光 → 目覚め
魔力はまだ少ししか回復していないので無駄撃ちは出来ないけど、初めて使う魔法だから使用感は確かめておかないと不安なんだよね。
ということで、取りあえずまだ火傷の跡が消えきらない手のひらを上に向けて光の球をイメージしてみる。
「おぉ……明るい」
リミの発動速度と比べたら大分遅く感じるがそれでも数秒で生み出された光の球が室内を明るく照らしている。
『よし、リューマその球を天井付近にとどめて維持してみろ』
タツマの無茶振りという名の訓練はいつも唐突に始まる。もう、なれたから別に驚かない。言われるがままにイメージを推移させ軽く手を押し上げる。
押し上げられた光の球は慣性に従うかのような動きでふわりと浮き上がり天井付近で止まるとそのまま室内を照らし続ける。
『魔力の消費の方はどうだ?』
「うん……四属性は維持するのに魔力を削られてたけど、【光術】は大丈夫みたいかな」
『なるほどな……だとすると光や闇の属性は込めた魔力の分だけ効果が維持するのかもな。為になるぜ』
「っていうかタツマは光も闇も魔法は使えないけどね」
『うっせ!いつスライム無双伝説が始まるかわらなねぇだろが!知識は大事なんだよ』
そんなふうにタツマと気の置けない会話をしていると、さっきの言葉を裏付けるように、天井から室内を照らしていた光の球が徐々に小さくなって消えていった。お試し程度の少ない魔力だったからその分持続力がないということか。
「そう考えると、アドニスがかけた精神支配の【闇術】の魔力がまだ尽きていないから術が解けないってことかな?」
『多分……な。精神支配なんていう大層な術の魔力消費が軽い訳ねぇとは思うから放っておいても遠くないうちに解けるかもしれないぜ』
そうなると、逆に今の僕の魔力じゃ解除しきれない可能性もあるか……
「うん、でもせっかくだからやってみるよ。今は失敗しても解除の見込みがあるって分かっただけでも気分が楽になったしね」
『だな。試しても無駄にはならないだろうから好きにすればいいさ』
えっと……イメージとしてはエルフの頭の中にある闇を光で照らすというか打ち消す感じでいいか。
手のひらに光を集めるイメージ……それをエルフの額に乗せて送り込む。
……あぁ、なるほど。こっちから送り込む光が何かに抵抗されているような感触がある。ただ、思ったよりも抵抗は小さい気がするから精神支配の魔力は大分消費されていたのかも…………
もしくはハイエルフの抵抗力が強くて消耗が激しかったという見方もあるか。
もしそうなら、この人はこんな状態でもちゃんと戦っていたのかもしれない。
それもこれもまずはこれがうまくいってからの話。手応えはある……もともと少なかったけど、残りの魔力を全部【光術】に注ぎ込んで強く!一瞬でもいいから強い光で闇を吹き飛ばす!
『うお!』
『きゅぅぅうん!』
瞬間部屋の中が白い閃光に包まれた。持続時間0、光量最大の光魔法だ。これで駄目なら、時間経過での解除を待つか、僕の魔力の回復を待つか、リミに渡して使ってもらうしかないけどリミも今は魔力枯渇中か……最悪明日以降になっちゃうかも。
ちょっと魔力が回復する度に、すぐにまた速攻で魔力を使い切るとかどんな1人ドSプレイかと突っ込みたくなるような酷い目眩を感じつつ、まぶしさに閉じていた目を開けてエルフの顔を覗き込んでみるがエルフの目は閉じられていた。
一瞬何か変化があったのかと思ったけど、意識は支配されていてもまぶしい時に目を閉じてしまうのは普通の反射行動か。
「すいません。聞こえますか?僕の言っていることがわかりますか?……あなたを操っていた人魔族はもういません。意識が戻っていたら目を開けて返事をしてください」
呼びかける僕の声が聞こえたのか、エルフはぴくりと身体を震わせた後、ゆっくりと目を開けた。その目は静寂に包まれた湖水のような深い蒼……同じ目なのにさっきまでとはまるで違う。吸い込まれそうに深い蒼色でとても綺麗な瞳だった。
「良かった。どうやら精神支配は解けたみたいですね」
「あ……なた、が助け……てくれた、のを覚えて……います」
まだしっかりと意識が覚醒していないのか、小さくかすれた声だったがどうやら操られていた間の記憶もあるようだった。
「動けそうですか?動けるならすいませんが僕と一緒に来てください。あと、足の紐は解きます。でも申し訳ないですが手の紐は解く訳にはいきません。外套を貸しますのでそれで隠しておいてください」
危険はないと信じたいけど、やはり手枷を外すのは父さん達の指示を待ってからの方がいい。かと言って縛られているのを他の村人達に見られるのも皆を刺激しそうだから取りあえず隠す。外套はこの家にあったものだけど、非常事態だから借りてしまおう。……もちろん後でちゃんと返すよ。
「……全て、言う通りに致します」
記憶がある以上、自分がどういう状況に立たされているのかも理解しているのだろう。その表情は断罪を望む受刑者の顔だった。
今の僕にはその顔をどうにかしてあげるだけの判断は下せないし、どうなるか分からないのに適当な慰めを掛けてあげることも出来なかった。




