亜人 → 冒険者ギルド
「やっぱり人族以外は少ないね、りゅーちゃん」
僕の右手を握っているリミの手に力がこもる。邪魔にならないようになるべく道の端っこを歩きながら、道行く人たちを眺めていると、エルフやドワーフはもともと少ないのでまだしも、獣人族の人すらほとんど見かけない。住民の半数以上が獣人族だったポルック村とは大違いだった。
勿論、まったくいないというわけではないんだけど、たまにみかけても。
「皆さん、首輪をしてらっしゃいます」
シルフィが右手で僕の左手を握り返しながら左手で自分の首に巻いてあるスカーフを抑える。つまり、この街で暮らしている獣人族の人には奴隷が多いということ。
『まあ、まだ俺たちはこの街についてなんも知らねぇんだから、冷静にな』
『む、僕だってそれくらいはわかってるよ。獣人族の奴隷が多いからっていうだけで怒ってあばれたりしないから』
『けけけ、それならいいけどな。今の俺たちは冒険者に憧れているだけのただの田舎者なんだってことを忘れるなよ。それと場合によってはリミ嬢ちゃんに形だけの首輪をしてもらったほうがいいかもな』
なるほど。もしこの街に奴隷じゃない獣人がほとんどいない、とかだったらトラブルを避けるためにも首輪をしてもらうっていうのはありか。リミに首輪とか絶対に嫌だけど、チョーカーみたいにお洒落なやつなら……。
「リューマ様、そこを左に曲がると大きな建物があるそうです」
「あ、うん。ありがとうシルフィ、いよいよ冒険者ギルドだね。ふたりとも気を付けていこう」
「大丈夫だよ、りゅーちゃん。そのためにメイちゃんのダンジョンで修行してきたんだから」
「……メイのこと?」
「うん! メイちゃんのお陰」
見失わないように、僕たちの前をモフと一緒に歩いていたメイが振り返ってえへへと笑う。メイといえば、ダンジョンのほうのメイも、僕たちが村を出てからすぐにセインツさんたちが侵入したらしい。さすがに細かい動静までは把握できないみたいだけど、侵入した生物が現在どこの階層にいるかくらいはわかるみたいだった。
それによるといまは三階層を探索しているようで、それなりに長い時間ダンジョンに入ってくれているせいか、メイのレベルがひとつ上がっていた。どうやらメイは戦って経験を得ることとは別に、ダンジョンに人を招き入れることでもレベルを上げることができるらしい。
「よ、よし、じゃあいこうか」
フロンティスの街には、二階建ての建物がたくさんあったけど、冒険者ギルドはなんと三階建てだった。この前初めて二階建てを見て驚いていたのにあっさり記録更新だった。しかも建物の大きさも一階部分だけで僕の家の倍以上は大きいから、それが三階分でなんと六倍! ちょっと気後れしちゃうけど、幸い大きめに作られている両開きの扉は日中は開きっぱなしのようで、思い切って入りやすいのは助かった。
リミたちの手を離して中に入ると、中は喧騒で満ちていた。どうやら一階部分はロビーだけじゃなく食堂兼酒場になっているらしい。
『うひょぉ! 来たぜ来たぜ! 冒険者ギルドによぉ! くっそぉ、スライムじゃ登録できないよなぁ。できて従魔登録くらいか……それじゃ意味がないんだよなぁ』
モフの頭の上でタツマが興奮してぶるぶると体を震わせているが、残念ながらさすがにスライムには冒険者カードを発行してはくれないだろう。
僕たちは邪魔にならないように壁際に寄ると周囲を見回す。正面に窓口が五つほどあって、それぞれに人が並んでいる。左側は食堂兼酒場で丸テーブルと椅子がいくつも置かれ、昼間にもかかわらず冒険者らしき人たちがお酒を飲んでいる。右側には二階に上がる階段と大きな掲示板があり、どうやら依頼はあそこで確認するらしくいまも数人の冒険者が依頼を探していた。
「二階は商店になっているみたいですね。素材や魔晶の買い取りも二階のようです、リューマ様」
「カウンターの向こうにも階段があるから、お店なのは半分くらいかも知れないね。二階の足音が右半分に片寄ってるし」
フードの中の猫耳をピクピクと動かしてリミが教えてくれる。僕も【音波探知】を使おうとしたんだけど、ここは音がたくさんありすぎて駄目だった。リミが教えてくれた通りだとすれば、二階の半分と三階がギルド職員のスペースなのかもね。
「じゃあ、僕たちはまずカウンターの受付にいって冒険者登録をしよう」
「うん! あ、りゅーちゃん。一番右の窓口が空きそうだよ」
「あ、本当だ。ならあそこに並ぼう」
魔物のモフがうろうろしていると、ここにいる冒険者たちを刺激してしまいそうなので、タツマごとモフを抱えあげたまま列の最後尾へと並ぶ。
さて、このまま無事に冒険者登録ができればいいんだけど。




