道 → ダンジョン
「リュー、あれなに?」
「どれ? あぁ、あれ。あれはハギリトビっていう鳥だよ。細長い翼で速く飛ぶのが特徴で、その翼で葉や枝を斬り落とすんだ」
「へぇ……どうして斬るの?」
「葉っぱに隠れている餌や、枝についている果実を落として食べるためっていわれているかな」
「じゃあ、これはなに?」
「これ? お、よく見つけたね。野生のチゴの実だよ……っと、ほら食べてごらん」
「うん! ……えっと、甘酸っぱい、かな?」
「そうだね、甘いけどちょっと酸っぱいから甘酸っぱいで合ってるよ。おいしい?」
「うん、おいしい!」
「じゃあ、じゃあ、あれは?」
「あれはね……」
ダンジョンを旅立ってからのメイは終始こんな感じだった。見る物すべてが珍しく、触る物すべてが新しい、だから好奇心が止められないみたいだった。僕たちはそんなメイを温かく見守りながら、答えられることにはなるべく答えてあげるようにしている。いままでずっとひとりで暗いところにいたんだから、これからはいろいろなことを体験してほしい。
こうしているとのんびりと移動しているように思えるけど、適度に魔物も出てきている。でも、外だと精度が落ちるけど【音波探知】や、モフの嗅覚や野生の力? で魔物に見つかる前に発見できる。先に発見できればシルフィの弓で先制できるから、戦闘はあまり苦労はしない。この山でいままで遭遇したことのある魔物なら奇襲さえ受けなければ、今の僕たちなら十分戦えると思う。やばそうな魔物が出たら逃げればいいしね。
僕たちがいま歩いているこの山越えルートは、普通の人は絶対に通らないルートだから道がない。だけどシルフィのおかげで進むべき方向はわかるし、土の精霊たちに足元を軽く整地してもらっているので僕たちの後ろには獣道に比べたらかなり上等な道ができている。
僕たちが歩きやすくなるというのが一番の目的だけど、実はメイのダンジョンまでの道を作りたいという思惑もあった。メイは自分が生きるためのエネルギーを本体のダンジョンから得ているんだけど、いままで100年以上かけて蓄えてきた力はダンジョンの拡張と僕たちにプレゼント? してくれた装備やアイテム、そしてサブのコアや義体の作成で使い切ってしまっている。
本体のダンジョンがあの場所から湧き出ている力を吸収して、サブのコアにもエネルギーを供給してくれているからメイはこうして動ける。それで普通にメイが体を動かすだけなら問題ないし、食べた物もわずかながら義体を動かすエネルギーにすることができたらしいけど、とても新たに凄い宝物を生みだすだけの力は蓄えられないんだって。
それを聞いたら、なんだか申し訳ないよね。だから、新しいダンジョンを見つけたことにして冒険者ギルドに報告したら冒険者が探索に行くんじゃないかなと思ったんだ。
メイのダンジョンは低階層の難易度は高くないし、腕試しにはちょうどいいと思う。もちろん万が一にもメイのコアが壊されないように、最下層には簡単に入れないように工夫したし、コアもわからないように隠しておいた。
本当は最下層を切り離しちゃいたいんだけど、コアのある部屋と繋がっていないとメイのダンジョンとして認識されないんだって。これはコアについても同じでダンジョンの壁に深く埋め込んじゃうと、ダンジョンは蛇の抜け殻みたいになっちゃうみたい。
えっと、つまりメイのダンジョンは中に人間が入って魔物と戦っているだけでもメイの力になるから冒険者が来ればいいなぁって。
状況だけ考えるとメイの餌にするために知らない人を誘い込んでいるみたいだけど、基本的にメイはダンジョンとしては何もしない。冒険者が来てくれるようなら、その数に応じてある程度の宝箱は出すけどね。
それなら、もともと冒険者はダンジョンに入るものだし、ダンジョンの魔物はメイが意図的に生みだしている訳じゃないからそこで冒険者たちが怪我をしたり命を落とすようなことがあってもそれは自己責任だと思う。むしろ他のダンジョンよりも安全なのは間違いない。メイのダンジョンは危ない罠とかもないしね。
ただ、フロンティスからは結構離れているから本当に来てくれるかはわからないけど……。
いちおう、こうして山道を作ったり、野営のたびに土の精霊魔法で簡単な家を作ったりしてるから、移動の苦労は軽減されるはずなんだけど、こればっかりは冒険者次第かな。
「りゅーちゃん! てっぺんを越えたよ! 麓に村が見えるよ」
そんなことを考えていたら先頭を歩いていたリミが振り返って手を振っていた。
「リュー! 村だって! むらー! ……むらってなに?」
「ふふふ、メイ。それならば自分の目で見てみればいいと思いますよ」
「あ、そうだねシルフィ。じゃあ、一緒に行こう!」
「あら、わかりましたからそんなに引っ張らないでください」
シルフィがメイに手を引かれて走っていく。リミとだと姉妹に見えるけどシルフィとだと身長差も相まって姉妹というよりもまるで仲のよい親子みたいで微笑ましい。
『いよいよ人里だな』
「うん、山を越えちゃえばフロンティスまではあと少しかな。あの村でいろいろ聞けるといいけど」
『……だな』
「ん? タツマどうしたの、なんか気になることがある?」
『……いや、なんでもない。さあ行こうぜ、そろそろ野営できる場所も探さなきゃならないだろ』
「そうだね。早めに休んで明日は山を下りられるように頑張らなきゃね」




