうです」
「ぁ、はい」
この男も要君みたいな陰キャだな。要君はクール系イケメンだったが、この子はどちらかというとハムスターみたいなイケメン。癒し系の顔。しかし宗吾さんには遠く及ばない。
私は女の子に(名前聞けばよかった)お先に、といいつつ中へ。
そこには先程の女性が長机の中央を陣取っていた。ザ・面接……といった感じだ。
「どうぞ、おかけになってください」
「はい……」
私は正面のパイプ椅子へと。
さて、どんな質問が飛んでくるのか……。
「では……漆原 紗弥さん。今年で二十歳ですか……推薦状を受け取った時、最初に思った事を正直に仰ってください」
推薦状を貰った時の事……。
正直にか。正直に……
「最初は……あまり気は進みませんでした」
「ほぅ。それは何故ですか?」
何故……何故か……
「私が推薦状を貰ったのは……動画サイトに投稿された舞台の映像が切っ掛けだと思っていますが……あの舞台は私一人の成果ではありません。推薦されるのであれば、あの舞台に関わった全員を誘って欲しかったです」
超正直! 超正直に答えたぞ私!
「成程。それは御尤もです。しかしそれなら何故貴方は今ここに?」
うーん、そうなるよなぁ……何故受ける気になったのかと言えば……
「それは……高校の頃の友達が……背中を押してくれたのですが……」
「ほほぅ、是非聞かせて下さい」
「長くなりますが……よろしいでしょうか」
「ええ、勿論構いませんよ」
じゃあ語ろう……私とにゃん子の思い出を。
「私の高校の頃の友達……にゃん子はとある中華料理屋の一人娘でした。高校の頃から私はにゃん子の家でご飯を食べるのが大好きでした。中華料理が特別好きってわけでも無かったんですが、にゃん子の家で食べる中華料理がとても美味しかったからです。主ににゃん子のお父さんが作ってたんですが、実はにゃん子が高校二年の時に交通事故で両手を怪我してしまい、しばらくお店はにゃん子と母親で切り盛りしていたそうです。その間も勿論私は通っていたんですが、やっぱり、にゃん子のお父さんの味には遠く及ばず……その際、私ははっきりと言ってやりました。パパさんの作る中華料理のが美味しいと。そしたらにゃん子はイラっとしたのか、私の天津飯に追加のご飯を盛ったのです。にゃん子は私が太ればいいと思っていたのかもしれません。しかし私はどれだけ食べても太らない体で……それを言ったらガチ切れされて二度と来るなと言われましたが、容赦なくそれからオヤツ感覚で高校の帰りに寄ってました。なんだかんだ言って、にゃん子が作るご飯も美味しかったからです。それを正直に伝えれば良かったのに、私とにゃん子はお互いに天邪鬼で……。そんなこんなで、実家の味を守る事に決めたにゃん子は、今現在アス重工の関連会社が経営する大型ショッピングモールに客を取られて悪戦苦闘の日々。私がこのオーディションで勝つことが出来れば、もしかしたら中華料理屋を救えるかもしれないと思い、今回参加の決意を致しました」
ふふぅ、長かった。
さて、どう反応が来る?
「……とりあえず……にゃん子さんの事が大好きだと言う事は分かりました……」
どうやら伝わったようだ。良かった。
「……では、そのにゃん子さんがもし……結婚して別の家に嫁いだらどうしますか? もしくは、オーディションに合格し中華料理屋を救った後、にゃん子さんのほうから同様の理由で店を畳むと言われたら」
中華料理屋の危機……!
しかし私の答えは決まっている筈だ。それはにゃん子の幸せを願う事。それが友達として、当然の事だ。
「にゃん子の旦那を葬ります」
私は満面の笑みでそう答えた。




