第839話 チームヘルミオス⑤オルドー戦(3)
床石に転がる魔王軍総司令オルドーの頭部が正面にいるイグノマスたちを睨みながら口を開く。
『首を切り落とされたくらいで死ぬわけなかろう。我は我は……。はて、我は何だったか? ……そうだ。我は魔王様へ忠誠を尽くさねばならん』
頭部だけになっているのだが首を傾げるような仕草を見せた。
そして、首から下の胴体や四肢と連携が取れているのか左腕が動き始め、左手がゆっくり頭部に向かって伸びていく。
「いけない!! 回復される前に倒すんだ!!」
攻撃の体勢をとっていたヘルミオス、ドベルグ、リオンが速やかに距離を詰め攻撃を仕掛ける。
『むん!!』
『ぐぬ!!』
「うわ!?」
「むぐ!!」
だが、オルドーは既に左腕は落とした大剣を掴んでおり、横殴りの斬撃がリオンの横腹に当たり、一気にヘルミオスとドベルグを巻き込んで薙ぎ払った。
「く! 皆、俺の背後から離れるな!!」
イグノマスは3人が吹き飛ばされても、攻撃に参加せず、背後の後衛たちのためを優先する。
今度こそとベスターも横に並び、首を繰り落しても復活したオルドーとの戦いに備えた。
そのオルドーは頭部を首の断面の上に頭を置くとメキメキと血管が伸び、皮膚が結合し再生していく。
『雑魚と侮っては魔王様への忠誠は果たせぬな。本気でいくぞ!!』
吹き飛ばされた先の3人が体勢を立て直そうとしている中、両足で床石を粉砕するほど踏みしだき、メキメキと皮膚の下で骨格が蠢き、全身の筋肉が躍動し始める。
口は大きく割け、牙が伸び、元々大きかった額の上にある2本の角が禍々しく枝分かれしながら上へ上へと延びていく。
『皆殺しだ!!』
ブンッ
「わ、ワタツミよ!! がは!?」
タンクの役目を果たしていたイグノマスがスキルを発動していない斬撃を繰り出されただけで、全身を覆う周囲3メートルほどの神器ワタツミの水の膜で覆われた防壁ごと吹き飛ばされてしまう。
「リオン、奥の手を。守りで!!」
『うむ! 守りだな 守破の衣!!』
【神B「天神羽織」の特技、覚醒スキルの効果】
・斥力障壁:自らの防具に体力10000、耐久力10000、全ダメージ10%減少
・守破の衣:周囲1キロメートル仲間たちと自らにどちらか「守」と「破」のどちらか1つの効果を与える。重複、二重掛けは不可
効果は1時間。クールタイム1日
守:体力30000、耐久力30000、全ダメージ30%減少
破:攻撃力30000、知力30000、全ダメージ30%上昇
※特技、覚醒スキル共に装備枠のためバフの影響による相乗効果はない
10日間の猶予の間にアレンは創生スキルを上げ、神Bの召喚獣を創生できるようになった。
見た目は神々しいまでの輝く羽織で、リオンの体が特技「伸縮自在」に合わせて大きさの調整が効き、これまでの天使及び神系統の創生スキル同様に素晴らしい効果があった。
特技「斥力障壁」はリオン自身の守りを向上させるため、常時発動させているが、覚醒スキル「守破の衣」は、クールタイムの関係や重複発動が不可のため、何かあった時のために取っておいた。
今こそ守りを固めるべき時だと、仲間たち全員の防具が覚醒スキル「守破の衣」の効果で淡く輝きだす。
『ほう? まだ何かあるのか。だが、その程度だ!!』
「うわ!?」
吹き飛ばされたイグノマスの守りの穴を埋めるべくベスターが自らの神聖オルハルコンの大盾を構えるが、オルドーの斬撃によって踏ん張りが効かず吹き飛ばされてしまった。
覚醒スキル「守破の衣」の「守」は、仲間たち全員に神器級の防具を重複で装備させるほどの守りの向上につながるのだが、それでも明らかにオルドーの力が圧倒しているように思える。
「守りを優先しつつ、突破口を切り開くんだ!!」
「はい!!」
「はい!!」
「はい!!」
オルドーの目の前で対峙するヘルミオスが檄を入れると、仲間たちが力強く返事をする。
絶望の中、希望を探して命懸けの戦いに10年以上身を置いてきたヘルミオスの戦意は陰りを見せない。
こうやって仲間たち共に希望を駆り立て必死に戦ってきた。
『…これだけの力の差を見せたつもりだが、ほう、何人殺したらその威勢が消えるか見ものだな。貴様の顔が絶望に歪むところをもう一度見せてくれぬか? あの時の要塞での戦いのようにな』
まだスキルを使っていないのに力の差は歴然だとオルドーは勝利を確信している。
「き、貴様!!」
ごりごりと魔力をたぎらせるオルドーがゆっくりとヘルミオスたちの陣形に向かって歩みを進める。
ダダダッ
「ん?」
だが、その時だった。
ヘルミオスの背後に何足音が聞こえ始めた。
すぐに、足音は1人や2人ではなく10人を超えており、こちらに向かってかけてくる。
さらに何やら会話をしているようで、接近に連れ声が大きくなっていく。
『テミ殿よ。こっちか!!』
『ああ、そうだ。どうやら既に激しい戦闘が始まっているように思える。急いだ方が良いようだの』
「まったく別の扉の出口から出たら、2階層の最初に戻されるなんて聞いてないぞ!! こんなに走らせやがって!!」
『ドゴラよ、無駄口を叩くな。……だが、どうやら間に合ったようだぞ』
ドゴラとシアを先頭に、チームシアの皆がヘルミオスたちのやってきた通路からぞろぞろと走り抜けてやってくる。
2階層のボスを倒し、分かれたチームと合流しようと、まだ攻略が終わっていない2階層のルートの再挑戦を選ぶと、1階層から2階層へ入ってすぐの場所へ飛ばされることになった。
迷宮となっていたがテミの占いで道を選びだし、最短ルートでヘルミオスたちと合流し、現在に至る。
『ほう、ルプトを助け出し、それは魔剣オヌバか……。であれば、バスクは倒されたようだな。シノロムのおもちゃがまた1つ壊れたか』
ハチに抱きかかえられたルプトとホバに呪符と鎖で縛られた魔剣オヌバにオルドーは視線を移して状況を確認する。
「そういうこったぜ。バスクの野郎はもうこの世にいねえぜ。次はてめえだ!! 後ろの鍵を手に入れたら後は魔王だけだ!!」
ドゴラが吠えるように挑発を吐き捨てるとオルドーは一瞬眉間に皺を寄せたが、すぐに平静を取り戻した。
『ふん、虫ケラがどれだけ増えようと、魔王軍最強の我が塞ぐこの場から貴様らが一歩も進めぬが道理だ。魔王様を倒すなどたいそれたことを口にしたことを後悔しつつ、皆ここでくたばるが良い』
オルドーは全員が認識できるよう視界を広げたオルドーが大剣を上段に構え静止する。
「けっ。やったるぜ!!」
ダンッと空気を切り裂くように駆け抜け、オルドーの前に躍り出る。
『……』
シアはドゴラの突撃を静観し、状況を見定める。
「うらあああ! 修羅双連撃!!」
2本の神器の大斧が十字にオルドーを切り裂こうとする。
キンッ
だが、胸元を襲い掛かったのだが、刃はオルドーの皮膚を割くこともできず甲高い音が広間に鳴り響く。
『雑魚が我にダメージを与えられると思うな! 神切剣!!』
魔神王の素の状態から本気を出し凶暴になったオルドーの肉体は、神器ですら傷がつけられない。
「ぶわっ!?」
ドゴラはオルドーの胸を蹴り上げ、後退しつつ神器を胸の前にクロスするように構え、オルドーのスキル「神切剣」を受け流そうとする。
だが、衝撃があまりにも強力で神器から衝撃が通り、神聖オリハルコンの鎧を打ち付ける。
ドゴラを後方に吹き飛ばしながら斬撃の衝撃波は50メートル、100メートルと延びていく。
そこには後衛たちの陣形があった。
壁役のイグノマスもベスターもいるが、ヘルミオスは防御するのは難しいと判断し、全員に合図を送る。
「左右に避けて!!」
「ええ!!」
分かりやすく突っ込んだドゴラを見つめながらも、ヘルミオスとシアのチームのメンバーが後衛含めて、ダダッと左右に分かれる。
「なるほど、見た目と一緒で強化した姿ってわけか。くそ固いぜ!!」
深々と割れた足元の床石を見ながらドゴラは分析をする。
『そういうことだ。バスク同様の作戦が良いのでは?』
ドゴラを単身で突っ込ませたのは、十英獣たちに今のオルドーの強さを知らせるためであった。
バフがかかり神器を持つドゴラのスキルでほとんどダメージが与えられない。
さらに攻撃は強力で攻撃範囲は数百メートルに達し、後衛たちも危険だ。
「だが、思ったよりもダメージを受けなかったな。これは……」
『それは儂のスキルの影響だの』
覚醒スキル「守破の衣」を発動したリオンがドゴラの疑問に答える。
あとからやってきたチームシアのメンバーについてもリオンから1キロメートル以内に接近したことによって効果が発動したようだ。
「なるほど、まあ、奴はネスティラドに比べたらへなちょこだぜ」
『油断はするなよ。ドゴラ』
今はアレンの召喚獣になったリオンだが、霊獣ネスティラドの力に比べたら本気を出したオルドーは半分に満たない力だとドゴラは意気込む。
シアは脅威であることには変わらないと言う。
『ほう、楽しそうに会話するとは舐められたものよな。貴様らの顔を絶望で満たしたくなってきたぞ』
ズンズンとこちらに大剣を握り締めてオルドーが向かってくる。
「それで、やっぱりシア様がいるってことは、作戦はコンボってことかな」
『ヘルミオス殿、そのとおりです。コンボをつなげ、弱らせ倒すが良いかと』
「皆、分かったな。僕とシア様、ドゴラ、リオンの4人を中心に攻める。他の前衛はサポートしつつ戦ってくれ」
ホバとハチがまだ自由に動けないルプトと鎖に縛られた魔剣オヌバを後衛の側に置いて戦闘準備に入る。
「む? 俺は守り担当か、ドゴラよ」
「そういうこったぜ」
魔王軍最強の敵と戦いたそうにしていたイグノマスはベスターと同様に後衛を守る役目だったようだ。
「じゃあ、いくよ!!」
「おう!!」
ヘルミオスの横でドゴラが威勢よく答えるのであった。





