少女 → 独白
とりあえず、すぐにタツマへ鑑定結果を伝える。僕の推測が間違っていなければタツマからも同じ答えが返ってくるはず。
『それは、あれだな。ダンジョンマスターかダンジョンコア、もしくはダンジョン型の魔物。この三択だろうな。ただ、ダンジョンマスターというには、知識がなさすぎる。ダンジョンコアというには自我が強い。そしてダンジョン型の魔物というには人間的すぎる』
そう! まさにタツマの言う通り。まぁ、その辺の僕の知識はタツマの知識から得たものだから当然同じ判断になるんだけど……。タツマの世界にあったお話しの中のダンジョンを作る『なにか』の類型にこの子は微妙に当てはまらないんだ。
もちろん世界が違うんだから当てはまらないことは不思議じゃないんだけど……僕が父さんから聞いていたダンジョンの話では人と話すようなダンジョンはいなかった。もっともダンジョンが最下層まで攻略された話なんて何十年に一回あるかないかで情報自体が少なすぎて、なにもはっきりしたことはいえないんだけど……。ただひとつだけわかるのは、このダンジョンが彼女(?)そのものなんだろうということ。
「ねえ、おとうさんとおかあさんってどこにあるの? わたしもなまえとかいうやつもらってみたいな」
「えっと……お父さんとお母さんっていうのは物じゃないんだ。その人を産んでくれた人? っていうか君の場合は作ってくれた人……になるのかな? きみはいつからここにいるの? 気がついたときに近くに誰かいた?」
「いない……わたしの周りには誰も、なにもなかったよ。気がついたときは土の中だったから」
「……」
「それからね、ちょっとずつ力を溜めて少しお部屋を広げて、また力を溜めて少しお部屋を広げて……ずっと、ずっとそれを繰り返してたの。なんかそうしなきゃいけないと思ったから」
伏し目がちに一生懸命説明をしてくれている少女の形をしたダンジョン。その様子を見ていると本当にただの少女にしか見えなくなってくる。
「そうなんだ……」
「うん、でもお部屋がお外に繋がったときは嬉しかったなぁ……お外に繋がったら、お部屋にいろんな子が出てくるようになったんだよ。でも、あんまりおもしろくないの……ただうろうろしているだけだし、言うこと聞かないし、勝手に外でていったりするし」
どうやら魔物たちはこの子の意思とはあまり関係なく湧くらしい。しかも支配下にあるようなものでもなく、意思の疎通すら取れないのか……。硬質な岩肌の顔は無表情のままなのにどこか寂し気に見えるのは僕の勘違いなんだろうか。
「でもね! ずっと、ずっと、ずぅぅぅっと待ってたら、あなたたちが来たの! あなたたちが初めての人間だった。最初はやっと飢えが満たせると思ってたの。でも、あなたたちをずっと見てたら、あなたたちがいつも、本当に楽しそうだったから、いつの間にかわたしも嬉しくなってたの。そのうち、わたしに気付いてほしくてあなたに悪戯したりもしたの。慌てたり、転んだりするのを見て本当に楽しかった。だからもう、飢えとかはどうでもよくて、あなたたちと会いたかったの」
ちょ、飢えとか完全に捕食する気満々だった? でもそれよりも! 僕ばっかり変な罠に引っかかってたのは全部この子の仕業だったの? もう! リミたちの前で何回恥ずかしいおもいをしたと思ってるのさ。
……でも、今度はちょっと嬉しそうに見える。僕はこの子をどうすればいいんだろう。確か、ダンジョンの心臓部は高純度で特大の魔晶と同じかそれ以上の価値があるって父さんは言ってた……きっと、この子を倒してそのダンジョンコア? 的なものを持って帰れば大金持ちになれるんだよな。
『……恐怖喰いに苦痛喰いか、おそらく人間がここで抱いた恐怖や苦痛を餌にするんだな。だが、リューマたちは楽しんでダンジョンを攻略していた……安全マージンもしっかりと計算していたから苦痛を感じる程の怪我もしなかった。そうこうしているうちにやつらの能天気さに感化された自我が形成されたってところか?』
『ん? タツマ、いまなにか言った? ちょっと考え事してて聞いてなかったんだけど』
『あぁ? ……あぁ、おそらく、この場所はなにかの力が溜まりやすいんだな。その力がなんなのかは俺にはわからねぇ、魔力なのか魔素なのか龍脈の力なのか……とにかく、そんな力が長い年月積もりに積もってダンジョンコアが生まれる。生まれたダンジョンコアは集まる力を糧にしてダンジョンを広げ、地上とつながろうとするんだろうな?』
『どうして?』
『どうしてって……そりゃあ、お前。人間を吸収するため……じゃねぇか?』
『誰に命令されたわけでもないのに?』
『う~ん……魔物が人を襲うのに理由はねぇだろ? 本能みたいなもんなんじゃねぇか』
むぅ、タツマの言うことは多分その通りなんだろうな。でも、僕にはこの子が悪い子には思えない……。あまりにもひとりぼっちで寂しくて寂しくて、やっと遊んでくれそうな人を見つけてはしゃいでいる子供にしか思えない。それなのにこの子を倒すとかいいのかな? お金がたくさんあるのは悪いことじゃないと思うけど……この子を殺してもらったお金はきっと嬉しくないと思うんだ。
「りゅーちゃん」
僕がひとり思い悩んでいるといつの間にか隣にまで来ていたリミが僕に微笑みかけていた。




