第837話 チームヘルミオス③オルドー戦(1)
ヘルミオスの前に魔王軍総司令のオルドーがいる。
2階層で彷徨い、ロゼッタの功績で魔王城の宝物庫を荒らし、この場にやってきたため16時を過ぎたころだ。
【チームヘルミオスの時間の流れ】
13時30分:2階層到着、彷徨う
14時30分:ロゼッタがスキル「宝物探検発動」
15時00分:宝物庫到着、宝物庫荒らし、移動
16時00分:オルドーの前到着
上半身半裸なためかマッチョな肉体を誇張するような恰好だ。
ヘルミオスたちに気付いて、ゆっくり背中に掛けた大剣を握り締め、こちらに向かってくる。
ピコピコッ
「ちょ、ちょっと!? あれを探したの?」
『む? 何だこれは?』
全長10メートルに達するオルドーの視線の先に、ロゼッタが発動したスキル「宝物探検」のスキルでできた魔力の手が指さした先には1つの魔法陣の上に浮いていた。
これはキュベルの言う魔王の間に入るための鍵なのだろう。
これがないとどうやら広大で複層構造の魔王城内を彷徨うことになるのだとか。
ロゼッタは貴重なアイテムを見つけるスキルで鍵を手にするための道のりを探し出すことができたようだ。
ブンッ
外套をはためかせ、オルドーは魔力の手を巨大な大剣で消し飛ばした。
「……嬉しいよ。これで決着って奴かな」
戦神ルミネアから借りた神器オハバリの剣を握り締める。
白みに輝く剣はクレナやドベルグ、そして正面にいるオルドーと違い、大剣ではない。
アレン同様に「剣」に分別される武器を使うヘルミオスは、スキル「天稟の才」によって魔法も含めて多彩なスキルを扱うので、片手でも扱える武器を好む。
あらゆる武器に変わることができる神器オハバリを握り締めながら、相手の出方によって武器の形状を模索していると、オルドーが何か引っかかるのか疑問の声を上げた。
『嬉しい? 我と戦えたら何故、嬉しいのだ? 期待して悪いのだが、今回の三択の道は完全にランダムで我と戦うはめになって不幸でしかないはずでは? なぜなら我と戦うことでここで貴様らは皆殺しに合うことが決まっているのだからな』
勝利を確信するオルドーは純粋な質問のようだ首を傾げながらヘルミオスに問う。
「私たちのことを忘れているなんて……。あれだけのことをしておいて心無き獣の所業です!」
魔王軍の全軍を指揮する立場のオルドーに対してグレタが、ヘルミオスの背後で激怒している。
ヘルミオスのパーティーは皆、同様の思いのようだ。
アレンよりも10歳早く生まれたヘルミオスは、それだけ長い間、魔王軍との戦いに身を置いてきた。
十数年という年月で、救援が間に合わず壊滅した前線の要塞は数え切れない。
学園に通っていた仲間や友達のどれほどがまだ生きているのか確認する余裕すらない。
魔王軍との戦いに苦しむのは最前線だけではない。
街も村も才能ある者たちを最前線に送られ、ほとんどが戻ってこなかった。
長年の戦いによって、魔獣の脅威に立ち向かうことのできる才能ある者たちは他国に比べても圧倒的に割合が少ない。
戦う才能のある者たちが騎士団や自警団、冒険者として魔獣を狩らないと街も村も機能不全に陥り荒廃が進んでしまう。
そんな村の1つに故郷の家族を残しているヘルミオスは、魔王軍と戦うために前だけを見てきた。
仲間たちの中には故郷に領土を奪われた王侯貴族もいる。
国自体を奪われた王家の末裔もいるのだが、そんなことはオルドーにとってどうでも良いのかもしれない。
「たしか神界でも君のせいで友を失ったと話したつもりだけど、あの時も何やら作戦を優先していて君にとって僕らは視界に映ってすらいないのかな」
オルドーが、武器を振りかざし構えたヘルミオスたちの表情が怒りに満ちていることに気付く。
『む? 機嫌を悪くしてしまったようだな。お前は勇者ヘルミオスだ。そして、そこの魚人は我らにいい様に内乱を起こした者だろ。よく知っているぞ』
「なんだと!? き、貴様!!」
敵の情報の細かいことは知らないが、魔王軍の総司令として報告を受けた情報くらいは知っているぞと言わんばかりの態度だ。
オルドーが淡々と知っている情報を口にするのだが、それが逆にイグノマスを逆上させる。
「ちょっと、イグノマス。君が怒ってどうする。こんな何もない奴に怒ってもしょうがないよ」
ヘルミオスがイグノマスを諫める。
魔王が邪神の尾を吸収する過程でプロスティア帝国の近衛騎士団長のイグノマス、アルバハル獣王国のベク獣王太子は内乱を起こした。
『何が言いたい?』
「根拠なき忠誠に踊らされている貴様よりはマシだってことさ」
『なんだと? 我の魔王様に対する忠誠を愚弄するか』
オルドーが怒りを込めて、大剣を握り締めこちらに向かってくる。
そのオルドーだが元々は、暗黒神アマンテに仕える8体の上位神で構成する魔神だと言う。
さらにこの「魔神」という存在は、元々は上位神であるオルドーとその眷属である配下の者たちがそう呼ばれていただけのようだ。
今は魔王軍が何らかの術か分からないが、魔神や上位魔神を大量に作り出している。
それもオルドーを魔王軍総司令にしていることが関わっているのかもしれない。
蟲神ビルディガや岩山神オヌバはどこか、過去の記憶がありそうなのだが、このオルドーのみ完全に記憶が消され、魔王に忠義を示す存在になっているのは、これまでの言動から推察される。
「魔神」という存在は魔王を超えた存在だ。
アレンが皆に伝えた推理では、このオルドーの力を分析するなりコピーするなりして、大量の魔神や上位魔神を生じさせていると予想している。
オルドーを倒せば、魔王ほどではないが、魔王軍中枢で戦力発生する存在を失い、大きな戦力ダウンを図ることができる。
『ゴミ虫程度の存在でありながらおのれ……。我の忠誠を愚弄するのか!!』
オルドーはヘルミオスの言葉に自らの角が気になるのかゆっくりと片手で触れた。
歩みを進める速度を速め、大剣に魔力をメリメリと込めていく。
「……よし、相手がオルドーなら丁度良い。皆、良いね」
軽く視線を周りに送ったヘルミオスがチームの皆に準備が整っているのか確認する。
そう言いながら、後衛たちが退避活動を取れるようヘルミオスは自らを前進させる。
この広間は奥行きが1キロメートル、幅も1キロメートルの大広間だが、ヘルミオスたちやオルドーのステータスに比べたら決して広くはない。
本気を出せば、何秒もかからず端から端まで移動できる。
このままでは前衛が崩れたら、後衛は壁際に既に追い詰められた状態になる。
ヘルミオスとリオンを最先頭、背後にイグノマス、その左右の斜め後ろにドベルグとシルビアの陣形で歩みを進める。
「ええ、上手くいくといいけど。神界で戦った時もそんな機会なかったし失敗したらごめんね」
この場に来るまでにいくつかの作戦について話し合っていた。
自らのロゼッタがドベルグを壁にするように隠れながら、不穏なことを言う。
ここに来る前に仲間たちのエクストラスキルも使い、バフは十分だ。
【パーティー「セイクリッド」のエクストラスキル一覧】
・英雄王ヘルミオス:天稟の才
条件を満たした相手のスキルを手に入れることができる
※エクストラモードになったためスキルに変更
・怪盗王ロゼッタ:強奪手
相手のスキルや装備を手に盗むことができる。スキルの使用は不可。
盗まれた者は24時間、スキルを使用することができない。
・剣帝ドベルグ:破甲剣
耐久力、物理耐性無効の必殺の一撃を与える。
・剣帝シルビア:煉魔冥斬剣
大剣を掲げ振り下ろす。火と闇属性の一撃
・聖帝グレタ:天使の瞬き(エンジェルウィンク)
1時間の間、仲間全員に、敵の攻撃を受けた場合の死亡を50%回避する
回避が発動しても、1時間の間、効果が切れることはない
祈りのポーズで十字架が背中に現れ、天使の羽が舞い降りる
・聖女イングリッサ:奇跡の神符
1時間の間、仲間全員に、体力、魔力が秒間100回復する。
魔法、物理、ブレス耐性が10%上昇する
天を掲げる雨ごいのポーズで日の光が降り注ぐ
・大魔導士ローラ:技巧魔術
1時間の間、仲間全員に、魔力消費、発動時間が半分になる
幾何学的な文字の魔法陣が周囲の対象者を包み込む
・大魔導士リミア:氷結世界
地面に杖を叩きつけ、周囲を凍らせ、対象に氷属性のダメージを与える
足を凍らせたりして動きを封じることもできる
・弓聖グミスティ:強欲な狩人
1時間の間、仲間全員に、スキル発動速度が半減し、遠距離攻撃(魔法および物理)の命中率が50%上昇する
・騎士帝ベスター:守護者の聖壁
1時間の間、仲間全員に、耐久力が3000上昇、光属性の耐性付与。1日間使用不可。
※クールタイムは全て1日
『ふん、何をごちゃごちゃいっておる!! 我の力忘れたか!!』
向かってきたオルドーが広間の中央にくるかどうかのタイミングで、ダンッと床石を蹴り上げ突っ込んでくる。
『む? ヘルミオス殿よ!!』
ヘルミオスとリオンで最前を進んできたが、オルドーは体をひねり、リオンを避けヘルミオスに横殴りの斬撃を浴びせる。
「ぐは!?」
神器オハバリの剣に腹で受けたがそのまま、後方に吹き飛ばされる。
『雑魚どもが!! むん! 貴様の戦略はお見通しだ!!』
そのままリオンを無視して後衛たちを皆殺しにして長期戦に持ち込まない作戦を取っていたようだ。
「神器ワタツミよ。我を守れ!!」
ヘルミオスが吹き飛ばされ、イグノマスの目の前に躍り出たオルドーが大剣による斬撃を浴びせようとする。
神器カリプソンの槍で受けたが、ヘルミオス同様に強力な一撃によって吹き飛ばされそうになる。
神器ワタツミの鎧の鱗の隙間から一気に粘性の水を生じさせ、防御しようとする。
自らも吹き飛ばされたら、後衛を守り切れないとイグノマスは瞬時に判断した。
1対多数の戦いにおいて、圧倒的なステータスの差を活かしたオルドーは、一気に戦況を決める作戦に来たのであった。





