譲渡 → 友好
お時間あきましてすみませんでした。
前話までのあらすじ
東の森でゴブリンに襲われていた初級冒険者パーティを助けたリューマたちは、街への帰路へつく。
「嘘でしょ! 昨日冒険者になったばっかりなの!」
森からの帰り道、お互いに自己紹介をしているときに僕たちが昨日街に着いて、冒険者になったばかりだという話を聞いたスイレンさんが驚きの声をあげる。
「そうですよ、辺境から出てきてようやく昨日街に着いたので」
「でも、だって! リミちゃんはまだ成人したばっかりでしょ?」
「え? ……うん、そうだよ。あ! でもでも! りゅーちゃんだってリミとは半年くらいしか違わないよ」
僕の隣を跳ねるように歩くリミは、にへへと笑う。いままで同年代の知り合いは僕しかいなかったし、自分が今まで努力で身に付けた能力を素直に称賛されることなんてなかったから、ちょっと嬉しいんだと思う。勿論、僕もリミのことは認めているし、いつもリミを褒めている。だけど、リミは僕のほうがずっと強いと思い込んでいるのでイメージ的には上から褒められている気持ちになるみたい。本当は全然そんなことないんだけどね。
でも、スイレンさんたちからの称賛の言葉は純粋に自分たちよりも凄いと思った人に対するものだから、いざその立場になってみたら思っていた以上に照れくさかったらしい。
「年齢なんか関係ないよ。それだけの強さをその年齢で身に付けた、そこまでの努力こそが凄いんだと思う」
戦士でリーダーのライナさんが、なかなかイケメンなお言葉をくれる。僕たちもそう言ってもらえると嬉しいし、素直にそう言えるライナさんも気持ちのいい人だと思う。
「今日、俺たちは中級冒険者になるためのゴブリン討伐クエストだったんだ。あと二体で達成だったんだが、最近はゴブリンがなかなか見つからなくて、つい奥に入りすぎてしまった。まさか上位種のゴブリンがこの森で出るなんて」
リミの【回復魔法】で治してもらった左腕を撫でながら悔しそうなカイトさん。パーティの中では一番重装備で、きっと戦闘時はタンクとしてみんなの盾になっていたんだろう。
『ま、そのタンクが一番最初にやられてたんじゃ、話にならねぇけどな』
タツマの厳しい皮肉はとりあえず無視。さっきまで死にかけていた人たちにそんなこと言えないし。
「あ、そうだ。これはお渡ししておきますね」
僕はアイテムバッグにしまっておいた手のひら大の包みをライナさんに手渡す。
「え? リューマくん、これは?」
「さっきのゴブリンたちの爪と魔晶です。早くあの場を離れたかったので、僕たちで解体してしまいましたけど、もともと戦っていたのはライナさんたちのパーティですから」
早く移動したかったのも嘘じゃないけど、本当はリミに【解体】スキルを修得してもらうための練習をしてもらいたかったから強引に解体作業を奪っちゃったんだよね。このうえ素材や魔晶を持ち逃げしちゃったら、せっかく初心者仲間になれそうな人たちとの関係が悪くなってしまう。
それに父さんたちに、魔物の素材や魔晶は冒険者にとって大事な収入源。だから魔物の権利は先に見つけた人のもの。そう教えてもらった。今回はついとっさに助けに入ってしまったけど、助けを求められたわけじゃないし、僕たちが乱入して勝手に魔物を倒しただけ。経験値だけじゃなく素材や魔晶まで持ち去ったら、それはもう泥棒だよね。
「いやいや、ちょっと待ってくれ! 確かに複数のパーティが鉢合わせたりしたときはその通りだけど、今回は違うだろう?」
「えっと……なにか間違ってました?」
「間違ってましたかって……」
僕の回答に呆気にとられたような顔するライナさんの袖を後ろからスイレンさんが引くと耳元に口を寄せた。どうやら秘密の話があるみたいだけど、【音波探知】持ちの僕には全部筒抜けなんだよね、内緒話を聞くのはよくないとはおもうけど聞こえちゃうものは仕方ない。【音波探知】自体をオフにしていても聴力は上がっているので聞こえてしまう。
「ちょっと、ライナ。くれるっていうんだから貰っておこうよ。そうすれば私たちも中級冒険者になってダンジョンに入れるようになるよ」
「だが、そんなこと! 助けてもらって治療までしてもらったのに……」
「そうだけどさ、カイトの装備も買い直さなくちゃいけないし、今回のクエストの報酬がゼロってことになったら、そろそろ宿代もやばいよ。不義理だってのはわかっているけど、今回はお言葉に甘えようよ。ダンジョンなら今までより稼げるようになるし、ちょっと余裕が出たら返せばいいじゃない」
「……でも、そんな……」
う~ん、どうやらライナさんたちの常識では、さっきの戦いの戦利品は僕たちのものだという認識らしい。まあ、僕が父さんに教わってきた冒険者に対する知識は十年以上も前の常識だもんね。もしかしたらルールが変わってきている可能性はあるのかも。
「あのさ、リューマ君! これ、本当に全部私たちがもらっちゃっていいの?」
「スイレン!」
煮え切らないリーダーに痺れを切らしたのか、ライナさんから包みを奪ったスイレンさんが、ライナさんを押しのけるようにして前に出て僕に包みを見せる。
「あ、はい。今日の僕たちのクエストは『薬草採取』ですし、そちらはもう十分な量を集め終わってますから」
「そっか、えらいね。ちゃんと採取クエストから始めてるんだ。私たちは他の冒険者から教わって、店から買ったのを納品しちゃった」
「そうなんですか、受付嬢の人が最近はそういう人が多くて薬草の知識がない冒険者が増えていることを心配していました」
「そうだね、いまにして思えばちゃんと薬草採取をしながら森に慣れていけば、今日みたいなことはなかったかも。でも、私たちはダンジョンで探索することに憧れて冒険者になったんだ。だから少しでも早く中級冒険者になりたかった。そのことを私たちは後悔してないよ」
きっとスイレンさんたちもフロンティスの出身ではなくて、他の場所から冒険者を夢見て旅をしてきたんだろうな。その気持ちは僕にはよくわかる。
「すまない! この恩は必ず返す」
「いえ、そんな! 頭を上げてください。僕たちも冒険者としてフロンティスにとどまる予定です。同じ冒険者同士、仲良くしてもらえると嬉しいです。フロンティスは人族以外にはあまり優しい街ではなさそうなので、こうしてリミやシルフィのことを認めてくれる人たちが増えてくれるのはありがたいです」
勢いよく頭を下げるライナさんに慌てて手を振ると頭を上げてもらえるように伝える。街ではまだ肩身の狭いリミやシルフィが気兼ねなく話せるような関係になってもらえるなら、ゴブリンの素材や魔晶を譲っても全然安い。こうやって少しずつ亜人を差別しない知人を増やしていけば、いつかポルック村みたいな街になるかも知れない。
見えてきたフロンティスの壁と同時にフードを被るリミとシルフィを見ながら、いつかそうなればいいなと思わずにいられなかった。
お読みいただきありがとうございました。
これからもスキトレをよろしくお願いいたします。
そして、今日から新作を始めました。
女神にチートを腐るほどもらって異世界転生したのになぜかまったく無双できない
https://book1.adouzi.eu.org/n2409ei/
(作者ページから跳べると思います)
異世界チート転移もので、主人公チートなのに無双できないという話になります。
よろしければこちらもお読みいただけると嬉しいです。




