表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢渡の女帝  作者: monoll
第1章 日常が塗り替わる日
23/178

第1章16「ようこそ心世界へ ~講義編~」

 さて、少しだけ時を戻しながらカメラの視点をオレに戻そう。オレの眼前には一面がクリーム色の雲海が広がっている。…このくだりを見た事聞いた事があると思ったアナタは、記憶力が良いかもしれない。

 そう。オレの夢の入口にして、自称女神様と対面したあの場所だ。そして優雅にカップに手を伸ばしつつ菓子を頬張っているのが、その”ヤツヨ”である。


「キミの記憶から引っ張ってきた食べ物だけど、なかなか良い味だ。実はキミ、良い所の坊ちゃんだったりするのかな?」

「残念ながら平々凡々な庶民だよ。ってよく見たらお袋のシフォンケーキじゃねーか」


 確かにシフォンケーキはオレの好物だが。って、そんな事よりオレの記憶から引っ張ってきたとか言ったかこの女神。先ほど助けてもらったので少しは態度を改めようと考えていたのだが、今オレの目の前で行われている事が、オレの記憶モグモグタイムだったとしたらブチ切れるぞ。


「流石にそんな事はしないとも。今のキミとの関係を損ないたくないからね」


 「しない」と来たか、「できない」ではなくて。…参考までに聞くが、もしアンタが記憶モグモグタイムに勤しんでいたらオレはどうなっていたんだ。


「キミという人間がキミでなくなる。一つや二つなら多少の支障程度で済むが、いくつも記憶を食い潰してしまうと、中身が空っぽな状態…キミの誤解を恐れない言い方をするなら廃人化すると認識してくれたまえ」


 ならそのシフォンケーキは何だ、と聞いてみると、「キミの記憶を参考にしてボク自身が再現したものだ」との事。…正直まだこの女神のモグモグ疑惑は晴れていないのだが、これ以上追及するのはやめておこう。オレも、先ほどみたいなピンチの時に助けてもらえなくなったら困る。

 そんな事よりも。オレをこうして呼び出したという事は、夢の出口が見つかった!みたいな朗報を期待しても良いのだろうか。


「ノー半分イエス半分。残念、完答ならずだね」


 何のテストを受けさせられたんだオレは。というより、ノー半分イエス半分って何だよ。


「そう簡単には鍵なんて見つからないさ、なので半分ノー。ただし、これからの指針を示せそうだという目算で半分イエス。ノーとイエスの順番はボクの気紛れだ、気にしすぎないように」


 要するにあやふやな情報しか提示できないって事かよチクショウ。

 まさか、そんな事を言う為にオレをこんな所まで引っ張り上げてきたんじゃないだろうな。だとしたらすぐに戻させろ、それくらいの内容だったら、いつの間にか開通しやがったオレへの念話で十分だろうが。


「世間話のストックとトークスキルは、女の子との会話には欠かせない要素だ。この際しっかり身につけておくといい。ほら、面と向かって対話する事で浮かんでくるネタだってあるかもしれないだろう?」


 口元を隠しながら楽しげに笑う“ヤツヨ”の姿に、思わず心がゾワリと揺れる。…許されるのなら、いつかぶん殴ってやろうか、この駄女神じゆうじん


「まぁ冗談はこのくらいにして、そろそろ本題に入ろうじゃないか。…先ほどの、キミの不調についてだ」


 女神様の雰囲気が、先ほどまでの軽いお喋り程度だったものからズシリと重くなる。「キミもそのつもりで聞くように」と、言外に忠告されたような気がした。


「本来ボクのような余所者かつ神様もどきを召喚する奇跡なんて、キミのような人間が得られる可能性は万に一つもない。それを、いつでも可能にする…それが先ほどまでボクが考えていた、『キミへの助力』だった」

「だった、という事は考えが変わったのか?オレの他に良さげな物件を見つけたとか」

「そう、考えが変わった。他でもない、今の棲家すみかであるキミの変調を目の当たりにしたからね。勿論、他に良い移住先があれば天秤に掛けるが、無いものをあれこれ議論した所で意味はないだろう?」


 …それは確かに。そもそもオレの夢の出口がないと言う以上、物件探しも不可能という事か。オレも考えが足りなかったな。

 「さて、その助力をするのは良いのだけども」と前置いてから、女神様はおもむろに虚空から宝杖を取り出すと、床にコツンと音立てる。すると、これまた虚空から何かのカードみたいなものが一枚浮き上がってきた。…盾と杖、そして女性の姿が描かれている気がするが、一体これは何なのだろうか。


「”女帝”のタロットカード。今は基底状態だから、いくら観察しようが触ろうが問題ないが、戦闘用に少し起動させただけで先ほどのキミは満身創痍グロッキーになった。本来はこれを長時間起動させ続けるものだが、そんな事をしたらキミの生気を根こそぎ吸い尽くしてしまうだろう」

「随分物騒な代物だなオイ」


 オレの生きる力を吸い尽くすとか、まるで悪魔の道具だな。もしかしなくても、オレの不調の原因コレじゃないのか?


「その通り。なので、今後キミに力を貸す時は制限を設けようと考えている」


 使わない、という選択肢は最初から無いってか?思わずオレの口からため息が漏れる。あんな疲労感が毎回襲ってくるとか、オレは嫌だぞ。


「確かに制限なしでボクが力を振るえば、キミの精神面に多大な影響を与え兼ねない。だから1日に1度、1度の召喚につき3分間だけこの力を貸そう。…これが、ボクから提案する譲歩案だ」


 どこの超人設定だ狙ってんのか!?と思わず口にしそうになるが、そういえば「オレの記憶を参照にした」とか先ほど言っていたような気がする。埃を被ったロクでもない知識を覗かれている可能性が大いに有り得る事に思い当たり、オレは頭を抱えたくなった。

 さて、契約ゴトはここからが大事だ。一見してすぐに飛びつきたくなる話でも、自分の中の疑問点は全て解消しておくべきである。例えそれが、どれだけ親しい間柄であってもだ。結局のところ自分の身を最後まで守れるのは、自分しかいないという事を忘れてはならない。


「疑っているね?良い事だ、そしてそれは正解さ」

「そりゃどうも。で、どこに落とし穴を仕掛けてやがったチクショウ」

「ボクは敢えて、時間の制限しか伝えなかっただろう?キミはその3分間、ボクに全力を出し続けさせたとしたら、果たして五体満足で居られるだろうか」


 サラッと恐ろしい事言いやがるこの女神、オレがもしこれを通してしまっていたら廃人化待ったなしだったじゃねぇか。


「元よりそのつもりは無かったけど、大技を何度も撃てば当然キミにも影響はある。逆に言えば、小技であれば多少の無理は利くという事だね」


 一撃必殺を狙えば早期決着が望めるが反動は大きい。だが、コツコツと積み上げていく場合は反動が少なめという事らしい。なるほど、巧く力を使えばこちらが得られるリターンは大きそうだ。


「あぁ、その心配はしなくて良い。これはボクが勝手に、ボク自身にルールを課すだけの事だ。キミの仕事は、ボクを行使するタイミングを図るくらいさ」


 オレの思考の余地、ほぼ無いじゃねぇか!いや戦闘になったら逃げるくらいしか出来ないから適材適所なのかチクショウ!


「理解が早くて何より。…単にボクを呼び出してくれれば、それが召喚の合図になる。困った事があったら声を掛けてくれたまえ」

「そういえば、いつの間にか念話?みたいなものが出来ていたな。アレは一体どういう仕組みなんだ?」

「キミをここまで引き上げる為の命綱に少し調整を加えたのさ。潜行者ダイバーに指示を出す神様くらいは居ないとね」


 命綱?と言われてオレの腰やら背中を探るも、それらしいものは無い。「簡単に外せるような所にキミの生命線を仕込む筈ないだろう?」との言葉をいただき、それもそうかと思い直す。

 …だからって四六時中アンタの声を聞き続けるのは嫌だぞオレは。プライバシーも何もあったもんじゃないーーこれもどこかで覚えのあるやり取りだな!?


「はっはっは、それも今更な話じゃないか。まぁ諦めたまえ」


 悪夢だ…。とりあえず、この夢から無事に醒めたらお祓いに行こう。


「さて、そんなキミの事を健気に護っている女教皇プリーステスちゃんの様子を教えてあげようじゃないか。キミも知りたいだろう?」

「露骨に話題を変えやがってこの野郎!?」


 そんな愚痴を零しながらも、気にならないと言えば嘘になる。オレがこの傍若無神ぼうじゃくぶじんと呑気に話をしている間にも、レイラさんはあの忍者と苦しい戦いを強いられている筈なのだ。叶う事なら、早々にこの場を離れてレイラさんを物影から応援したい。


「まったく、その意気を少しでもボクに向けてほしいものだ。…ほら、映像も出してあげようじゃないか」


 ”ヤツヨ”が杖を振り、映像が空中で投影される。まるで子供の我儘を聞いている母親のような口調に若干苦い顔をするが、次の瞬間オレの表情は映像それに釘付けになった。


 そこに映っていたのは、レイラさんによる一方的な逆転劇。高飛車な忍者おんなを黙らせていく圧倒的な攻撃の数々は、オレの中で深い感情ーー絶対に彼女を裏切()ない、そんな畏怖に似た感情を刻む事になるのだった。

●記憶モグモグタイム

この夢世界いせかいにおいて、記憶は何を置いても守らなければならない「核」。もし何者かに記憶をムシャムシャと食べられたら、夢世界の主に様々な悪影響を及ぼしてしまう。最悪、廃人化する事も…。

それを防ぐ為、”ヤツヨ”はカケルの記憶が保管されている、心の表層ライブラリに拠点を構え、カケルの動向を注視している…という背景もある。

この役目がある以上、”ヤツヨ”もカケルのピンチに駆けつける程、心の深層に潜っている暇はない筈だが…?


●”ヤツヨ”の二人称

相手の本質を見抜き、将来「タロット」の使用条件を満たすだろう人物にはタロット名で、それ以外の有象無象は「キミ」と呼ぶ事が多い。

タロット呼びされた人物は、“ヤツヨ”が注目マークしている人物という事でもある。それを光栄に思うか、忌避感情を持つかは…アナタ次第。


●「タロット」について 2

1つの大アルカナにつき、安定性はあるが特別な力が引き出せない正位置、力は溢れる程出てくるがデメリットも大きくなる逆位置の2つの力が行使できる。いずれも強力だが、基本的に「正位置 < 逆位置」の力関係となっている。

ここで言うデメリットは、タロットによって内容が異なってくるので詳細は一概に語れない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ