第4章16「贈り物は地上から降ってくる2」
レイラさんが拵えていた新たな争いの火種をどうにか無事に処理した所で、オレたちは引き続きフローア村を探索していた。
とは言っても、流石に田畑が広がるばかりの見知らぬ土地では探索しても何の面白味もない訳で。
コンビニやらスーパーやらがある訳もない夢世界の辺鄙な村では、精々が草木の香りを楽しむ事と放牧されている穏やかな表情の牛?っぽい生物を眺める事くらいが暇な時間の過ごし方らしい。
(まぁ、旅行で半日過ごすくらいなら良い気休めにはなるんだけども)
現実世界に戻る目途が立っていない今、このフローア村にどれだけ滞在するのか(むしろ滞在させてくれるのか)が分からない。
主に隣で今も膨れた顔でこちらを見つめる淡い水色の髪の美少女のご機嫌に加え、村を仕切っている全身真っ黒ヤロウと女忍者っぽい格好をした自称太陽の国の第二王女の堪忍袋の緒の長さ次第なので、正直オレが介入できる余地がないのだ。
なのでオレが考えるべき事項の片隅に、フローア村に代わる滞在先の確保という問題が生まれつつあった。いや本当にこの村を追い出されたらどうしよう。
(こういう時に“ヤツヨ”と会話ができたら良いのになぁチクショウが…)
肝心な駄女神様とは一向に連絡が取れず、たまに現れたかと思ったらすぐに消える。本当にこの世界から脱したいのかどうかすら怪しく思えてくる自由気ままな挙動に、思わず溜息が漏れた。
「…カケル様、もしかしてお疲れですか?」
「いくさみこのじゃじゃうまっぷりにへきえきしている、とか」
「誰がじゃじゃ馬ですか!」
プリシラもプリシラで、定期的にレイラさんの感情の尾を踏むので目が離せない。まだレイラさんから拳が出る素振りはないので導火線に多少の猶予はありそうだが、感情の爆薬庫の横で火遊びをし続ける彼女の行動は蛮勇以外の何物でもない。
ーー保育士さん、いつもお仕事お疲れ様です。何となくあなた方の仕事の大変さを、欠片程度ですが学ぶ事ができました。ところで問題児の手綱を握る良い方法って、何かないですか?
「そ、そうだ!カケル様、今日のご飯はどうしましょう!果物の数もそろそろ心許ないですし、ついでにお魚も獲りに行っても良いですし!」
「えっ?もうそんなに食べてたんでしたっけーー」
つい反応してしまったが、そういえばレイラさんが自らを戒める「無心チャレンジ」の時に食べていたなぁと思い出した。人間、ストレスを感じると食欲が刺激される場合があるので、皆も食べ過ぎには注意だぞ。
だがそうか、オレだけならともかくプリシラも今は人数に加えて食材の量を考えなければいけないのか。だとしたら一度ソレイユに相談して、外出の許可を貰わなければまた余計な角が立ってしまう。
「では早速獲りに行ってきます!数分もあれば戻りますので、教会で合流しましょうーー」
…なんて事を考えている隙に、レイラさんの声があっという間に遠ざかっていく。相談なんてあったものじゃない。
仕方ない、事後承諾になってしまったのは不本意だけどソレイユに報告しなければ。教会に戻るのはそれからでも遅くはないーー。
「こんにちは、素敵な殿方とお守りのお嬢さん」
「…だれ?」
その時。レイラさんが去っていった正面の砂埃が舞う中から、女の声がした。
この手の登場の仕方をする輩は、およそ厄いネタを持ち込む不運の嵐みたいなものだ。正直お帰り願いたい所なのだが、当然この手の輩は言葉一つで帰ってくれるような優しい嵐である訳がない。
勿論、オレより敵意に敏感なプリシラは既に水の珠を周囲に浮かべ、戦闘モードへと意識を切り替えている。正直判断が速くて助かる、浮かんでいる水の珠の量が少ないように見えるのが唯一の懸念材料だが。
レイラさんの命を狙いに来た刺客の一人…にしてはレイラさんとタイミングよく入れ違った事は気になるが、いずれにせよこの女はオレたちの敵。言葉で帰らないのなら暴力で解決するしか手段はない。
「そうねぇ、まずは自己紹介からしないとねぇ」
徐々に砂埃が晴れていく。そこから薄く見える細い躰のシルエットが、徐々に女の全貌を顕わにしていった。
一言で表わすならば、女は天使だった。ファンタジーな登場人物にありがちな「長い金髪に碧眼の美少女」を地で行く、水色のフリルやらリボンの装飾で可愛らしく着飾った白いアオザイの女。女性らしい豊かな膨らみを魅せる衣服だからか、年頃の男子なら思わず生唾を飲み込む艶めかしさすら感じただろう。
そして背中に純白の翼を広げている事から、少なくとも人間の括りには収まらない生態だと推測する。頭上に輪っかでもあれば、その推測も完璧に裏付けられたかもしれない。
(あの老司祭と、同じような手合い…か?)
教会とアクリス村で襲ってきた老司祭、あの時感じたような心の底を冷たい指で撫でられる感触を思い出す。
まるで女の表情の裏に潜む死神に見染められたかのように、オレの心の芯を凍えさせていく。そうなると自然、オレの足はその場に縫い止められてしまう。
あれは純潔な天使なんかではない。純潔であれば、鉄鎖の首輪をぶら下げたりなどしない。
まるで罪人のような出で立ちに、ようやく寝惚けていたオレの脳が警報を鳴らし始めた。この女について行くのは危険だという、そんな警告めいた第六感はここぞという時に頼りになる。
恐らくこの女…もしくはその背後にいる何者かは、オレにとって良い影響を及ぼすものじゃない。早々に断ち切るべき何かだと、オレの本能が叫んでいる。
「わたくしはシャルロット。主の命を受け、天空闘技場カイハに皆様を招待する為に参りました天からの使いが一人。どうか一切の抵抗をされる事なく、御手をわたくしに委ねてくださいませ」
優しい声色に騙されるな、知らない相手の立場に呑まれるな。そもそも、怪しい相手の言葉は一切信じるな。
大丈夫、こちらにはプリシラもいるし少しすればレイラさんも戻ってくる。黎明旅団の面々も駆けつけてくれる筈だ。
まずは応援が来るまで持ち堪える事、状況が好転する事を信じる事。それが今のオレたちにできる仕事だ。
この時期は流行り病に罹りやすいので、皆様も気を付けてお過ごしくださいませ…。
(作者、38度超えの熱と咳鼻水というタチの悪い風邪で3日ほど寝込みました。これでインフルでもコロナでもないって、実際に罹った時が今から怖いや…)
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●主人公君、このフローア村を追い出されたら行く先あるの?
ありません。追放イコール即死です。頑張ってヒロインちゃんたちのご機嫌を死ぬ気で取ってください。ご機嫌のバランスも忘れずにね!勿論、そんな事実は主人公君が知る由もないので無駄に胃を痛めるだけの模様。
生きている時間は有限、思考する時間も当然有限、つまり行き止まりだと気が付いた時には既に手遅れ、回れ右をする時間なんて勿体ない。だったら、立ち止まるくらいなら壁をぶち壊しなさいってモンです。当たって砕けろ、それくらいが主人公君にはちょうど良い人生加減なのです。
●ヒロインちゃんの一時離脱
軟禁生活を長くしていると、ソレイユから与えられていた食糧も底をついてしまうというもの。特にヒロインちゃん、軟禁生活(笑)中に一人やけ食い大会を実施したようで…。なんで?馬鹿なの?
その結果、ただでさえ危なかった食糧事情が一気に加速し、すぐに調達しなければ生命の危険にあるのが今の彼ら彼女らが置かれている状態です。実は状況、深刻です。
自業自得とはいえ、この離脱は必須イベント。残った戦力で迫る敵と渡り合わなければなりません。頑張れプリシラ、君ならできる!
…あの”悪魔”はどこに行った、ですか?とある事情の為、教会に引き籠っているようです。
現在のプリシラはこの“悪魔”に水の管理を任せているので、プリシラ自身の戦力も実はガタ落ち状態。そ、それでも君ならできるさ!




