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夢渡の女帝  作者: monoll
第4章 希望を夢見た宙の記憶
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第4章25「審判不在の椅子取り1」

 この闘技場にいるという呼び出し人は、是が非でも「開会式」とやらを招待した全員と催したいらしい。一人で勝手にやっていてください、部外者オレを巻き込むな。

 そんな特大ありがた迷惑イベントの会場に踏み入れると、そこにあったのは漫画で見るファンタジーな闘技場施設の観客席の一つ。…否、一室。

 頑丈な造りで外敵からの侵入を許さない箱の中、それでいて外の景色を一望できる高い場所に位置するカ●オストロ部屋。所謂いわゆる、VIP席だった。


「うわぁ…」


 思わず漏れたドン引きの声が部屋に響く。戦闘素人が闘技場の舞台に立たされて見世物にされる、という最悪の展開にならなかった事には安堵はしたが、これはこれでとても心が落ち着かない。

 ポツンと一つあるだけの観客席まで何故か赤絨毯が敷かれており、さらに席の周囲にある装飾もそこそこ華美だ。豊かな自然の中に生まれた貴人を祀るかの如く草花を生い茂らせており、花粉症持ちにとっては近寄りがたい一席となっている。勿論、オレもその一人だ。


(オレを祀り上げたいのか貶めたいのか、どっちなんだコレは…)


 ソレイユが外道と評していた人物の、捻くれた性格の一端が垣間見えた気がする。勿論、向こう側の景色を覗く心の余裕なんてある訳がない。

 この席に座って見世物になる度胸もないし、かと言って周囲にある草花の所為で体育座りをすると鼻水で顔がグシャグシャになるのは明白だ。

 これを見ているそこのアナタ、今ならこのVIP席を格安でお譲りしますよ。誰か買い手はいませんか!?


「よおこそ客人、天空闘技場カイハへ」


 ーー競売にかけるより前に、どうやら仕掛け人の登場らしい。背後から聞こえる妙に恭しい男の声に驚き、思わず距離を取りながら背後を振り返った。


 その男は、燕尾服を着ていた。黒い衣装に黒い手袋、黒い覆面や黒い革靴と色にこだわりがあるらしく、ようやく目に馴染んだ壁の色が暗かったらおよそ見分けがつかなかっただろう。

 中でも男が被っている覆面は、こちらに不気味さを演出させる表情をしていた。そういえばマイティも似たような仮面を被っていたよな…と一瞬どうでも良い情報が過ぎる。他人に見せたくない顔があり過ぎだろ、この世界の訳アリ男ども。


 身長はオレと同じ175センチくらいか。ただし肉ダルマオッサンより確実に身軽であろう細い体型は、見ていて羨ましく思う。

 …腹回りの脂肪が少ない人生、一度は謳歌してみたいものだった。歳を食ったオレでは体重60キロ代(適正体重)なんて夢のまた夢の話である。基礎代謝の力がある内にしっかり身体を動かすんだぞ、若い者たちよ…!


 そんなどうでも良いオッサンの独り言は置いておくとして。総合して、ひと昔前の漫画やアニメに出てきそうな「怪しい男」の図そのものだった。

 しかしオレは、もう一つ違う疑念も抱いていた。黎明旅団を仕切る影のような男、マイティ。彼と似た真っ黒な出で立ちは、何かの偶然だろうか。


(マイティのソックリさん…ってオチじゃ、ないだろうな?)


 それに、“ヤツヨ”の言っていた自動人形…影染兵(エリス)、と老司祭たちは言ってたか?本体オリジナルの可能性の一つを切り取り、それを極めた存在…というのが、オレの中の自動人形という単語の意訳だ。要するに都市伝説に出てくるドッペルゲンガーに似た厄ネタなのだろう。

 アレと同じドッペル何某のような存在だとしたら、老司祭の時と同じくオレの命を潰しに来た者の可能性が高い。


 …可能性、と言葉を濁したのも理由がある。暗殺者として活動するマイティの衣服と、この男の衣服は身綺麗さ(いろ)に差があるのだ。

 単に黒と一口に言っても、その色の数は多岐に渡る。明度やら彩度やら、その手の知識は乏しいので詳細は割愛するが、それでも上手く説明しようとするなら…マイティの黒はほんの少し白っぽいのだ。影の色、と言った方が良いだろうか。

 それに対し、この男の黒は…全てを吸い込む純黒の闇だ。整った衣服、振舞い、それらが只者あんさつしゃではない事をオレに想像させる。


(だったら、確かめるまで…!)


 “ヤツヨ”の解説が正しければ、もし自動人形であればそこに影はない。戦闘能力のないオレは、目だけ下ろして男の足元を見た。見る事しか、できなかった。

 もしもの先にある戦闘になった事なんか、考える余裕は…オレにはない。


(影が、()()?)

「私の観察は終わったかな?ではこちらも話を切り出させてもらおう」

「!?」


 この男、“ヤツヨ”と同じく心を読む系の能力持ちかよチクショウ!?下手な事考えられないじゃないか!

 思わず恐怖心で顔が引き攣ったオレに愉悦を感じたのか、顎に指をかけて小さく笑う謎の男。覆面で表情が見えないのにも関わらず、妙に仰々しい態度の所為で感情がこちらにも伝わるのは癪に障るなぁ…!


「恐らくいずれかの人間に紹介はされたであろうが、この世界で私は審判者(ウォークエンド)と名乗らせてもらっている。以降は客人もそう呼ぶと良い」

「つま、り。本名は違う…って事、か?」


 命を刈られるかもしれない恐怖と緊張で、詰まりかけた声を喉から絞り出す。常時であれば「そんな怯えきった声出さなくても」と呆れたかもしれない。

 その無様に男はこみ上げてきた笑いを堪えながら、


「当然だとも。敵対する相手に堂々名乗る必要はあるまい?」


 言われてみれば当たり前の事を、「何を言わせるんだ凡骨」とばかりの口調で返された。突然の正論をぶつけられて耳と頭が痛い…。

 しかしそれはそれで、敵対する相手(・・・・・・)にわざわざ会いに来た理由は一体何だという話になる。ただの不運エンカウントだったら確率の女神様に物申すぞ!?


「客人の思考は読みやすくて助かる。さて…私がこの場に来たのは、()()()()の為だ。最適な言葉を発するには、最適な場所を確保するべし…人心掌握えんぜつの基本だろう?」

「ルビ間違ってんぞ、この野郎」


 要するにこのオレの収監場所が演説にちょうど良かった、という事かよチクショウ!

 レイラさんの命を狙う刺客ならともかく、この夢世界いせかいの中じゃ無名の筈のオレをピンポイントで狙うような真似しやがって…。確率の女神様、対面する事があったら一発キツいの入れてやるから覚悟しておけよ!


「では時間だ、横を失礼」


 覇気のない反論には耳もくれず、男は外の景色を一望するべくオレの傍をすり抜け前へと出る。「おい無視するんじゃねぇ」と反論するより先に、男は景色に向かって言葉を放った。


「諸君、お集まりいただき感謝する。私は審判者(ウォークエンド)、私欲に塗れた者たちの生存を賭けたこの戯れを仕切る者だ。以後、お見知りおきを」


 男の視線は下に向いている。オレが傍にいる事すら些事と言わんばかりに、言葉は止まらない。

 男が話している先に何人もいるのか?思わず確認したくなる気持ちに駆られるが、それは止めておいた。何というか…本能が、影に潜む何かが、オレをその場に縫い付けているかのように身体が動かせなかった。


「さて、今宵この闘技場に顔を出せた者は運が良い。玉座から忘れられた金の烏、闘争に飢えた銀の兎を始めとした豪華なゲストらが参戦する。退屈という二文字を感じさせない、極上の時間を諸君らに届ける事を約束しようじゃないか」


 何を言っているのか、誰を指して言っているのかが全く頭に入ってこない。だが、男の言葉を聞いたオレの第六感が危険信号を発し始めている。

 このまま話を聞くのはマズい…気がする。何か行動を起こせと、オレの脳が訴えかけている。

 けど、今のオレに何ができる。戦場のど真ん中でぼっ立ちする事くらいしか能のない木偶の棒の役目なんて、精々が動くサンドバッグになる事くらいだろう。


 人の口に戸は立てられない。そもそも戸の材料がない。行動を起こす(交渉する)時間も、オレにはない。

 咄嗟の行動(一手)に迷った結果、オレの身体がまるで磁石の引力のように男に吸い寄せられた。何をされたのかも分からず、唯一の選択肢であった逃げる事すら奪われたオレは…男の腕がその引力の受け皿なる訳でもなく、勢いのままに男と同じ景色を見下ろす事になった。







「今宵の遊戯ゲームは『椅子取り』。共謀、独占、裏切りのいずれも自由の争奪戦である!すべての席が確定した時が刻限、至ってシンプルだろう?」



 吐き気がする。窓のない壁に吹き飛ばされ、受け身をまともに取れずにいたからでもあるが、そうではない。

 顔を隠さず、一身に15人もの女たちの視線を浴びたその瞬間を、これほど後悔した事はない。


 椅子という名の役割を、男から突如与えられたオレの反応は…。恐らくこの男にとって想定通りであり、及第点だった事だろう。

 何かの思惑を抱えていそうな、しかしその大半が殺意に満ちた視線たち。それらを一身に浴びて、どうして恐怖以外の感情がここから芽生えようか。


 男の言葉の意味を噛み砕いて吟味する時間なんてない。女たちの行動は、素早かったのだから。

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