ダンジョン → 旅立ち
「め……い? メイ、メイ! 私、メイ?」
「うん、どうかな? 気に入らなければまた考えるけど……」
「ううん! 嬉しい! さっきの嬉しいがまた大きくなった!」
よかった。こんなに喜んでくれるなら名前を考えた甲斐があった。最初に頭のなかでダンジョンの子だから『ダン子』とか考えたら速攻でタツマからダメ出しされたときはちょっと途方にくれたけど……タツマの世界の言葉から迷宮のメイ、迷路のメイから取った名前は気に入ってくれてよかった。
「メイちゃんか……うん! 可愛い名前だね、りゅーちゃんが考えたにしてはいい名前だよ」
「はい、私もそう思います」
ちょ、そんなに信用ないならふたりで考えてくれればよかったのに……そう思って抗議の視線を送るけどふたりは知らんぷりだ。
「私はリミナルゼ、リミって呼んでね。改めてよろしく、メイちゃん」
「うん! よろしくリミ!」
「私は深森のシルフィリアーナと申します。シルフィと呼んでくださいねメイさん」
「わかった! よろしくシルフィ! 私はメイだよ!」
ぶっちゃけ性別はよくわからないんだけど、見た目の選択をリミとシルフィを基にしているくらいだから、たぶん女性的な部分が強いのかも。ああして三人で話しているのを聞いていると普通に女の子同士って感じだよね。
名前:メイ
状態:健常
LV:1
称号:なし
年齢:114歳
種族:―――――
技能:なし
特殊技能:迷宮創造(作成/変成/消去)
才覚:創造の才(つくることに対して大きな補正がかかる)
そしてメイから孤独の称号がやっと消え、成長を妨げていた枷がなくなったせいか眠っていたらしい才覚が目覚めていた。
これでレベルも上がるだろうし、スキルも覚えることができるようになるんじゃんないかな。スキルが覚えられるようになれば、トレードもできるようになるから才覚を活かすためにも、メイには生産職系のスキルをたくさん覚えてもらいたい。
◇ ◇ ◇
「よし! いよいよ出発だ。皆、忘れ物はない?」
「うん、ばっちりだよ。りゅーちゃん」
「はい、掃除もして綺麗になりました」
「きゅきゅん!」
『早く行こうぜ!』
お世話になった手作りの家を前に、旅立ちの日に合わせて洗濯された衣服と、しっかりと手入れされた装備に身を包んだ僕たち。その目は、これからのことに対する期待感からなのかキラキラ輝いているような気がする。まあ、タツマだけはどこが目だかわからないけど。
「リュー、私嬉しいよ!」
そして、リミと手を繋いだ身長140センテくらいの光沢のある茶色の髪を腰まで伸ばした少女が、まだぎこちないながらも嬉しそうに笑っている。
「うん、天気もいいしね。無理しないで、楽しんでいこうねメイ」
「うん!」
リミの服でもちょっと大きかったから、予備の服を【裁縫】スキルで調整して着ているメイは顔だちが似ていることもあって、ケモ耳と尻尾こそないけどぱっと見はリミと姉妹だといっても通じそうなくらいに可愛い。
ただ、基礎となったものがダンジョンだったせいか肌は小麦色、髪は濃い茶色、瞳も茶色だった。メイはシルフィの肌の白さを羨ましがっていたけど、僕もリミもそんなに肌は白いほうじゃないしそこは我慢してもらった。でも、メイが【変質】のスキルをもっと使いこなせるようになれば、いつか思い通りに体を作れるようになるかもね。
だって、たった十日でこうして外に出られるようになったんだから。
メイと出会ったあの日から僕たちは、メイをダンジョンから連れ出せるようにするための試行錯誤を始めた。コアの分離というか複製の作成は時間をかければ出来そうだというメイが言うので、そこはメイに任せた。そして、午前中は僕とタツマが人体の構造を説明して、その間はリミたちが低階層で訓練。午後からはリミとシルフィがメイに一般常識とかを教えるという名目のガールズトークをしている間に僕がモフと一緒に訓練。
メイに言わせると、ダンジョンに湧くモンスターたちは人間でいう白血球のようなもので、勝手に増えるからいくら倒しても問題ないらしいからね。ただ、宝物に関しては作るのにかなり力を使うらしい。長年溜めていた力を僕たちのために使ってしまったみたいで、サブのコアを作るのに力を集中している今は作り出すだけの余力がないんだって。
やけに僕たちに都合のいいアイテムがポンポン出ると思っていたら、僕たちを観察しているときに僕たちが『こんなのが欲しい』と言っていたのを聞いて用意してくれていたからだったらしい。これはもう、本当にメイに感謝だった。この恩を返すためにもメイを絶対に連れ出す。改めて決意した僕たちの行動は、こうしてメイ自身の努力の下に報われ、今日を迎えることができた。
昨日、初めてダンジョンから出たメイの喜びようときたら……目に見えるもの、手に触れるもの全てに感動していた。初めて人間の食事もして、とっても美味しいって褒めてくれたしね。今までずっと、暗いダンジョンの中にひとりだったんだから、これからはもっともっといろいろなものを見せてあげたいし、いろいろな美味しいものも食べさせてあげたい。
「よし、行こう」
僕の声に思い思いの返事をする仲間たちと一緒に家へ背を向け歩き出す。こうして僕たちは思いがけない仲間を加え、たくさんのものを僕たちに与えてくれたメイのダンジョンを旅立った。




