クール → 崩壊
クールビューティーで頼れるお姉さんだったレナリアさんが、素っ頓狂な声を上げて固まっている。あれ? 魔晶って売れるよね? いまシルフィが出した魔晶はだいたいメイのダンジョンの三階層くらいまでに集めた魔晶の一部なんだけど……
『けけけ……やっぱりそうなるよな、それがテンプレってやつだ』
『えぇ! だってテンプレを避けるためにいろいろ気を付けてたのに?』
『テンプレにもいろいろあるんだよ、今回のは【新人冒険者が常識を知らずに常識外の行動を取る】ってやつの類だな』
部屋の隅で丸くなって眠るモフの頭上でぷるぷるとしているタツマが愉快そうな思念を送ってくる。
『でも、僕たちは集めた魔晶の一部を出しただけだよ。それのどこが常識外れなの?』
『よくも悪くもお前たちは辺境の外にある世界に染まってるんだよ』
『どういうこと?』
『馬車を襲ってきたゴブリンの中で魔晶が小さかった奴がいたのを覚えているか?』
『え? うん、僕が初めて倒したゴブリンの半分くらいの奴がいた……かな?』
『メイのダンジョンのゴブリンの魔晶は大きかったよな?』
『うん……僕が初めて倒したゴブリンの五割増しくらい?』
『そう、つまり辺境にいる魔物は魔境産の魔物じゃなくても全体的に強いんだ、だから魔晶もデカい。たぶんメイのダンジョンの魔物も長い間ダンジョンに閉じ込められていたせいで強くなっていた。で、魔晶が小さかった奴はこの辺のゴブリンで配下に組み込まれていたんだろうな。ま、メイのダンジョンの魔物は、お前たちが一回狩りつくしたせいでいまは普通の魔物になっているだろうけどよ』
ということは、いま出した魔晶の数々はこの街でいうとダンジョンの三階層よりも深いところの魔物のものだと思われているってことか……新人がそんなレベルの魔晶をガラガラと両手いっぱい出したらそりゃあ驚くか。
「あの、レナリアさん。大丈夫ですか? 僕たち田舎の出身なのでよくわからないんですけど、これはポルック村の守護者だった父と母が街で売ればお金になるからと譲ってくれたものなんです。辺境の外にある開拓村だから魔物も強いんですけど……なんか問題だったでしょうか?」
タツマから聞いた話に、軽い嘘をおりまぜてあどけない少年風に首をかしげる。
「え、いや、辺境外の……開拓村? 譲ってもらった? あ……あぁ! な、なるほど。わ、わかりました。それでは、査定に回しますのでお待ちください」
「あ、すみません。ついでにこちらをお渡ししますので確認をおねがいできますか?」
僕が差し出した一通の手紙にレナリアさんは嫌なものを見るような目を向けた、ような気がするのは僕の勘違いだろうか。
「……拝見します」
レナリアさんは手紙を受け取ると封を開け、ゆっくりと内容を読み始めた。
「セインツさんからの手紙ですね……確かセインツさんのパーティは魔物が増加しているということでトルク村に滞在していたはずですが…………新ダンジョン! 大発見じゃないですか! しかも発見者はこの子? ……いや、発見するだけなら誰でもできます」
一瞬だけ奇異の目を向けてきたレナリアさんは、軽く頭を振って立ち直ると手紙の続きを読みすすめる。
「場所が……カナルス山の向こう側? カナルス山って竜王山脈の端っこの方の山よね……トルク村の近くの」
ぶつぶつと呟いていたレナリアさんが、ぎぎぎと首を回す。
「あの……ポルック村ってどこにあるのかな?」
「えっと……たしかジドルナ大森林にもっとも近い村って言われているってトマス爺さんが言っていました」
「そ、そうなんだ。ずいぶんと遠いところからきたのね…………はぁ……いいわ、任せなさい!」
なにがショックだったのかはよくわからないけど、束の間ハイライト消えた目で呆然としていたレナリアさんが急に精気を取り戻すと力強く頷く。
「あなたたちが凄い田舎からきたっていうのも理解したし、ダンジョンを見つけたっていうのも、カナリス山を越えてきたっていうのも、三級レベルの魔晶を大量に持っているのも、マジックバッグを持っているのもわかりました。しかも、フードで隠してはいるけど、リミナルゼさんは獣人で、シルフィリアーナさんも亜人ですよね。この街では表向きは平等を謳っていますが、残念ながら人族以外には優しくない街です。これだけ揃えば、正直これからあなたたちが他の冒険者たちに絡まれないという未来が見えないほどです」
「え、それって確定ですか? そうならないように気をつけているんですけど」
「確定です! たしかにあなたたちのその慎重な姿勢が功を奏してここまで絡まれずにきましたが、私の勘ではこのままでは何事もなく無事にギルドをでることはありえません!」
ええっ! うわぁ、言い切っちゃったよ、この人……ていうか、そんなに僕たちって絡まれやすいの?
お読みいただきありがとうございます。
同時連載中の《魔剣師の魔剣による魔剣のためのハーレムライフ》の第二巻が7月22日に発売されます。
下に表紙のイラストなどを載せておきましたので、興味があればお手にとって頂ければと思いますので、よろしくお願いいたします。




