セインツ → 問答
「待たせしてすまない。まさか、山側から人が来るとは思っていなくてね。念のためいろいろ確認させてくれるかい?」
「はい、勿論です」
金髪イケメンの人が村の門を開けて、さわやかな笑みを浮かべながら僕たちに近づいてくる。
「おっと、まずは自己紹介からだね。私はセインツ。これでもいちおう王級冒険者をやらせてもらっている。あと三人ほど特級冒険者のパーティメンバーがいる」
なるほど……自らのランクと仲間の存在をにおわせることで、もし僕たちがよからぬことを考えているなら覚悟しろよってことかな? まあ僕たちにそんなつもりはまったくないけど。
「えっと、僕はリューマです。山の向こうのポルック村から冒険者になるためにフロンティスに向かっています。こっちは僕の仲間でこちらから、リミナルゼ、シルフィリアーナ、メイです。こちらに村があることは山の上で初めて知りました。フロンティスに向かう前にできれば村で一泊させてもらえればと思って、立ち寄らせてもらいました」
「へえ、ずいぶんと礼儀正しいね」
僕の挨拶を聞いたセインツさんが、礼儀正しい子供を褒めるかのように感心している。僕はちゃんと成人しているんだからちょっと失礼なんじゃないかな? そういう態度はなんとなく好きじゃない。
「それに……ポルック村? 聞いたことないな。開拓村かい?」
「はい、たぶん僕たちの村はもっとも大森林に近い村だと思います」
実際にはだっただけど、いつか絶対に復興させるつもりだし、だったとか言っちゃうとシルフィがまた責任を感じちゃうからこれでいい。
「あの魔境に一番近い? ……あぁ、そういえば聞いたことがある。むかし皇級冒険者がスラムにいた人間や獣人たちを引き連れて北の果てに旅立った、とか」
たぶん、父さんのことだ。凄い! 教えてくれなかったけど、父さんは皇級(A)冒険者だったんだ。この目の前のレベル40越えの人よりも上だなんて、さすがは父さんだ。
確かにレベルでは父さんのほうが低いけど、父さんは【気配探知】があって【狩猟】や【解体】もあって狩りが得意だった。いろんな獲物を狩ってきてくれる父さんはきっとギルドの評価も高かったんじゃないかな。
ちなみに僕は【狩猟】スキルを持っていない。遭遇した魔物を倒すのは厳密には狩猟じゃないってことなのかも。きちんと獲物の痕跡を見つけて、追跡して狩るとか、罠にかけて狩るとかそういうのが必要なんだと思う。
「そうですね。たぶんその人たちが作った村がポルック村だと思います」
「そうか……ずいぶんと過酷なところで育ったんだね。でも、どうしてわざわざ山を越えてきたんだい? 多少遠回りでも山を迂回してきたほうが魔物も少なくて安全だったと思うんだが」
セインツさんの目がほんの少し鋭くなった。まあ、危険を避けるのは当たり前のことだから、あえて山を越えようとする人なんていないよね。
「僕たちは冒険者になりたくて、田舎から出てきました。成人したてでしかも田舎から出てきた新人なんて、街にいる他の冒険者の人たちに馬鹿にされるんじゃないかと心配だったんです。だから少しでも強くなってから街に行こうと思って訓練のために山に入ったんです」
「あぁ……確かにフロンティスくらいの街になると、新人に脅迫まがいの指導をしようとする品性の欠片もない冒険者はいるね。でも、その辺はギルドでも気をつけているし、それほど気にする必要はないよ」
さわやかな笑顔で心配ないさ、と金髪をかきあげるセインツさん。だが、そんな言葉を僕たちは信じるわけにはいかない。もしなにかあったとしたら、ひどいことされてしまう可能性が高いのは僕よりもリミやシルフィだ。ふたりが泣いたりするようなことは絶対に嫌だ!
「僕たちは街がどんなところだか知りませんし、たぶん大丈夫だろうと思って痛い目に遭うくらいなら少しでも強くなることを目指します。幸いにも山に入ったらちょうどいいダンジョンを見つけたので、じっくりと鍛えることができました」
「なんだって? ごめんね、いまダンジョンがあったって聞こえた気がしたんだけど」
「はい、四カ月くらいでしょうか? ダンジョン近くに拠点を作って活動していました」
「四カ月だって! ちょっと待って…………だが……辻褄はあう。よし! 君たち、えっと……なんて言ったっけ?」
「リューマです」
「そうだった。リューマくん、村への立ち入りを許可するよ。泊まれる場所も私から言って準備してもらう。だからダンジョンについて中でもう少し詳しく聞かせてほしい」




