冒険者 → 登録
「次の方、どうぞ」
列に並んでからも目立たないようにおとなしくしていたら、特にテンプレに巻き込まれることもなく僕たちの順番までやり過ごすことができた。
気を付けたのはおしゃべりしてて、田舎者だっていうのを主張してしまったり、うっかり誰かの気を引くような単語を漏らしたりしないようにすることと、偶然にしては出来すぎだろ! って言いたくなるようなアクシデントでリミやシルフィのフードが取れて、ふたりの容姿や耳がさらされてしまうことだ。当然不躾な視線を周囲に向けることもしない。見ただけで絡んでくるようなチンピラがいないとも限らないからね。
一番右端の窓口に並んだのも結果として正解だった。酒を飲んでいる冒険者たちとの間に隣の窓口に並ぶ人たちがいるお陰でうまく隠れることができた。ここまではテンプレ回避の作戦が上手くいっている、タツマといろいろ打ち合わせてきた効果だよね。
「はい、冒険者登録をお願いします」
「冒険者登録ですね、かしこまりました。登録されるのはあなただけですか?」
「いえ、仲間全員お願いします。あの僕たち、ちょっと遠くから初めてこの街にきたのでいろいろ教えてください」
「あぁ、そうなんですね。わかりました、お姉さんに任せておいて」
笑って胸を張るギルドの受付嬢さんは、蒼い髪をアップでまとめてギルドの制服をかっちりと着こなした清潔感のある綺麗なお姉さんだった。しかも胸のボタンが上からふたつめまで外れているからちょっと谷間が目の毒(得?)かも。
名前:レナリア
状態:健常
LV :14
称号:元上級冒険者
年齢:23歳
種族:人族
技能:剣術2/格闘1/剛腕2/敏捷2/話術3/料理2/掃除2/裁縫1/採取1
特殊技能:戦渦の不運(戦闘中に限り不運にみまわれる)
【鑑定】してみると受付嬢さんにしてはレベルが高い。称号から見ても元冒険者だったらしい。しかも上級冒険者だから結構優秀だったんじゃないかな? スキルの数も多いし、なにより凄くバランスがいい。【剣術】に【格闘】、これだけでも十分に強いのに、【剛腕】と【敏捷】で力と速さもある。うまく力をのばせればもっと上のランクも狙えたと思う。
でも特殊技能が…………これのせいで戦ってレベルを上げるのが厳しくなったのかな。そう考えると受付嬢は【話術】も高いし天職かもね。
「登録自体は簡単だから先に済ませちゃいましょう。そのあとで初心者の方は希望があれば、ギルドの詳しい説明を受けることができます。そのときには場所を変えて対応することになっているから詳しい説明はそっちで承りますね」
「あ、はい。ありがとうございます」
「じゃあ、まずはこの魔法紙に名前を書いてくれるかな? 自筆じゃないと駄目だから、もし字が書けないようだったら形を教えるから同じように書いてもらいますけど」
レナリアさんはカウンターに真珠のような滑らかな光沢を放つ五センテ四方の不思議な紙を三枚並べると、ペンを渡してくる。
「大丈夫です。この紙に書けばいいんですね」
おわ! 不思議な紙に自分の名前を書き込んだら紙が一瞬だけ淡く光った。不思議だ……いったいどうなっているんだろうと思ってもう一回、紙に手を伸ばす。
「あれ? 堅い」
「この魔法紙は特殊なペンとインクで名前を書くと、硬化して最初に書いた人以外には加工ができなくなるの。これがギルドカードとしてきみの身分を証明することになるから、提示を求められたらこれを見せてね。確認のサインを求められたら渡されたペンを使って余白に名前を書くの。自分のカードならさっきみたいに淡く光るから、身元確認用のペンのインクは数分で消えるから何度でも余白は使えます」
へえ、凄いなぁ。そんな魔導具があるんだ。【鑑定】だと「魔術で加工した魔法紙」としか出てこないし、金銭的な価値も登録前のものは金貨一枚だけど登録済みの僕のカードはゼロ。登録しちゃうと本人しか使えなくなるから市場価値がなくなるってことかな?
「裏面にはギルドの職員が専用のペンで…………はい」
レナリアさん裏面になにかを書き込んでから僕にカードを差し出してくる。これが冒険者カードか……いよいよ僕は冒険者になったんだ……まだなにもしてないけど。ちょっとした興奮につつまれながら受け取ったカードの裏面を見ると、裏面の右上には大きめに『初級』の文字。右下には小さめの字で『登録担当:レナリア』と記載してあった。
「ということで、あなたたちの登録は私、レナリアが担当させてもらいます。よろしくね新人冒険者のリューマくん」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「裏面には受注中の依頼や達成した依頼数なんかを記載します。なくしたら再発行はしますけど、履歴の喪失になるのでまた初級から出直しになりますので無くさないように大事にしてくださいね。では、ちょっと恥ずかしいけど一応決まりなので…………ん! いくわね。『冒険者の世界へようこそ!』」
「……はい!」




