第2章14「嘘吐きの末路 女帝編」
地雷海と呼称していた爆発魔の技は、見えない爆弾をいくつも仕掛けるものだったらしい。らしい、と言うのは恋愛脳野郎からのタレコミだからだ。
「そこら中に仕掛けられる訳じゃナイ、一度俺自身が通って印をつけておく必要があるンダ」との事で、それに加えて仕掛けられる数にも限りがあるらしい。
詳しい数までは聞き出せなかったが、味方を巻き込む可能性のある使い勝手の悪さから、単身敵地に乗り込む工作活動以外の用途は滅多にないのだとか。成程、つまりは開発不十分という奴か。
解除方法も至って単純。何か物を、仕掛けた場所に置く事らしい。一度限りの炎が瞬時に発せられ、対象を燃やし尽くすとの事だが、こと聖職者に限っては異なる解法を持っている。
「ここッ!」
浄化の恩恵に覆われた脚と拳の一撃で、その地雷たちも悉くが無力化されていく。その度に地下通路のあちこちが抉られ、ガラガラと何かが崩れる心臓に悪い音を立てていき、このまま埋められてしまうのではないかと不安になる。破壊姫、ストレス発散はまだ掛かりそうですか…?
「ふぅ。これで全部ですね」
忍者女もオレの横でドン引きの良い仕事をしたと、裾や袖の埃を払いながらスッキリした表情を浮かべている。ようやく終わった、と胸を内心で撫で下ろしたその時。
「さて、事後処理も済んだ所で。お互いに色々話をする必要がありそうだね?」
“ヤツヨ”の一言で、再びオレたちの中に緊張感が生まれる。改めて面々を見渡してみると、レイラさんと女神様を除いて、レイラさんを亡き者にせんと襲いかかってきた忍者女と、彼女もろとも消そうとした爆発魔の恋愛脳野郎という呉越同舟っぷりに、今更ながら頭を抱えたくなった。
(いや半分はオレの責任みたいな所あるけどさ!言い訳するつもりは無いけどさ!)
あぁ胃が痛い。現実世界から常備薬を取り寄せたい。せめて水分を取らせてくれ…。
「取り敢えず、お互い自己紹介と行こう。それとも、ボク相手に無差別戦闘としゃれ込むかい?」
女神様のありがたいお言葉に、反応はそれぞれだった。忍者女は舌打ちしながらも構えを解き、恋愛脳野郎もそれを見て長棍を壁にかける。
そんな中でレイラさんだけは、”ヤツヨ”を睨んだまま体勢を崩さなかった。
「…大方、先ほどの彼を殺した事への非難だろう。まぁ、それも後で説明するよ」
「それでも、私は貴女様の行動を認める訳にはいかない。何より、この月の賢者の前で行った罪科を見過ごす訳には!」
確かに、冷静に考えなくても教会関係者の目の前での蛮行は褒められたものじゃない。ただでさえレイラさんは、女神様を毛嫌いしている節があるのだ。
だが女神様は、そんなものは些事だと、歯牙にもかけない様子で肩をすくめるだけ。その表情の中に、若干の苛立ちが混ざっているように見えた。
「ハァ。良いだろう、キミの気が済むまで殴るなり蹴るなりすればいい」
それは感情の火に油をぶち撒けるだけではなかろうか。オレの心の突っ込みも虚しく、その言葉を待っていたとレイラさんは大きく踏み込みながら、拳に浄化の恩恵を纏わせる。彼女の拳から溢れんばかりの光が漏れ出ており、本気で”ヤツヨ”を殴る気なのだと悟った。
「そうさせていただきます!」
「キミに出来ればの話だけどね?」
その後の二人の攻守は、格闘技素人のオレからしてみれば異次元の戦いだった。レイラさんの拳が”ヤツヨ”の顔面を捉えんと、変則的なステップを踏み距離を詰めながら放たれ続ける。
蝶のように舞い蜂のように刺す、とは言い得て妙だろう。戦い慣れている人間が相手であっても、フェイントも織り交ぜた彼女の猛攻を耐え凌ぐのは容易ではない筈だ。特に、レイラさんの着る白い衣装は袖がダボっと垂れており、そこから繰り出される拳の数々はとても読み切れないだろう。
しかし”ヤツヨ”は、まるでレイラさんの拳の軌道を読んでいるかのように的確に避け続けていく。時に払い除けはするが、反撃という反撃は全くしない。二人の技術の差を見せつけるような様に、レイラさんの怒りのボルテージが上がっていくのが分かる。
「時に女教皇ちゃんーー」
中々レイラさんの攻撃が当てられず、いよいよ理性を失いそうになる頃合いを見計らったかのように、”ヤツヨ”が再び口を開く。…会話の途中でまともに拳を貰って口の中を切らないと良いがな、むしろ喰らってしまえとは思ったが、それを決して口にはしない。もう流れ弾に当たるのは懲り懲りだ。
「彼とボクの痛覚は繋がっていると言ったら、どうする?」
その“ヤツヨ”の爆弾発言が、レイラさんの身体をその場に縫い付ける。同時に、願わなかった流れ弾にオレも被弾した。
…おい待て今の発言。すると何か?オレは今まで、レイラさんの全力パンチを受けそうになっていたのと同義って事か?”ヤツヨ”の痛覚の横流しに遭っていたかもしれないって?普通に考えなくても、そんなのーー。
「卑怯、者…!」
”ヤツヨ”の鼻っ柱の寸前で止めた拳をわなわなと震わせ、声を震わせる。レイラさんの感情が、オレの感情とリンクしていく。尤も、オレの場合は理不尽を勝手に押し付けられた怒りで体が震えているのだが。
「おい駄女神、そんな話オレは聞いてないぞ!?」
「今言ったからね。大体、道標が無いと困るのはボクも同じなんだ」
「命綱ってそういう意味だったのかよチクショウ!」
文字通りの命綱という事実を認識させられ、オレの汗腺が一気に開く気配がする。ゾワリと身の毛よだつ感覚に、吐き気を催しそうになった。
「さて、どうしようか女教皇ちゃん。今こうして無防備なボクに、その拳を叩きつけるかい?良いとも、好きにしたまえ」
彼が痛みでのたうち回る事になるけども、と口外に宣告する畜生女神。くッ、折檻が嫌だからってそんな迷惑機能まで搭載しやがって…!
怒りで顔が歪むレイラさんも、理性のブレーキを必死にかけている。今ここでオレが制止するよう言葉を掛ければ、彼女も感情を抑えてくれるとは思うのだが、彼女の感情を否定したくないオレ自身もいる。ここは、どう行動するのが正解なのだろうか…。
「ふム、だとすると彼も災難だったナ」
そんな感情の琴線をすり抜けるように、恋愛脳野郎が他人事のような感想を口にした。こんな時に一体何だと、その場にいた全員がつい眉根を寄せる。
「痛覚があるのナラ、俺の炎による熱傷モ伝わっているという事だロウ?今の話が真実ナラ、悪い事をしたナと思ったんダ」
熱傷って、オレが向こうの牢屋で話をしていた時の話か?オレはそんなダメージを負った事は無いし、”ヤツヨ”自身そんな傷は無いように見えるのだがーー。
「…………」
おい、表情が固まってるぞ駄女神。すると何か?今の話は真っ赤な嘘だって事か?殴られたくない一心でついた出まかせって事か!?
「いや先ほどの話に嘘はない。そもそもボクは、熱傷なんて受けてないーー」
「だとしたラ、その足の傷は何ダ?」
恋愛脳野郎の話を受けてから”ヤツヨ”の足を検めると、確かに焼かれたような黒い傷痕。そのフィードバックをオレが受けるのなら、オレの足にも同じ傷があっておかしくない筈だ。
「オレの足に、傷は…ないな」
結果、疑いは黒。オレの足はしっかり動くし、痛みも感じない。つまり痛覚共有は、女神様の狂言だったという訳で。
「おい」
「信じてほしい。今までキミに嘘をついた事があったかい?」
「あったかもしれないし、無かったかもしれない。でも今はな」
そこで言葉を切って、一度大きく息を吸う。ようやく来た、折檻チャンスを無駄にしない訳にはいかない。
オレの言葉に合わせて、レイラさんの拳が力強く再び握られる。その照準は、言うまでもなく嘘吐き女神の腹の底。本心を曝け出させるには、拳の一撃で十分だろう。
「レイラさんの怒りをその身で受けろォ!!」
「次からは、選ばれる言葉に気を付けた方が宜しいかと…思いますッ!」
聖職者の拳は、悪の女神様の身体に深々と突き刺さる。まるで悪は滅んだと言わんばかりに、満足げにレイラさんが笑みを浮かべている気がしたが、オレはその様子を最後まで見る事は叶わなかった。
●地雷踏み潰してるよ、このヒロインちゃん…。
「地雷原」という名前こそいかついものの、実際はただの設置型の炎魔法。場所さえ解ればヒロインちゃんの浄化の恩恵で打ち消す事ができます。
また、現段階で「地雷原」の解除ができるのはヒロインちゃんのみ。戦闘で敗北した等、もし何かの拍子にヒロインちゃんが離脱する事があれば、この時点で主人公君は詰みます。
格闘姫はしっかり守らないとね!…え?字が違う?HAHAHAそんなまさか。
●月の賢者が怒る事
嘘をつく事は当然ながら、人道を外す行いには強い嫌悪感を示します。たとえそれがどんな相手であれ、ヒロインちゃんは制裁の拳を振るう事でしょう。
当然だろうって?意外とそれを貫き通し続ける事って、大変なんです。
●女神様との痛覚共有
この女神様、自分のダメージを主人公君に肩代わりさせるつもりだ!?
…実際は自分の受けたダメージ「の回数に合わせて」、固定のダメージを返す技術。
ただし、1(カウンターするのに必要な被弾回数):1(カウンターの回数)交換なら良い方、2:1や3:1、挙句の果てには8:1までカウンター発動に時間が掛かる事も。
その為、主人公君に返っていく衝撃はかなーり抑えられています。
とはいえ、戦闘に全く慣れていない主人公に固定ダメージを返すだけで悶絶するので、女神様には頑張って回避もお願いしたい所…。




