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41.No.010 重課金系ヒロイン×ビクトリア②


 突然、ノエル殿下が医術を扱えなくなったことで、学園内は騒然となった。

 

 朝、いつもの教室に向かい、入り口のドアに手をかけると、中からクラスメイトたちの声が聞こえて来た。


「ノエル殿下のお力が失われたのは、元はと言えばアンジェリカ様が原因らしいぞ」


「アンジェリカ様が、怪しげな魔導書をお持ちだったとか」


 クラスメイトたちの噂話⋯⋯⋯⋯


 残念ながら、あの方々のおっしゃる通りだ。

 

 歴史書を調べても、今まで医術を突然扱えなくなった者についての記載は見つからない。


 ノエル殿下の身に何が起きているのか、詳細は不明だけれども、十中八九、あの光り輝く本が原因に違いない。

 つまり、私のせいだ。


「この国はどうなってしまうんだ?」


「こんな事が他国に知られたら、攻め込まれる可能性だってあるぞ」


 学生たちの不安が、教室内に広がっている。


 謝って済む問題じゃないけど、ここまでの騒ぎを起こしてしまったんだから、何とか収拾をつけないと⋯⋯

 ドアを開けようと、一歩踏み出したその時。


「アンジェリカ、ここは僕が」


 後ろから現れたノエル殿下は、私の肩に手を置いたあと、教室の中に入っていく。


「皆、おはよう。今回のことで、皆を不安にさせてしまってごめんね。僕の力が使えなくなった原因については、現在、調査中なんだ。すぐに力を取り戻せるよう努力するから、信じて待っていて貰えると有り難い。それと、怪しげな魔導書は、元々はアンジェリカの机の上に置かれていたんだ。彼女を狙った人物についても調査中だけど、アンジェリカも被害者だと言うことは、皆にも分かっていて欲しい」

 

 ノエル殿下は、皆に向かって頭を下げた。


 不安そうだったクラスメイトたちは、戸惑いながらも、真剣にノエル殿下の言葉に耳を傾けている。


 殿下がここまでして下さっているのに、黙って見ているなんて出来ない。

 自分の言葉できちんと謝罪しないと。


 震える手でドアを開け、ノエル殿下の隣に立つ。


「この度は、わたくしのせいで、この様な事態になり申し訳ありませんでした。殿下にはもちろんのこと、皆様にもご迷惑をおかけしております。ノエル殿下のお力が一日でも早く元に戻るよう、精一杯努めますので、どうか、ご理解とご協力のほど、よろしくお願い申し上げます」


 殿下と並んで頭を下げた。


「⋯⋯⋯⋯そうだよな。今までの騒ぎの事を考えれば、アンジェリカ様が、何者かに狙われたと見るのが自然だよな」


「戦になるのは怖いけど、こういう時のために、俺たちはここで学んでいるんじゃないか?」


「殿下とアンジェリカ様が、ご自身の言葉で説明して下さったんだ。信じる他ないだろう」


「調査についても協力いたしますわ」


 クラスメイトたちには、私たちの言葉が届いたみたい。

 最後には温かい言葉をかけてもらえた。

 


 その日、ノエル殿下に呼び出された私は、居室を訪ねた。


 ソファに座るよう促され、横並びに座る。

 人払いをしてあるから、部屋には二人きり。

 

 その表情から察するに、いい話ではないことは明らかだ。


「ノエル殿下、先ほどは、ありがとうございました。今回の事は、わたくしのせいで申し訳ございません」


 頭を下げて謝罪すると、ノエル殿下は私の頭の上にポンと手を置いた。


「アンジェリカは悪くないって、何度も言ってるじゃないか。悪いのは、あの本を君の机の上に置いた人物なんだ。あの時、先に僕が本を開かなかったら、君が被害に遭っていたかも知れないなんて、想像しただけで、胸が張り裂けそうだよ」


 ノエル殿下は、悲しげに眉を下げながら言った。


 この御方は、自分が一番辛いはずなのに、どうして、こんなにも優しい言葉をかけてくださるのか。

 

「けどね、アンジェリカ。このまま僕の能力が戻らなかった場合、君には今後の事を考えて貰わないといけなくなるんだ。僕は王太子の地位を失い、サヴァランに譲ることになる。あの王宮に、あの両親の元に、力を扱えない僕の居場所があるとは、到底思えない。そうなれば、僕は君のように、才能に溢れた高貴な女性を妻として迎える資格も失うんだ」


 膝の上で拳を握りながら、辛そうにしている殿下の口から語られたのは、悲しくも現実に起こり得る未来。

 

 大好きな人をここまで追いつめてしまった罪悪感に、胸が張り裂けそうになる。


 震える拳に手を重ねると、殿下は少し驚いたように身体をびくつかせた。

 彼の澄んだ青い瞳は、戸惑ったように揺れている。


「ノエル殿下、そこまで思い詰めいらしたんですね。けれども、わたくしは、貴方から離れる気はありませんから。仮にそのような未来が訪れたとしても、わたくしは、あなたとしか結婚したくありません。殿下は以前、言って下さいましたよね。互いを補い合えるのが理想の関係だと。でしたら、医術の面はわたくしが殿下の分も務めを果たしますから、ノエル殿下は無知で鈍感なわたくしに、もっと愛を教えてください。わたくしは今まで、こんなにも苦しくて切なくて幸せな感情を知りませんでした。あなたとだから知ることが出来たんです。だから、お願いです。どうか離れないで、ずっと側にいてください」


 気づいたら目から涙が溢れていた。

 

 一番辛いのは殿下なのに、全部私のせいなのに、泣く資格なんてないのに。

 

 波のように押し寄せてくる胸の痛みに、俯き耐えていると、力強く抱きしめられた。


「アンジェリカ、ごめんね。泣かせるつもりは無かったんだ。酷いことを言って傷つけたね。君はこんなにも僕の事を思ってくれていたというのに。無知で鈍感なのは僕の方だよ」


 ノエル殿下は、指で涙を拭ってくれた。

 そのまま頬に手を添えられて唇が重なる。


 お互いの事がこんなにも好きなのに、離れるなんて考えられない。


 これ以上この御方が傷つかなくて済むよう、絶対に能力を取り戻す方法を見つけ出すと誓った。

 


 一ヶ月後、学期末の筆記試験が終わり、冬の長期休暇に突入した。


 事件以来、毎日図書館で文献を読み漁っているけど、手がかりは何も掴めずにいる。


 自分の無力さに絶望していたそんな時、私とお父様は王宮に呼び出され、両陛下と謁見することになった。


 話の内容はだいたい想像がつく。

 恐らくノエル殿下の力の事だ。


 お父様と共に王の間に入室すると、そこには両陛下とノエル殿下、サヴァラン殿下のお姿があった。

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