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夢渡の女帝  作者: monoll
第4章 希望を夢見た宙の記憶
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第4章26「審判不在の椅子取り2」

 建物の外観からある程度想像できていたが、この闘技場は優に数百人を収容できる広さがある。つまり、中央で実際に見世物となる戦士たちが十分に暴れ回る事ができるスペースが確保されているという訳だ。

 にも関わらず、その広場に女たちはいなかった。女たちは闘技スペースの外側にーー今オレがいるVIP席のような、檻に似た箱型の客室に入れられていたのだ。


 オレが入れられているおりと、女たちが入っているおりの造りが同じであれば…。豪華な客席が一つと、その後ろに先ほど上ってきた階段があるだけの、至ってシンプルな小部屋になっている筈だ。


 つまり、おりの中からこちらを見上げていた女たちが血相を変えながら消えた先は、闘技場内の他の客席へ渡る為の通路フロアへと繋がる階段になる。オレ(椅子)る部屋まで辿り着け、というのが今回のゲームとやらの趣向…なのだろうか。

 だったら椅子取りではなく、障害物競走と言い直すべきだ。それを見越しているのかは分からないがーー。


(中には動かない人たちもいるんだな)


 おりの中でこちらを見上げた女たちはすぐに奥に消え、今も見上げているのは一人か二人。しかしいずれの少女も、ゲームのお題を理解しているような表情はしておらず、むしろ突然置かれた立場に困惑している…と表現した方が彼女たちの心情を正しく表現できるだろう。

 いずれも知らない顔だが、覆面男の「開会式」に強制的に呼ばれた被害者(お仲間)かもしれない。合流して情報を共有したい所だが…。


「人生とは、選択し続ける事。立ち向かうも背を見せるも、どちらも選択の一つである。自らの意思で選んだのであれば、私はそれを称賛しよう。…もっとも、選択から逃げ続けた場合は相応の報いも待っているものだがね。客人もそう思うだろう?」


 思いません。というか自分が客席に座ってるんじゃねぇぞ。肘掛けに片肘乗せてこっちに話しかけるな。

 ワイングラスが彼の手元にあったら、優しく揺らしながらニヒルに笑っていた事だろう。今からその覆面剥いでやろうか?


「どうした、喉でも渇いたか?眉間に皺が寄っているぞ、まずは好きな茶でも飲むといい。幸いここには茶葉が量も種類も豊富にある、取り揃えた者に感謝するといい」

「飲むとしても、相手くらいは選びたいな。少なくともアンタと一緒の席はごめんだね」

「そうか?私は客人が傍にいても構わないがね。何なら私手ずから淹れてやろう、客人の好みは何だ?」

「ありがた迷惑だって言ってるだろうがチクショウ!」


 我慢、我慢だオレ。アンガーマネジメント、10秒耐えるんだ…。

 素数を数える某神父も、この方法で10秒耐えていたんじゃなかろうか。ストレスの溜まる速度が尋常ではない現代社会では必須スキルに近いだろう。若い皆、今の内に習得しておくと後が楽だぞ!

 …うん、無駄な事を考えている間に少し気持ちが落ち着いた気がする。だったら別の事を考えてみよう。あの覆面男の存在は、今は無視だ。


 こちらを今も見上げる彼女たちのおりは、オレのおりと比べて何故か低い位置に置かれている。他のおりも同様だ。

 ガバガバ目算ではあるが、高さにしてこの闘技場の半階層分…くらいだろう。「位の高い貴族様は高い所がお好き」とは聞くけども、残念ながら庶民オレには闘技場のVIP席に座る貴族の優越感きもちなんて、これっぽっちも解らない。


 そんな見世物にされているかのようなおりの高さも気になるが…それよりも目を引いたのは、それぞれのおりに刻まれた謎の番号。

 1から順に割り振られたおりは、この部屋も含めて全部で20あるようだ。割り振られた番号が書いてあるのがおりの外壁、かつ高所から見下ろせるこのおりからでしか確認できないのだが…。もし今オレがいるおりにも番号が振られているとしたら、それは20であろう。


 理由は単純、向かって左側のおりから割り振られている数字が1ずつ大きくなっているからだ。…他の数字の可能性だってある?まぁ、それはそう。

 だが…映画館やドームの席にある番号のようなイメージと言えば良いのだろうか。ここが闘技場であり、おりという名の客席であるという前提だが…。現実世界でも番号を割り振って管理したいのであれば、忌番やら欠番を採用しなければ順当に考えて良いだろう。


 だから、割り振られている数字そのものはこれ以上考える事はない。数字以上に、オレにとって気になる事があるからだ。


(だとしたら、空席があったのは何故だ…?)


 一瞬の記憶はすぐに忘れがちなのだが、稀に鮮明に覚えている事がある。今回は該当する記憶を運よく覚えていたのだが、その時の光景にどうしても拭いきれない違和感がある…ような気がする。

 確か空席だったのは3番、4番、5番…そして15番。今もこちらを見上げている女がいるのは10番と14番。意味は…果たしてあるのだろうか。


(今の説明チックな言葉だけ並べたら、ここって闘技場じゃなくて監獄だよなぁ)


 ウンウンと唸りながらも、20もある番号全てに意味を持たせられそうな可能性をあれこれ考えてみたものの…結局得られた結論は何もなかった。情報があまりにも足りなさすぎる。

 そもそも、「開会式」とやらは()()参加が必須ではないのだろうか。だったらオレも一緒にボイコットしたかったんですけど?


「さて。体よく情報を手に入れたという表情かおをしている客人に、もう一つ土産を持たせようではないか」


 そんなに解りやすい表情してますかねぇ!?と反論したくなる気持ちを堪え、改めて覆面男を睨みつける。

 続きを聞かせろと目で訴えた甲斐あって、覆面男は愉快そうに足を組み直しながら言葉を続けた。


「今宵の遊戯ゲーム、椅子の数は特別に多く用意している。だがもし…不要な椅子があれば、私が引き取ろう」


 この手の謎かけは得意じゃないんだよチクショウめ…。多めに用意した、だって?椅子取りってのたまった意味ある?

 とにかく、情報として持ち帰ろう。“ヤツヨ”なら、これらの情報を話せば何か解るだろう。都合よく顔を出してくれると良いんだけどなぁ…。


「それと…。椅子には予約が既にいくつか入っているようだが、当人がいなければ無効となる。当然の話だが…な」


 現実世界でもそうだろう、予約しても当日来なければキャンセル扱いとなる。下手をすれば、違約金を取られる事もあるだろう。

 新歓やら忘年会といったイベント事の為に予約したお店をドタキャンするが如く、絶対に赦されない行為だ。これだけは覆面男の言う通りだと思う。


 …で?お土産って何なんだ?


「では客人、移動の時間だ。そろそろメインイベントが始まる」

「ここで待つんじゃ、ないのか?」

「私はそれでも構わないが…。敵対しているとはいえ、客人に今死なれては困るのだ。この場からいどうする事をお勧めするよ」


 突然降って湧いてきた二択に、思わずオレの頭の中が白くなる。それが真っ黒に書き殴った書き跡を必死に消している最中だと気が付くのに、少し時間がかかった。

 ようやく十分な余白を確保できた頃には既に、覆面男は顔を横に振っていた。


「…どうやら一陣目のご到着のようだ。客人はこのまま、私と観戦したまえ」


 覆面男が席から立ち、中央が見える壁際まで近寄る。その様は、少し残念そうであり…その中に苛立ちが混ざっているような気がした。

 ほぼ数秒で答えを出せ、出せなかったら露骨に機嫌が悪くなるとかあんまりだろチクショウめ…。

 急いでこの場を脱したかった理由って一体何なんだ、と考えるよりも先に、その声は中央から響いてきた。





「カケル様ー!!ご無事ですかー!?」


 オレの身体は途端に震えた。聞き覚えのある声、今聞きたい声の主が、オレを探している。

 何故この闘技場に来ているのか、という疑問はあったけども、それよりも声への安心感からオレは急いで中央に向けて顔を出す。


 そこには白と青の法衣ドレスを見に纏った、清純な彼女。黒い手袋で包まれた小さな手を握りしめながら、淡い水色の髪を揺らして何かを探している姿があった。


「レイラさん!ここです、ここにいますーー」


 しかしオレの声は最後まで届かなかった。突如彼女の背後から現れた黒い影、そこから繰り出された脚を受け止めるのに注力していたからだ。

 その影の正体もオレは知っている。少し前まで手を引いてこのおりまで連れてきた銀髪の少女は、また見たいと約束した見慣れた忍者袴を着用していた。




 会いたかった二人と再会できた感動は、しかしそれよりも困惑が勝ってしまう。

 銀色の髪を揺らしながら鋭い蹴り技を何度も繰り出し、法衣ドレスの少女も脚技を掻い潜って拳を突き刺さんとする様は、まるでーー。


「天空闘技場カイハの栄えある初戦は、2番と9番か。客人にとっては残念な組み合わせのようだな?」


 まるで、どちらかの命が散るまで終わらない死の舞。かつてフローア村の教会前で繰り広げた二人の格闘戦が、今この場で再現されている。

 それをオレたちは、闘技場の観客となって少女たちの殺し合いを見守る他なかった。

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