表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/44

23.No.006 妹系ヒロイン×フライアの中の人②


 シトロンに一緒に過ごそうと誘われた私は、彼のエスコートで、庭園を散歩することになった。


 赤・白・オレンジ・黄色・ピンクと、色とりどりのチューリップが、それぞれ帯のように色分けされて咲いていて、こだわって手入れされているのが分かる。

 

「どうだい? アンジェリカと過ごしてみて、勉強になったかい?」


 シトロンは優しい笑みを浮かべる。


 この質問はチャンスだ。

 自然にアンジェリカを蹴落として、私がこの家の妹に成り代わるんだから。


「アンジェリカ様は、と〜ってもお上品で〜ぷーちゃんも見習いたいって、思ってたんですけどぉ〜二人きりになると結構キツイ言い方をされますしぃ〜⋯⋯⋯⋯って、はわわっ!」


 ここでわざとらしく両手で口を覆ったあと、シトロンから顔を背ける。

 酷い目に遭ったけど、お兄様の前で、うっかり口を滑らせてしてしまったことを反省している演技だ。


「そうだったんだね。アンジェリカは、あんな見た目だから勘違いされやすいけど、誰にでも分け隔てなく優しくできる子なんだ。どうか誤解しないでやって欲しい」


 シトロンは申し訳なさそうに頭を下げた。


 なにそれ。

 裏表がある人なんて、珍しくもなんともないのに、まるでアンジェリカを絶対的に信用しているみたいじゃない。

 

「アンジェリカ様って〜少しお下品なところがありますよね〜? 無意識なのか、ティータイム中に、お鼻をほじったりぃ〜」


「そうか。全く想像がつかないけど、僕には見せない、そんな一面があるのかもしれないね。あの子は抜けているところがあるから」


「あとぉ〜暑くなって来たからってぇ〜お股を開いて、スカートの中身を扇子で扇いだりとかぁ〜」


「そうなんだね。そんなお転婆な所も可愛く思えてしまうなんて、僕も末期症状だ。はははっ」


 残念なアンジェリカの姿を想像しているのか、お腹を抱えながら笑うシトロン。


 ⋯⋯⋯⋯ウソでしょ?

 

 全部、根も葉もないウソだけど、シトロンは私の話を冗談半分で聞いているってこと?

 それとも、どんな下品な行動でも受け入れられてるってこと?


 私はお兄ちゃんたちの前で、夢を壊すようなことは絶対にしないし、お兄ちゃんの彼女を追い払う時には、こういう作戦も有効だったのに。

 


 想像以上に、シトロンからアンジェリカへの好感度が高いことに驚く。


 その後は、天真爛漫アピールのために、蝶を追いかけ、走り回って疲れたので、二人並んでベンチに座り、休憩することになった。

 ここで、うたた寝作戦に出る。

 

 右に座るシトロンの肩を借りて、すやすやと眠るフリをする。

 これでどう?

 子どものような姿を見て、守りたくなったでしょ?


 しばらくしてシトロンは、私が眠ったことに気がついたらしい。

 肩にそっと上着をかけてくれる。

 シトロンの体温が残っていて、温かい。


 そうそう、これこれ。

 こんな風にお姫様扱いされるのが、私の理想なのよ。


 満足すぎて、表情が緩んでいないかな。

 ま、それもいい夢を見ている位にしか思われないか。


 幸せな気持ちでシトロンにもたれていると、ふわっと身体を持ち上げられる感覚がした。


 え! まさか、お姫様抱っこまでしてもらえるの?

 初日からここまでしてもらえるなんて、さすがはヒロイン。


 それにしても、シトロンって想像以上に身体を鍛えているのね。

 目を閉じて触り心地を確認すると、かなり筋肉質なように感じる。

 そう。まるで、マッチョみたいに⋯⋯


 ベッドに寝かされる感覚と、メイドの声に薄目を開けると、そこにいたのはシトロンではなく、クグロフだった。


 まぁ、公爵家のお坊ちゃんが、簡単にそんなことまでしてくれないか。

 お兄ちゃんたちなら、絶対に運んでくれるのにな。



 ふて腐れた気持ちで寝ていると、いつの間にか夜になっていた。

 メイドが部屋まで運んでくれた食事を頂きながら、お助けキャラの猫に助けを求める。

 

「ねぇ、メープル。どうしたらシトロンの気を引けるのかなぁ?」


 私が相談すると、メープルは溜め息をついた。


「こちらとしては、ヒロインたちが迷走の末に撃沈する姿を観察して、大笑いするのが目的なのニャ。だからあんまり、事前に具体的なアドバイスはしたく無いのが本音なのニャ」

 

 メープルはやる気がまるでないような様子で、私の膝の上に寝そべっている。


「え? 今なんて言ったの? お助けキャラのくせに、ヒロインが撃沈するところを見て笑ってるって? ふざけないでよ!」


 怒りに任せて首の後ろのたるんだ肉をつかむ。

 何この猫。

 膝にかかる重みは、よくいるデブ猫と変わらないのに、貼り付いたみたいに、全然持ち上がらないじゃない。


 必死に格闘していると、メープルは重い腰を上げた。


「仕方ないのニャ。サポートガチャを回すと良いのニャ」

 

 メープルは面倒くさそうに、謎の空間からカプセルトイの機械を取り出してきた。


 このガチャは、課金した人しか回せないものだから、ソシャゲ版では一度も回したことが無いんだよね。

 

 ガチャで手に入るものは、アバターの服や部屋のインテリアなど、攻略に必要な『魅力』がアップするアイテムだったはず。


 レバーを回転させると、ピンク色のカプセルが出て来た。

 気になる中身は⋯⋯なにこれ。本?

 タイトルが、『眠れぬ真夏の夜の夢〜耳元で響くセミの鳴き声〜』ってことは、ホラー小説か。


 アイテム説明を確認すると、どうやらこれは、アンジェリカの部屋の机の上に置いてあった、18禁小説らしい。


 つまりこれは、アンジェリカの弱みということだ。


 さて、これをどう活用するか⋯⋯


 客室を出て食堂に向かうと、シトロンとノエルとアンジェリカが、ケーキを食べていた。


 片付け中の使用人たちの様子から察するに、公爵夫妻もいたのだろう。

 私を除け者にして、家族団欒してたんだ⋯⋯


 しかも、シトロンとノエルが、アンジェリカの事で固い握手を交わしている。

 それを温かい目で見守る、クグロフら屋敷の使用人たちと、ノエルの執事のトルテ。


 なによ。アンジェリカばっかり注目されて、優しくされて、愛されて。


 小説の使い方は決まった。

 男たちの前で恥をかかそうと、刺激的なページを見せびらかすも、何故か何も起こらなかった。



「どうして何も起こらないのよ。普通、こんなものを読んでるなんて知ったら、男たちの幻想が砕けて、ショックを受けるはずでしょ?」


 メープル相手に愚痴りながら、客室のベッドに倒れ込む。


「何も起こらなかったわけではないのニャ。アンジェリカは正直者だと、男たちの前で証明されたのと同時に、異性に興味津々の年頃の女の子だと言うことが分かって、男たちの頭の中では、良い方向に妄想が膨らんでしまったのニャ」


 メープルは憎たらしい顔で笑っている。


「は? お助けアイテムって、私を助けてくれるアイテムじゃないの? おかしいでしょ⋯⋯」


「フライアは妹属性にこだわるせいで、変な小細工をして台無しにしているのが、もったいないのニャ。普通にしていれば、攻略対象たちと仲良くなれたはずなのニャ」


「素の自分じゃ駄目だよ。お兄ちゃんたちだって、抜けてて、かわいこぶってる私が好きなんだから」


「そんなこと無いのニャ。作られたキャラだけで愛されるほど、現実は甘くないのニャ。きっと、あの兄たちなら、フライアが鼻をほじっても可愛いと言ってくれるのニャ。フライアのことを一番大事にしてくれる、現実の兄たちをフライアも大切にした方が良いのニャ〜」


 メープルは、目がなくなるほど、にっこりと笑いながら、そう言ってくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ