表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ショートショート2月~2回目

謝り癖

作者: たかさば
掲載日:2022/02/26

 ・・・私が初めて謝ったのは、いつのことだったかな。


「何で勝手に触ったの?!

「ごめんなさい、もうしません」


 保育園に入る前だったかな?


「なんでケイちゃんあかいふくきてきたの?!あやまって!」

「えっ・・・ごめん、ね?」


 保育園に入った頃は、毎日謝っていたような。


「ケイちゃん!あたしとおべんとうたべようっていったのに!」

「あっ・・・ごめんね・・・?」


「ケイちゃんあたしのすわりたいところにすわらないで!」

「ごめん・・・」


 小学校に入っても、毎日謝っていた気がする。


「ちょっとー!だれ、この黒板消したの!」

「ごめん、消しといてって言われたから」


「おい!テストの答案見せろよ!」

「ごめん、私はそういう事は・・・」


「ねーねー、ケイちゃんってなんでそんなにムカつくこと言うの?」

「ごめんなさい・・・」


 中学校に入っても、毎日毎日、謝って。


「飯田さん、もっとニコニコできないの?見ていて腹立つんだけど!」

「ごめん・・・」


「飯田さんはもう少しお友達のいう事を聞いてあげましょうね」

「すみません」


「飯田ぁ!お前そんなんで部活やめる気か!」

「すみません、母が辞めろというので・・・」


 高校に入ったら、さらに謝る機会が増えた気がする。


「飯田さん僕と付き合って下さい!」

「ごめんなさい・・・」


「飯田マジウザい!モテてるからってチョーシ乗んなよ!」

「ごめん、なさい・・・」


「もっと上の大学狙えるのになんでだ!!」

「すみません、母が、専門学校に行けというので」


 専門学校時代は、ずっと謝りっぱなしだった。


「なんだよこのバイトはよお!謝り方も知らねえのかよ!」

「大変申し訳ございません」


「なんであたしは試験落ちてアンタだけ受かってんの?!信じらんない!」

「ご、ごめん・・・」


「ちょっとおばあちゃんの面倒見れてないじゃないの!何やってんのよ!」

「ごめん、バイトと試験勉強が・・・」


 就職して、実家を離れても、謝る日々は続いていた。


「ちょっと!もっと優しくやってよ!痛いじゃない!」

「す、すみません・・・」


「もう一時間も待ってるのにまだ診てもらえないの?!」

「すみません、受付に行って確認してきます・・・」


「バイタルチェックしたのは誰だ!頻脈なめんなって言ってんだろ?!」

「す、すみません、すみませんっ!!!」


 自分がやったことも、人がやったことも、全部全部、私が謝って・・・。


「ねえ、なんでいつも謝ってるの?」

「あ、気に障ったならごめんなさい・・・」


「僕には謝らなくていいよ!もっと気を楽にして、ね?」

「あ、は、はい・・・・・・」


 謝り疲れたころに、謝らなくてもいい人と出会った。


 謝らなくていい人は、とても明るい人で、見ているだけで幸せになれた。

 謝らなくていい人は、とてもおおらかな人で、いつも周りを笑顔にさせた。


「僕と結婚してください!・・・え、なんで泣いてるの?」

「ご、ごめん、うれしくて・・・」


 結婚した私は、謝る代わりに、ハイと言うようになったんだった。


「ケイちゃん、おにぎりの中に梅干し入れないでって言ったのにー!これからはやめてね!」

「ごめ・・・じゃない、うん、その、はい・・・」


「ケイちゃん、いよいよ僕たちもパパとママだね!一緒に頑張ろうね!」

「は、はい!」


「ケイ!僕転勤になったんだ、仕事辞めてついてきてー!」

「は、はい・・・」


「おーい!僕の代わりに町内会の委員会でといてね!」

「は、はい・・・」


 ハイって言わなくなったのは、いつ頃からだったかな?


「ちょっと!PTAの役員会議出てくれって言ったじゃないか!」

「で、でも、ゆうちゃんが熱を出して・・・ごめんなさい」


「僕出張だから代わりに夏祭りの運営やっといて!」

「ごめん、そんなこといきなり言われてもできないよ」


「やろうとしないからできないの!」

「わ、わかった・・・やって、みる・・・」


「ねえ、何やってんの?!夏祭り大失敗したの、お前のせいだからな!」

「ごめんなさい、ごめんなさい・・・!」


「奥さん!旦那さんが嫁に頼んどいたって言ってたけど、聞いてる?!」

「え、ごめんなさい、聞いてないです」


「困ったなあ、誰も町内会長やってくれないとなると!!」

「ごめんなさい」


「いいや、サポートするんで、奥さんやって!書類出しとくわ!」

「ごめんなさい、むりです!!!」


 外面の良い旦那に振り回されて、体調崩して、入院して。


「あのさあ!あたしがジュン君の奥さんになるから出てってくれない?」

「ごめんなさい、意味が・・・」


「こんな弱い嫁じゃ困るからさあ!離婚しよ、離婚!」

「僕マミちゃんと一緒にいたーい!」


 心身共に弱り切っていた私は、言葉を返す事すらできなくて。


 一人ぼっちで、謝りながら、生きたんだった。


 生きていてごめんなさい。

 生まれてきてごめんなさい。

 家庭を守れなくてごめんなさい。

 子供を手放してごめんなさい。


 親が老いて、実家に呼ばれて、叱られて。


「なんでもっと気の利いたことが言えんのだ!」

「タダ飯ぐらいのくせに言いわけしようっていうの?!」


「ごめんなさい」


 介護に追われる私は、働くことができないから。


「お前の介助はへたくそすぎるわ!風呂ぐらい満足に入れることができんのか!」

「人の年金で食べるご飯はおいしいでしょう?…もっと働け!掃除しろ!」


「ごめんなさい」


 謝り続けて、十年。


「もう少しお母様の様子を見に来て差し上げてください」

「すみません、仕事があって」


 ようやく、働けるようになって。


「飯田さんミスが多いですね、気を付けてください」

「すみません・・・」


 長年のブランクが、ミスを呼んで。


「これ飯田さんだよね?!」

「す、すみません!!!」


 ミスをする人というイメージが、職場に浸透して。


「この度は、我が病院で人工心肺装置の操作ミスがあり・・・」

「大変、申し訳ございませんでした」


 ミスをした覚えなどないのに、事実だけが存在して。


「困るなあ!1か月も経つのにまだレジ打ちできないの?!」

「すみません、すみません!!」


 慣れない仕事をするようになって、ようやく安定したころ、元旦那と息子がやってきて。


「久しぶりー!家なくなっちゃってさあ!祐也と一緒にここ住まわせて!」

「お母さん!会いたかった!!」

「ごめんなさい、ここは女性専用アパートだから無理で・・・」


「も~さ、急に家追い出されて何も食べてないんだよねー!」

「パパー、食べ物あるよ!!食べよ!!」

「それは一週間分の食料なの、ごめん、食べないで!」


「買って来ればいいじゃん!お金持ってるんでしょ!てかスーパーで貰って来れば?」

「母さん、僕パソコンやりたいんだけど、このロック外してよ!」

「すみません、申し訳ないけど、今すぐ出てってください!」


 追い返しても、追い返しても、私の家に押しかける、元旦那と、息子。


「あの二人、飯田さんの家族?!困りますね、試食をすべて食べつくすし、入り口で寝てるし!」

「すみません、すみません!!」


 パート先のスーパーに来て、問題を起こす、元旦那と、息子。


「あの、ここ、女性専用アパートって知ってますよね?」

「すみません、ご迷惑をおかけして・・・!」


「事情は分かりますけど、困ります!!!」

「ごめんなさい、すぐに出ていくよう言いますから!」


 管理人さんに怒られて、ひたすら頭を下げて。


「ダイジョーブだよ!あたしパパ子よぉ~♡なーに、ここの大家は、マイノリティ差別すんの?」

「母さん!僕…ネカフェで暮らすことにするから!お小遣いだけちょーだい!」


「なにいってるの?!今すぐ、出てって!!!出てってくれないと……っ!!!



 ・・・。



 ・・・・・・。



 ・・・、確か、私は、元旦那と、息子に。



「飯田恵子さん、あなたは人生を終えて、天国にやってきました……」


 ああ、私は…死んでしまったのか。


「大変な人生でしたね、お疲れさまでした……」


 私に声をかけてきたのは…男性とも、女性とも言えない、中性的な…白い、人。

 周りを見ると…雲のようなものが、たくさんある。

 足元が透けて、私のアパートで騒いでいる人たちが見えた。


「あの人たちの行く末を見守ることもできますが、どうしますか……?」


 見る必要は…ないかな。


「そうですか、では扉は閉じてしまいましょう……」


 ふわふわとした雲が集まって、足元が塞がった。


「それでは、今から生まれ変わりの準備に入りましょうね…あなたはどんな人に…成りたい、ですか……?」


「すみません…私、もう、人に生まれたくないので、お断りさせてください」


 謝り癖のついてしまっている私。

 …ついつい、謝ってしまった。


「じゃあ……、ここで僕と一緒にいてください、ませんか……?」

「ごめんなさい、ちょっと意味が…」


 やっぱり、謝ってしまうみたい…。

 死んじゃっても、生きていた時の癖って、抜けないものなんだね…。


「あなたの謝る癖がなくなるまで、僕が甘やかしてあげるから……ね?」

「ご、ごめんなさい!!私そういうの、慣れてないので!!!」


 どうしても、謝ってしまう私…っていうか、なんか、えっと…。

 気のせいかな、物語の流れが、ぐるっとおかしな方向に、変わったような…?


「いくらでも謝ってくれていいよ、それだけ僕は…ずっと君といられることになるから♡」

「え?!ちょっと待って、何この展開、すみません、無理がありますよね?!」


「いやー♡傷ついた魂との恋愛、してみたかったんだよね!大切にするよ♡僕のことは『みきゃえるたん♡』って呼んでね♡

「いや、無理です、何これ、あたしは58歳で…って!!若返ってる!!ウソ?!ご、ごごごめんなさい、無理、ヤダ、ヤダってば!!」


 こんな状況になっても謝り続ける、私、私イイイイイ!!!


「だいじょーぶだいじょーぶ♡痛くないよ楽しいよ気持ちいいよ♡あ、君の事は『がぶたん♡』って呼ぶね♡」

「ちょ?!何勝手にっ?!無理、ムリムリ、ちょ、どこ触って?!ぎゃああああ、ご、ごめんなさい、許してええええええ!!!」



 ……謝り癖の染み込んだ私は。



 死してなお、天空の彼方で謝り続けているという、お話です……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 途中までのシリアスさはいったいどこへ(  ̄- ̄)トオイメ それがまたいい
[良い点] いつもの黒鯖さんかとオモたら、極楽エンドだったwwwwww よくもだましたアアアア!!(AA略) (笑) [一言] 極楽にイキっぱなし♡なんでつぬ、わかりまつwwwwww
[一言] うわー…… ほんと大変な人生。 息子が夫似(?)でク○に育っちゃったのが、泣けますね…… ミキャたんに溺愛されて心の傷が癒えるといいのですが(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ