開錠 → さすたつ
「じゃあ、そうしようか。リミ、道案内よろしく」
「にゃ! …………う~、りゅーちゃんのいじわる!」
「あははは、ごめんね。リミ、拗ねるリミが可愛くてつい……」
「え……あ! またからかったの? もう!」
リミは別に方向音痴じゃないんだけど、猫人族の人は好奇心旺盛で興味の対象がくるくると変わる傾向があるから、道とかをあんまり覚えない人が多いんだ。リミもその例に漏れずって感じで、街中の道とかは問題ないけどダンジョンみたいな複雑に入り組んだ場所にくると道を覚えきれなくなっちゃうみたい。
『ちょっと待ったリューマ! せっかくここまで来たんだからちゃんと隅々まで調べろよ。あそこの壁の下のところに窪みがあって、その中に宝箱があるぜ』
「え! 本当に?」
タツマに言われるがままにしゃがんでみると確かに宝箱が見える。あの位置は視点の低いモフやタツマじゃないとわからないよ。僕の【音波探知】もだいぶ慣れてきたけど、まだまだ大雑把な感じにしか判別できないし。
『ほら! そんな言い訳はいいからさっさと開けちまえよ』
はいはい、タツマは相変わらず容赦ないなぁ。
「ふたりともちょっと待って、あそこに宝箱があるみたいだから」
「は~い。 次はなにが出るか楽しみだね、りゅーちゃん」
「そうだね」
でも前に考えた僕の仮説が正しかったのか、このダンジョンで出た宝箱にははずれがなかった。あ、もちろん宝箱自体が罠で中身が取れなかった場合は別だけど、ちゃんと開けられた場合は軒並み魔道具や特殊な効果のあるダンジョン産の武器や防具だったんだ。
おかげで僕たちの装備関係はこの三か月で一気に充実した。ただ、気になるのはあまりにも僕たちに都合がいいアイテムばっかり出たこと……かな? ダンジョン産の装備はいい物が多いというのは常識らしいけど、僕の槍、リミの双剣、シルフィの弓……他にもいろいろ今の僕たちにピッタリな装備がたくさん出たんだ。
まあ、考えても理由なんてわからないし、僕たちにとってはありがたいことだから、最終的にはダンジョンって不思議なところなんだなって思うことにしたけど。
とりあえず今回の宝箱。まずは窪みの中に罠がないかを確認する。【音波探知】をしてからタツマを中に放り込んでチェック。なにもないとわかったら手を突っ込んで宝箱自体を引っ張り出す。大きさ的には15センテ四方くらいだから片手で引っ張り出せる。
最初は宝箱の鍵穴に【音波探知】を使って罠の有無を確認したあと、タツマに協力してもらいながら罠の解除を練習してたんだけど、タツマの推測通りに僕は【罠解除】のスキルを修得した。ついでに【開錠】なんてのも覚えた。
その後は覚えた【罠解除】と【開錠】スキルを使いながら鍵穴をこちょこちょすれば……なんとなく解除の仕方や開錠の方法が頭に浮かぶ。……どうやらこの宝箱には毒針の罠がかかっているみたい。だけど、スキルが反応した時点でもう解除は成功したみたいなもの。失敗するときは罠があることに気がつかないからね。
「よし、開いた」
カチリという音がした宝箱の鍵穴から手製のピッキングツールを抜きだしてアイテムバッグにしまうと、そっと蓋を開ける。
「あ! また指輪だね、りゅーちゃん」
「そうだね。でも今まで見たことない形だから、新しいアイテムかな」
取り出した指輪は銀のリングに薄いブルーの小さな石が嵌められているだけで、ぱっとみた感じだと高級感はなさそう。でも、たぶんこのダンジョン内で出てきたアイテムだから、なにかの効果がついた魔道具のはずだと思うんだ……【鑑定】。
『偽神の指輪 偽りを司る神のごとき力を秘めた指輪。自らは【偽装】しつつ、他者の偽りは【看破】する』
「ダブルスキル持ちだ。……これ凄いアイテムなんじゃない?」
『ばっか! 凄いところはそこじゃねぇ! 内容だ、な・い・よ・う! そいつがあれば自分のステータスを偽装しつつ、相手の偽装を見破れるってことだぞ。人魔族やつのステータスを見たときのこと忘れた訳じゃないだろうが』
あ、そうか。確かにポルック村を襲った人魔族を【鑑定】したとき最初は表記がおかしかった。あれはやっぱり自分のステータスを偽装していたからだったんだ。
『多分だが、今のお前らのスキルの数は世間的にみれば異常だ。誰かに漏れたら、ひと悶着あることは避けられない。でもこいつを使ってほどほどのステータスにしておけば回避できる。しかも【看破】があれば、自分たちは騙されることはないってことだ。しかも俺の勘だが、この【看破】はかなり用途が広い良いスキルだと思うぜ。指輪にしておくよりはお前が持っているべきじゃねぇか?』
言われてみれば凄いスキルかも……情報はそれだけで大きな武器になるし、世間知らずな僕たちが街の人たちに騙される可能性も減る。でも、別に指輪のままでもいい気がするけど?
『指輪のままだと、盗まれたりしたらアウトだろ。それにお前が持っておけば【統率】の効果でお嬢ちゃんたちにも効果が及ぶじゃねぇか』
おお! なるほど! さすがはタツマだ。さすたつ!




