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14.No.004 男装系ヒロイン×ジュディの中の人②


 『運命のお嬢様との再会』作戦が撃沈に終わった私は、次の作戦に出た。


 名付けて、『彼に近づくために男装して、心の友になって、なんやかんやの後、ハプニングで女性だとバレて、両想いになる』作戦。

 

 来月の大型連休中、トルテは執事研修を受けるために、王家所有の別荘地にいるはず。

 

 私は、養父であるドロップス伯爵の印鑑を拝借して、適当に身元を偽装した紹介状を作成し、執事見習いの『ジュード』として、研修先に潜りこんだ。


 そして、その研修先で、とんでもない物を目の当たりにする。


 バラが咲き乱れるガーデンにて。


「アンジェリカ様、五種のフルーツの()()()()ケーキのご用意が出来ました」


 突然、お団子頭の侍女がそんな事を言ったのを耳にした。


「ちょっと、シフォンまで、わたくしをからかうの?」


 恥ずかしそうに言い返すあのお嬢様は⋯⋯ノエルルートの悪役令嬢、アンジェリカ=コンフィズリー。

 まさか、トルテの本物の初恋相手って、アンジェリカだったの?


「申し訳ございません。トルテ様と共に、ノエル殿下から、そのようなご指示を頂いておりましたので」


 侍女の口からトルテの名前が出た。

 そんな指示を出して、ノエルが何をしたいのかは、全然意味が分からないけど、つまり、トルテもアンジェリカが初恋相手だと認識している!?

 

 そのおぞましい仮説は、すぐに事実だと証明された。

 私たち執事の集団は、屋敷内で何度かアンジェリカとすれ違った。


 立ち止まり頭を下げるトルテは、彼女が通り過ぎると、切なげな目でその後ろ姿を見つめている。

 初恋の相手はアンジェリカ⋯⋯コイツで間違いない。


 しかもその淡い恋心は、現在進行中。

 執事と主の婚約者の道ならざる恋⋯⋯

 大丈夫よ、トルテ。

 直ぐに私が目を覚まさせてあげるからね。



 研修中の休憩時間。 

 いくら執事とは言え、年頃の男たちの集まりだ。

 話題は当然、恋愛トークになった。


「俺は癒し系の可愛い女性が好みです〜みなさんは?」


 唐突にモブ男は語りだした。


 コイツの好みはどうでもいいけど、この流れを活用しない手はない。

 お手柄だ。 


「僕は頑張り屋さんで、子どもが好きな女性ですね。ちなみに僕も子どもが大好きです。トルテ様は〜?」


 結衣の良いところを挙げて、遠回しにアピールする。

 

「努力家で、凛々しくて、麗しくて、尊敬できる⋯⋯けれども、どこか放っておけなくて、お世話して差し上げたくなる、愛らしい女性ですね」


 トルテは遠い目をしながら答えた。


「麗しいと言えば、本館の方にご滞在中のアンジェリカ様だな」


 モブ男その2が余計な事を言った。


「見た目はそうかも知れませんけど、殿下という存在がありながら、色々な男に手を出して遊ばせみたいですよ〜」


 私はここで、アンジェリカの評判を下げる事にした。

 貴族社会の裏側も熟知している執事が話す噂話なんて、信憑性が高すぎるでしょ? 


 それに確かこの先、本当にアンジェリカは、男性問題を起こしていたはず。

 それがノエルの闇堕ちの決め手だったとか。

 さぁ、トルテ。現実を直視して、絶望なさい。


「そうですか。そのような噂話が⋯⋯私はアンジェリカ様の事を良く存じ上げておりますので、自信を持ってその噂を否定できます。もしかすると、アンジェリカ様に愛されたいと夢見る男たちが、そのような噂を流しているのかもしれませんね」


 トルテは微笑みながら答えた。

 『自分もその男の中の一人です』とでも言いたげに⋯⋯


「おいおい、ジュード。いくら内輪だからって、未来の王妃の陰口なんか、言うもんじゃないぞ。君まで誤解されてしまうだろ?」


 モブ男は私をたしなめたけど、そんな事はどうでもいい。


 重症なトルテの目を覚まさせるためには、どうすればいいのか、必死に頭をフル回転させた。



 そして、私は一つの結論を導き出した。

 罪人を裁くために必要なもの⋯⋯

 それは動かぬ証拠だ。


 今の私は男の格好をしている。

 この姿でアンジェリカとスキャンダルを起こせば、トルテは奴の悪事から目を背けることはできない。

 ついでに、ノエルとの婚約破棄からの追放につながれば、二度とトルテと接点を持つこともないだろう。


 アンジェリカは毎晩のように、図書室の奥の部屋に入り浸っているようなので、そこで待ち伏せして、罠をしかけることにした。


「アンジェリカ様! いけません! そのような、淫らな行為はお止めください!」


 屋敷中に響きそうな大声をあげる。

 すると直ぐに、トルテが部屋に入って来た。


 ほら! ご覧なさい!

 あなたの想い人の節操のなさを!


「ジュード! 君は何を考えているんだ!? アンジェリカ様のような清らかな御方が、君に迫っただって? 不敬にもほどがある!」


 トルテはいつもの丁寧語も忘れて、怒りながらこちらに近づいてきた。


 そんなぁ。

 この状況はどう見たって、アンジェリカが悪いのに⋯⋯


 トルテはアンジェリカと一緒に図書室に来て、アンジェリカがこの部屋に入る後ろ姿を眺めていたと言った。

 それは本当なんだろう。

 どうして、この女に、そこまで夢中になれるの?

 どうして⋯⋯



「ジュディは最近のヒロインの中では、着眼点は悪くなかったのニャ。しか〜し、ノエルの攻略が難航している影響で、ノエル&トルテとアンジェリカが接触する機会も増えているのニャ。初恋補正も手伝って、トルテもすっかり、アンジェリカの虜なのニャ〜」


 メープルは、そう言い残して、空気に溶けるように消えていった。

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