第841話 合流
勇者ヘルミオスが神技「神聖煌剣」で魔王軍総司令オルドーを叩き切った。
「……やったよ。ガッツン。そしてみんな。敵は取ったからね」
これまでの戦いの中で失った友に対して、ヘルミオスは悲しみの表情を浮かべ、小さく呟いた。
だが、魔王城の中で今いる仲間たちと戦っている状況で、すぐに真剣な表情に変わった。
「おお、やりましたな。流石は勇者ヘルミオス殿」
十英獣のホバが感心して無防備に近付てくるとヘルミオスは視線を変えないまま答える。
「待って。みんな、警戒を解かないで。さっきも復活したから確認するから」
1時間ほど前、首を切り落としてもオルドーは復活し変貌を遂げて襲い掛かってきた。
プスプスッ
肩から袈裟懸けに上半身を切り落とされたオルドーは上半身からも下半身からも音を立てながら煙が立ち込め、生気があるようには思えない。
それでも念のために、右腕で神器オハバリを握り締め、鑑定を発動する。
だが、鑑定のスキルは発動しなかった。
『鑑定の対象を選んでください』
仮想窓には「鑑定不能」ではなく「鑑定対象外」の意味の表示が出る。
これは完全に倒されたことを意味する。
「……ふう、どうやら上手く言ったようだね。もう復活の心配はなさそうだ」
ようやくヘルミオスは安堵の表情を浮かべ、神器を腰に差して一息ついた。
「うむ、これで『我ら』は100年以上苦しめられてきた魔王の右腕を倒せたということだな」
イグノマスが自らの成果を誇張して語りだす。
『そうだな。……あとはアレンと合流せねばならぬか』
「ああ、そうか。バスクにオルドーと3ヶ所中2ヶ所倒したけど、後はアレンたちのところか。流石にアレンが負けるとは思わないけど、どこにいるんだ? この先の3つ目の髑髏の扉で確認するか?」
まだ獣帝化を解除していないテミの言葉をドゴラが理解した。
まだ合流を果たせていないアレンたちのチームが、まだ1つ目のルートを攻略中か、こちらに向かっているのか分からない。
ドゴラは他の仲間たち同様に、腰に下げた魔導袋から果実水の入った革袋を取り出し、ぶっ続けの死闘を繰り広げた疲労を回復するため栄養と水分補給しながら、シアに問う。
この先の通路を抜けた先にある3つ目の髑髏の扉は未攻略の扉があるので、そこまでいけば、アレンたちの状況が分かるはずだ。
それともシアの会話にテミが手元の手札をパラパラと弄りながら歩み寄ってくる。
「いや、どうやら当たりを引いたようだ。……あと少しでここに来る様だぞ」
テミがアレンの到着を占って15分ほど経過する。
皆が水分補給やモルモの実を頬張るなど休憩する中、流石にいつまで待つのかドゴラが声を上げようとした時だ。
ダダダッ
シアたちがやってきた通路の先からアレンたちが駆けてくる。
「大丈夫か!!」
(倒したところを見ていないけど。勝ったっぽいな。めっちゃ寛いでいるし。これは俺待ちだったか?)
アレンは事の経緯が分からなかったので、素早さ特攻のステータスで広間の奥へと駆け付ける。
「アレン様、置いて行かないでください!!」
「先に行くなよ、アレン!!」
ソフィーやルークなど、少し遅れてチームの仲間たちもやってくる。
アレンの焦りは無理もなかった。
(お、おお。オルドーも倒したか。神界で神々の試練を手伝ってきて正解だったな)
アレンのチームは攻略が終わっていなかったため、3階層へ向かう髑髏の扉に対して、2階層の未攻略ルートのために「戻る」を選択して、攻略ルートを探していた。
前回同様に監獄長ブレマンダの作った大迷宮となっていたが、2度目の攻略ということもあり、運が良かったこともあり、他の2チームと思いのほか早く合流することができた。
だが、アレンが焦ったのは、シアたちと行動を共にしていたルバンカが既に倒されており、神B「天神羽織」が破壊されている状況を知っていたからだ。
同じ空間に入り共有が再開されると、リオン越しに見たシアたちの戦況は既にヘルミオスがオルドーを叩き切ったところだった。
「倒したってことで良いですか? ヘルミオスさん」
「うん、僕の鑑定で確認したから間違いなく倒したよ。というかもう何分も経つけどこんな状態だし」
上下に分かれたオルドーはピクリとも動かず、煙を上げ続けている。
そのうち灰となって消えていくのかもしれないのだが、原形は留めている。
「そうですか、お疲れ様です」
「アレンよ。これが(俺が手に入れた)鍵だ」
アレンが視線を奥にある鍵に視線を移すと、イグノマスが魔法陣を破壊して鍵を取り出しており、まるで全て自らの成果のようにアレンに渡した。
「ありがとう、イグノマス」
鍵を渡したイグノマスは何かに気付いたかのようにハチの下へ向かう。
「よし、ルプト様は俺が必ず地上に戻そう。魔王軍が取り戻すため、死に物狂いで狙ってくるだろうからな」
『そうか、では、お頼み申す』
行動を開始するとあって、イグノマスがハチの抱きかかえるルプトを、自らが守ると言う。
確かに神器ワタツミによる圧倒的な身の守りに優れたイグノマスの方が、神聖オルハルコンの盾を持つだけのハチよりも、ルプト護衛に適していた。
ハチは命を受けたゼウ獣王のために、シアを守りたい思いもあったためすぐに了承し、話ができず虚ろな表情のルプトを預けることにする。
(ん? ルプトさんは声が出ない感じか? ぐったりしているな)
イグノマスが率先して動く中、3チーム全体のリーダーであるアレンもやるべきことを考える。
「シア、ヘルミオスさん。そちらのチームがどうなっているのか、情報の共有をしませんか? 少しだが、俺らのチームも休憩しておいてくれ」
「分かった! ファルちゃんにもモルモの実と果実水あげるね」
『ありがとうございます。たくさんいただきます』
激闘の中、束の間の休憩とあって、クレナも腰に付けた魔導袋から果実水の入った革袋を取り出して水分補給する。
気の抜けない魔王城の中、何時間も連続で移動し、戦闘が始まれば1時間とかぶっ続けで戦うことになる。
常人を超える力があっても疲労は蓄積するものだ。
ここまで魔王軍の幹部たちと戦い、これから魔王を含めた最終決戦が近いなら少しでも気力も体力も回復させておきたい。
クレナは自らのためではなく、ファルネメスのためにモルモの実をいくつも出して床に広げる。
3つのチームに分かれて始まった魔王城の攻略であるが、状況の確認と共有する。
側にいたクレナやドゴラと入れ替わるように、それぞれのチームリーダーのシアとヘルミオスがやってくる。
「こっちはブレマンダとかいう1階層に出てきた奴と倒したはずのドライゼンがいたんで倒して、魔王城を隠蔽する結界を消したところだ」
「僕らのところは見ての通りあそこで倒れているオルドーを倒した。魔王城へ繋がる鍵があったみたいだ」
『余のチームは相変わらず化け物になったバスクをようやく倒せたぞ。ルプト様を奪還することが出来たぞ』
アレンは2人の報告の中で一番気になったことは3チームに中に魔王軍最高幹部で参謀がいないことだった。
(キュベルはまだ出てきていないのか。まだコソコソと何か企んでいるのか。ん? ホバさんは何を持っているんだ。リオンにもなんか腰帯があるし。この黒いトゲトゲを俺は見たことあるぞ)
この状況でシアとヘルミオスの報告によって、ホバたちがどこかで見たことのある剣を持っていることに気付く。
さらに、リオンの腰には禍々しい茨の形状で、漆黒の湯気かオーラのようなものを立ち込める腰帯が巻かれている。
状況の分からないアレンの表情を察したシアが口を開く。
『ホバが持っているのは、バスクを倒した戦利品でな。アレンの石Sの召喚獣の予定がまだ埋まっていないと聞く。ぜひにと思って持ってきたわけよ』
ジャラジャラ
『……、こ、この呪符を外せ。全員切り刻んで生き血を飲み干してやる。貴様らの絶叫がどれほど響くか楽しみだぜ……。フガフガッ!!』
ルプトを縛っていた鎖で巻かれ、口を塞いでいた呪符を貼られた魔剣オヌバが活き絶え絶えの中、殺意を口にする。
脈々と真っ赤な血管の浮き出る漆黒の剣をホバがアレンに差し出す。
「そうか……。あまり協力的な感じはしないけど。たしかに石S候補かもしれないな。とりあえず、聖獣石に入れてみるか」
『す、吸い込まれる!? てめえら覚えてい……』
魔導書から取り出した聖獣石に入れると魔剣オヌバが何か言いかけのまま、すごい勢いで飲み込んでいく。
『魔剣オヌバを吸収しました』
『ここから出しやがれ、くそボケが! 内臓引きずり出すぞ!!』
『……解析中。解析終了しました』
『おい、勝手に解析するんじゃねえぞ! 俺様の何が分かるんだ!!』
『石Sの召喚獣候補で問題ありません』
『問題大ありだ! 召喚獣だ!?』
『召喚獣になるよう交渉を開始します』
『だれがなるかボケ! 俺はアマンテ様に忠誠を誓っているんだ!! こっからだぜ!!』
魔導書の表紙にログがすごい勢いで流れていく。
ログを流しているのは第一天使ルプトの配下の3姉妹の大天使で長女のアウラであろうか。
淡々としたログにどんな方法を使ったのが魔剣オヌバは汚い心の叫びを垂れ流す。
今は魔剣だが、かつて暗黒神アマンテに仕えた光魔八神将の一柱で上位神の岩山神オヌバは、今でも忠誠を尽くしているようだ。
(随分力を落としているようだが、今でも暗黒神以外の命令は聞かないと。召喚獣にするならお互いの信頼関係も大事なんだが。マグラとか今だに俺の命令聞かないし)
上位神である剣神と戦ったことがあるアレンは、元々上位神の力がオヌバにあれば、バスクは倒せなかったかもしれないと思う。
だが、それだけの力があれば、きっとバスクに扱われることもなかっただろうとも思う。
「……どうやら石S候補のようだ。これでまだ召喚できていないSランクの召喚獣候補の虫と石を捉えることができたな」
「候補だ!! モグモグ……」
アレンの言葉にもりもり干し肉を頬張るクレナが一緒になって両手を掲げるのであった。





