ダンジョン → 報告
結局、タツマの指示どおりにメイのダンジョンの第一階層分のマップのみを情報提供した。魔物についても一階層のゴブリンと二階層のファングウルフについてだけ。
アキーナさんたちの実力があれば、相性の悪い階があっても五階層ぐらいまでは余裕でいけると思うから、あとは自分たちで調べてもらおう。なるべく中にいてくれたほうがメイの力になるみたいだし。
「一階層のみか。ギルドに報告するにしても、もう少し詳しい情報がいると思うんだが……どう思うグリッド」
「いやぁ、めんどくさいし別にいいだろ。坊主たちが入り口も封鎖しているらしいしな。ゴブリンとファングウルフだったら新人どもにはちょうどいい稼ぎになるんじゃねぇか? とっとと帰って報告すればいいさ」
「ん、街に帰りたい」
セインツさんの実際にダンジョンを見に行くか? という提案にグリッドさんは本当に面倒くさそうに顔をしかめ、コリアさんもそれに同意している。
「セインツ、まさかとは思いますけどダンジョン発見の功績を自分のものにしようとしていませんよね?」
「なにを言っているんだいアキーナ。彼らはまだ冒険者じゃないんだ、報告をしても信じてもらえないだろう? だったら王級冒険者と特級冒険者である私たちが報告したほうがいいじゃないか?」
「ダメです。冒険者には申請すればすぐになれます。初級冒険者になる彼らにとってダンジョン発見の報酬も、功績も大きな財産になります。横取りは王級冒険者としてみっともないですよ」
「そういうものかい? それならば報告は彼らに任せることにしよう。だけど、初級冒険者としての彼らの申告だと、ギルドから特級冒険者以上に確認の依頼が出る。それを前倒しで私たちがやっておくというのは彼らのためにもいいと思うんだけど、どうかな?」
「……確かにそれなら」
う~ん、なんとなくもやっとする? セインツさんに悪気はないんだろうなぁというのはわかるんだけど、結局は『田舎の少年』である僕を『村の子供A』みたいに見ているってことなんだよね。
別に僕たちはダンジョン発見の報酬とか功績とかは別にいらない。いままで集めてきた魔晶や素材がアイテムバッグにたくさん入ってるから、なんとか暮らしていけるだけのお金は手にすることができるはずだし、功績なんていうのはやっと冒険者になれるんだからゆっくりと積んでいけばいい。
だけど、僕たちのことをなんにも知らないくせにたびたび見下されたり、馬鹿にされているような扱いをされるのはちょっとむかつく。確かにレベルは大きく違うけど、僕たちのほうがスキルの数は多い。実戦経験だってダンジョンの中でそれなりに積んできているんだから、戦ってもけっこういい勝負ができるんじゃないかな。
『ほぉ、悔しがるなんていい傾向じゃねぇか。なんだったら稽古付けてもらうふりして一勝負して貰えばどうだ?』
一瞬、タツマの煽りに乗ろうかと思った。レベル四十越えがどのくらい強いのかを知りたかったし……だけど、こんなことで喧嘩売るのもなんか違うよね。いまの僕はリミやシルフィ、メイと一緒に行動しているんだし、皆を巻き込むようなことは極力慎まないとダメだ。
『ふん、冷静だな。だが正解だぜ。これからテンプレはいくらでもあるし、アキーナちゃんに恥ずかしいところ見せたくないだろうからな』
『な! べ、別にアキーナさんは関係ないよ!』
『けけけ、そういうことにしておいてやるよ』
もう! タツマのやつ、訳の分からないことを。僕はただ、タツマの記憶にある黒髪黒目の女性がちょっと懐かしく感じただけだっていうのに。
「じゃあ、そういうことでいいかい?」
「あ、はい」
やば、話を聞いてなかった。結局どうなったんだろう?
「リューマくん。ハインツは言葉が足りないから、私からもちゃんと確認するね」
「あ、お願いします」
さすがアキーナさんだ。僕が一瞬戸惑ったのを察してくれたみたい。なんとなく聞き直すのもまた馬鹿にされそうで嫌だったから、本当に助かる。
「君たちは明日か明後日あたりに来るはずの定期馬車でフロンティスに向かってください」
ここは端っこの村なのに定期的に馬車が来ているんだ……あ、でもそんなこといったらポルック村だってトマス爺さんが定期的に来てくれていた。まあ、たぶんその周期はこことは比べ物にならないほど長いだろうけど。
「そこで、冒険者登録をしてからダンジョンの発見報告をしてください。私たちはリューマくんが見つけたダンジョンを確認にいきます。そのあたりの事情を書いた手紙をあとでお渡ししますので、報告と一緒にギルドへ提出をしてください。私たちがダンジョンの確認を終えてフロンティスでそれを報告すれば、リューマくんが発見したダンジョンとして正式に認められると思います」
「はい、わかりました」
うん、妥当な対応なんじゃないかな? タツマもなにも言わないしね。それになんだかこの人たちといると疲れるからもう皆のところに帰りたいよ。




