表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルトレーダー【技能交換】 ~辺境でわらしべ長者やってます~  作者: 伏(龍)
第3章 辺境都市編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

121/134

隠密 → 誘導

 僕はゴートさんと一緒に森の中を歩いていた。


「きゅん」


 おっと、モフも一緒だった。ただし、その頭の上にいつも乗っている緑色のぷるぷるしたものはない。この戦いではモフとタツマは別行動だ。

 僕たちはゴブリンたちを倒すことを決め、簡単に作戦を立てたあとにリミ、シルフィ、メイ、タツマの組と僕とゴートさんとモフの組にわかれた。

 あのゴブリンの集団と戦うときに、女の人が一緒にいるのは怖すぎる。だから今回は、スキルの出し惜しみはしない。すべてのスキルを全力で使いこなして、極力危険を排除しながらこの脅威を退ける。


 いま、リミたちはゴブリンたちの鼻を誤魔化すために、群れの風下に回り込んで準備をしている。見つけたゴブリンの巣は東の森を奥に進んだ場所。僕たちは巣を西側から見つけたが、冬が近いこの季節、風は北から吹いているので風下は巣の南側になる。僕たちが見つけたゴブリンキングは巣の東側付近にいるので、巣の周りを反時計回りに移動。南側でリミたちと別れ、僕とゴートさんは【隠密】を発動させたままさらに東側へと移動中だ。


 基本的には【隠密】と【誘導】を駆使して先にゴブリンキングを倒す。できればこのときに近くにいるジェネラル級のゴブリンも不意打ちで倒しておきたい。その後はリミとシルフィに遠距離から攻撃してもらい、その隙に離脱を計る。キングやジェネラルのスキルにも興味はあるが、いまのところまだ【鑑定】できていないし、【技能交換】をするためには攻撃の機会を一回無駄にすることにもなるので、余裕が無さそうな今回はこだわらないつもりだ。


『リューマ、こっちは準備よさそうだぜ』


 慎重に移動を続ける僕の脳裏にタツマの声が響く。僕とタツマの間では、多少距離があってもなぜかある程度の意思疎通ができるということにしてある。だから今回はメッセンジャーとしてリミたちのところに残ってもらった。作戦開始時にはタツマが変形して〇になり合図をする予定だ。


『ちょっと待って、こっちはもう少し……』


 音を立てないように下草をかき分けて、少し進んだところでゴートさんが止まれの合図をする。その合図は父さんにみっちり仕込まれたハンドサインだ。どうやら父さんから教わったハンドサインは、狩人が作り出したものじゃなく、父さんたちのパーティが使っていたものを、父さんが狩人たちに教えたものだったらしい。


『着いたみたいだけど、ゴーサインは待ってて』

『了解』

 

 ゴートさんが木の陰から巣をのぞきこんでいるので、静かに同じ木に張り付くと同じように巣をのぞく。まず最初に目に入ったのはゴートさんよりも大きな浅黒い背中。


『ゴブリンキング

 状態:興奮(微)  

 LV:40

 技能:格闘3/威圧4/豪腕5/棒術2/剛体2

 特殊技能:眷属強化』


 強い。レベルが異常に高いし、近接戦に特化したスキル構成。そして、ゴートさんがキングを恐れていた理由は、おそらく特殊技能の【眷属強化】の存在。確かに最悪だ……キングに率いられたこの数のゴブリンが町や村を襲ったら、多少の防衛策があったとしても絶対に守り切れずに全滅すると思う。だって、キングの周囲にいるジェネラルすらレベルは三十代越えだし、近接系のスキルも豊富。このジェネラルが強化されて襲ってくるなんて、もうそれだけでキング級の危険度だ。

 だからこそゴートさんはゴブリンキングだけは先に倒しておきたかったんだ。


「リューマ、いけるか?」

「は、はい」

「よし、じゃあ引き続き【隠密】を頼む。俺は同時に【誘導】で周囲のゴブリンたちの注意が俺たちに向かないようにする。その状態でなんとかキングまで辿りつく。チャンスは一度、最初の一撃で必ずキングを倒す。俺がキングを倒せば周りのゴブリンの注意は俺に集まるはずだ。そのタイミングで嬢ちゃんたちの陽動を開始させ、ゴブリンたちが混乱したその隙にお前は全力で離脱しろ」


 さすがに攻撃をしてしまえば【隠密】は維持できない。注目を浴びてしまえばゴートさんの【誘導】の効果も薄くなる。キングを倒したあとに逃げ出すのは難しい。でも、キングを倒したゴートさんが戦っているなら、僕は【隠密】をかけ直して離脱できる可能性が高い。でも……


「ふ……心配するな。俺はお前の親父と組んで冒険者のトップを走っていた(タンク)だぞ。ゴブリンごときが何匹いたって問題ない」


 僕の心配が顔に出ていたのか、つとめて明るい笑顔を見せてくれるゴートさん。確かに僕なんかが、父さんのパーティメンバーだった人の心配をするなんて傲慢だったかも。だったら僕は、ゴートさんが周りを気にせず戦えるように逃げるのが正解なのかも知れない。


「わかりました、始めましょう。リミたちの陽動は僕が合図をしてからだいたい十五秒後を見てください」

「わかった。もし途中で【隠密】と【誘導】が破られるようなら、前倒しで陽動を頼むことになる。なしでキングまでいけるならそのままいくからな」

「はい」


 タツマにもその旨を連絡して、僕とゴートさんは大胆に木の陰から出てゴブリンの巣の中へと入っていく。

 一歩……そしてまた一歩。慎重にゴブリンの隙間をぬって歩く。たぶん、この数のゴブリンがいると、ゴートさんの【誘導】がなければ僕たちの歩く隙間を作り出すことも難しかった。どれだけ姿を隠せても、無秩序に動き回るゴブリンに接触しないようにするのも厳しい。だけど、周囲のゴブリンはすぐ近くを通り過ぎていく僕たちにまったく視線を向けない。それどころか僅かに移動して僕たちの進路を開けてくれさえする。ゴートさんが周囲のゴブリンたちを【誘導】しているらしい。


 それでも、もしみつかったら……そう考えて思わずのどが鳴る。もし、どれか一匹でもゴブリンに見つかれば【隠密】も【誘導】も意味がなくなり、この周囲のゴブリンたちが一斉に襲いかかってくる。そうなれば逃げるのも難しくなってしまう。ゴートさんがキングを倒したあとなら、ゴブリンたちも混乱するはずなのでなんとかなるかも知れないけど。


 土を踏む自分のわずかな足音すら忌々しく感じる。体感では何百メルテも歩いたような気がするが、実際にはわずか五メルテほどの距離だ。気が遠くなるような五メルテの緊張の後。


 僕たちの目の前にはゴブリンキングの大きな背中があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ