メイ → 継承
「あぁ! やっとフードが取れるぅ! 風がきもちいいよ~」
「ふふふ、そうですね。このあたりは風の精霊が元気です」
冒険者ギルドで『薬草採取』の依頼を受けた僕たちは、そのままフロンティスの東門を出て、森への道を歩いている途中。街の中では念のためにずっとフードを被っていたリミがうっぷんを晴らすように猫耳を風に泳がせている。
東門を出ると北側の畑作地帯とは違って平原が広がっている。こちら側は地盤が固いうえに水源が遠く農作地には向いてないのが理由らしい。おかげで人目を気にせずに自由に歩ける。
「歩いて一時間くらいみたいだし、のんびりいこうか。モフも走り回れるのが嬉しいみたいだし」
「きゅん!」
モフにとっても人の多い街中はストレスだったらしく、外に出てからは機嫌よく周囲を走り回っている。その無軌道なはしゃぎっぷりの代償をなぜかタツマが払っているらしく、モフの頭の上で酔っているっぽいけど……別に助けなくてもいいよね。
「リュー、メイも戦う?」
僕と手を繋いで歩いていたメイが僕の顔を見上げながら聞いてくる。確かにメイも冒険者として登録した以上は戦う力を身に付けていかなきゃならない。
「そうだね……少しずつがんばってみようか?」
「うん!」
嬉しそうに笑うメイだけど、いまのメイのステータスは
名前:メイ
状態:健常
LV:2
称号:なし
年齢:114歳
種族:―――――
技能:なし
特殊技能:迷宮創造(作成/変成/消去)
才覚:創造の才
このとおりレベル2でスキルが何もない状態なんだよね。これじゃあ戦わせるのは怖い、でもレベルを上げるには戦うのが一番効率がいいわけで……あとはいかに安全にメイが戦えるようにするかってことなんだけど。
基本は生活系のスキルを覚えてもらって、必要な身体強化系のスキルと交換していく流れだよね。でもレベルが上がってもスキルを覚える訳ではないから……となると装備でなんとかするしかないか。
となるとまずは、『騎士の指輪』。これには【剣術2】と【盾術3】があるから、攻撃手段としては有効だよね。あとはアイテムバッグに入れっぱなしだになっている『敏捷の指輪』、これには【敏捷1】が付いている。【剣術】【盾術】【敏捷】これだけあれば、僕たちがフォローすればゴブリンの一体くらいはなんとかなるかな。
剣のほうは……メイのダンジョンで拾った剣がいくつかあるんだけど。『鉄の剣』は一階層のボスだったゴブリンナイトが持っていた剣で、『良鉄の剣』は四階層のボスだったスケルトンナイトが持っていたもの。それ以降はまともな剣を持つ魔物には出会わなかった。でも、この武器だとさすがにメイには大きすぎて重いんだよな……あ、そうか。
「メイ、まずこのふたつの指輪を付けてもらえるかな?」
「うん! わかった。うわぁ、綺麗だねぇ……リミとおんなじだ!」
スキル付きの武具なんかは、自動でサイズ調整をしてくれるものが多い。中でも指輪系はほぼ百パーセントその機能が付いているらしいので、メイの小さな指にもちゃんとはまってくれるのはありがたい。
「そうしたら、ゴブリンナイトが持っていたこの小型の鉄盾と……この剣を持ってくれる?」
「あ、りゅーちゃん。それって……」
僕が渡そうとした短い剣をみて声を上げたリミに僕は黙って頷く。
そう、この剣は僕が剣の稽古が始まってしばらくした時に父さんから貰った、僕専用の剣だった。体が大きくなってガンツさんに新しい剣を打ってもらったあとも、初心を忘れないようにずっとアイテムバッグに入れて、たまに手入れをしたりして大事にしていたんだけど、まさか役に立つ日がくるとは。
実戦で使うにはリーチが短いから、僕たちのフォローは必要だと思うけど護身と経験のために持つにはちょうどいいと思う。使いやすさは自信を持って三ツ星を付けられる逸品だしね。
「そう、僕が初めてもらった剣だよ。でも僕にはもう小さすぎるし、メイが使ってくれるなら僕も嬉しい」
「うん! 大事に使う! リュー、ありがとう!」
にっこりと白い歯を見せて笑うメイはとてもダンジョンが作り出した義体とは思えない。きっとこれから、いろいろな経験をして自分の能力をもっとうまく使えるようになっていったら、もっともっと人間らしくなっていくと思う。
できればその成長を僕は見守っていきたいと思っている。もしかしたら、子供ができた親の気持ちってこういうものなのかも……




