第834話 チームヘルミオス①宝物探検
ヘルミオスをリーダーとする「セイクリッド」のパーティーとイグノマス、リオンのいるチームが1階層から移動を開始して1時間が経過した14時半ごろだ。
シアの選択した扉の先には究極兵器バスクが、アレンのところには監獄長ブレマンダがいた。
ヘルミオスたちのパーティーにはまだ、姿を見せない魔王軍総司令オルドーや参謀キュベルがいるかもしれないが、そんなことを彼らが知る由はなかった。
ヘルミオスたちはブレマンダが作ったスキル「無限迷宮」の通路を移動していた。
通路を進みながら時折3体から5体構成の上位魔神を含めた魔神たちの構成と戦い、これで6回目だ。
「ふう、角の死角に潜んでいたか」
『ぐ、ぐふ……』
ビシャッ
魔神の1体に対して心臓から背中に抜けるほど突き立てた剣をドベルグは引き抜いた。
単眼で睨みを利かせ床に崩れ完全に絶命したことを確認して、べっとりと付いた紫の血を振り払う。
「ありがとうございます。イグノマスさんも怪我はありませんか?」
背後にいた聖帝グレタが敵を倒してくれたドベルグと、身を挺して守ってくれたイグノマスに礼を言う。
ポロッ
ポロッ
グレタへの軌道に割り込んで差し出した、イグノマスの左手の先に生じた大盾に突き立てられた2本の矢が僅かにも食い込むこともできず床石に落ちた。
役目を終えた大盾は水の膜へと変わり、シュルシュルと左手を伝い魚鱗の鎧の隙間に吸い込まれていく。
「問題ない。俺の神器ワタツミはこの程度の攻撃で傷つけられることはない」
イグノマスは槍と鎧のそれぞれ槍神と水の神から神器を借りている。
鱗で覆われた鎧は魚人にぴったりの神器ワタツミは圧倒的な耐久性能を誇る。
自らの意思と関係なく、物理、魔法、ブレスなどによる攻撃を自動的に鱗の隙間から果てしない粘性の水の膜を生じて球体の膜、盾型の防具などを一瞬で生じさせ防いでくれる。
アレンのパーティー「廃ゲーマー」において、攻撃に特化したクレナやドゴラ、素早さと連撃に優れたシアと違って、攻撃と防御のバランスの良いイグノマスは、アレンの欲しかった「タンク」の役割をこなす。
「さすが、アレン君だ。頼もしい仲間を寄こしてくれたね」
神器でドベルグの先にいた弓使いの魔神を袈裟懸けに切り倒したヘルミオスが切り伏せてから関心する。
『これで終わりかの』
神A「蓋世天錫」の武器で3体の魔神を容易く肉片に変えながらリオンは、通路の先を見続けている。
「……本当に助かるよ」
これで何度目か分からない感謝の言葉をヘルミオスが口にする。
ヘルミオスのパーティーも転職を遂げ、名工ハバラクが叩いた武器にカサゴマの作った魔法具を装備しているのだが神Sの召喚獣には敵わないようだ。
ドベルグが剣を持っていた前衛の魔神を切り捨て、ヘルミオスが後方にいる弓使いの魔神を切り捨てている間に、さらに後方にいた魔法使い系と回復系の魔神3体を言葉通り肉片に変えていた。
「よし、敵は倒した。先に進もう!」
このチームのリーダーであるヘルミオスが数分の戦闘を終え仲間たちの被害がないことを確認して移動を再開しようとした。
「ちょっと、何また進もうとしているのよ! ここ、なんか変よ! ちょっと止まって!!」
怪盗王の才能があるロゼッタが大声を上げて移動をしようとした姿勢のまま視線を集めえた。
「ロゼッタ、どうしたんだい?」
「『どうしたんだい』じゃないわよ! 同じ道を何度も移動しまくって、今回は隠れた敵でも問題なかったけど、このまま闇雲に移動しても不味いでしょ!!」
「……その話は先ほどもしたであろう。確かにそうだが、進まぬわけにはゆかぬ」
1時間の間に6度の魔神の部隊から攻撃を受けたのだが、今回のロゼッタの苦言は初めてではなかった。
この2階層は監獄長ブレマンダによって複雑な迷宮となっているのだが、ヘルミオスのパーティーには道を探すことのできるテミや召喚獣や精霊による力業での攻略方法はなかった。
チームを分けることもなく塊になって必死に進むしかなかったのだが、既にどこからやってきたのかも分からない状況だった。
「あなた勇者でしょ! リーダーでしょ! 天稟の才とかで何とかしなさいよ!!」
「いや、僕のスキルは事前に用意するものだし……。魔神たちも有用なスキルないし、ロゼッタも別に敵を探すよりお宝を探す方が得意だし」
ヘルミオスは自らのスキル「天稟の才」の活用方法をよく分かっていた。
相手のスキルやエクストラスキルを手にすることができるこのスキルのため、事前に用意しておかないと何も役に立たない。
さらにエクストラモードになって魔神や上位魔神を鑑定できるようになったのだが、この迷宮の魔王城を攻略するために有用そうなスキルは持っていなかった。
だが、言い訳をするヘルミオスの言葉にロゼッタは肩を震わせる。
「ちょっと、『怪盗王』だから私が道を探せないって言いたいわけ! 事前に道探し系のスキル用意していなかったあんたが悪いんでしょうが!!」
「また始まった……」
「もうこんな魔王城でする話じゃないわよ」
「ロゼッタは怪盗のおかげでこれまで助かったこともあるぞ。今回は斥候が欲しかったけど」
ヘルミオスのパーティーの女性陣がロゼッタに対して口々に不満を言う。
この状況にロゼッタが短剣を握り締め、肩を震わせ出した。
「皆、殺すわ! 覚悟して切り刻まれなさい!!」
『これこれ、落ち着かれよ』
「ちょっと、リオン、離しなさいよ!!」
背後からロゼッタの首根っこを掴んだリオンによって体が宙に浮き、ばたついた腕で振るった短剣が必死に何もない空を切る。
「やれやれだ。こんなところに来てまで『ロゼッタ怪盗問題』が出てくるとはね」
「そんな問題、最初からないわ。貴方のオリハルコンの剣を一体誰が探し出したと思っているのよ。リオン、もう暴れないから離しなさいよね!」
ヘルミオスに苦言を言うロゼッタがリオンから解放されてからも口を尖らせ不満たらたら言う。
ヘルミオスのパーティー「セイクリッド」のメンバーの1人であるロゼッタの問題とは、斥候ではなく怪盗であるということだ。
斥候と盗賊とはどちらもダンジョンなどで罠を探したりすることができるのだが、スキルの方向性が違ってくる。
盗賊はあくまでもお宝探しが得意な才能のため、「開錠」、「宝探し」のスキルを有している。
だが、斥候は、「道順検索」、「索敵」などのスキルを有する。
今回であれば、この右に左に似たような道が果てしなく続く通路を攻略するためには「道順検索」のスキルが必要だ。
さらに、待ち構えている敵が1階層で出てきているキュベルやオルドーに対して「索敵」のスキルを使い、その対象のいる道順を辿っていくという方法もある。
どちらも斥候のスキルで、ロゼッタにはなかった。
貴重なアイテムを探して金策や仲間たちの装備を強化していた怪盗王のロゼッタであるが、ダンジョンなどの迷宮で道を探す必要がある場合などで、今回のような『ロゼッタ怪盗問題』が出てくるのだ。
この様子を見ていたドベルグが何かに気付いたのか口を開く。
「……だが、宝探しも悪いわけではない」
「それって私をフォローしているつもり、ドベルグ。もういいわよ。先を行きましょう」
「いや、まて。このまま進んでも道は元々無限に続いているだけなのかもしれない」
「試せるものがあれば試した方が良いってことですね」
「そういうことだ」
ヘルミオスが思いつくものがあれば何でも試行錯誤で試す場面だというドベルグの言葉を仲間たちにも分かるように伝える。
仲間たちの視線が一気にロゼッタに集まっていく。
「な、何よ。あんなこと言って、私にお宝探ししてってこと?」
ロゼッタはあれだけこけおろしておいて虫の良い話だと口を尖らせた。
「まあまあロゼッタ、そんなにいじけない。期待しているよ」
「何か貴重な攻略のためのアイテムがこの通路のどこかに隠されているかもしれぬ」
2人に説得されやる気を出したロゼッタが皆を背にした。
「わ、分かったわよ。お宝がこの魔王城の階層に眠っているかもしれないわね。『宝物探検』!!」
怪盗王ロゼッタがスキル「宝物探検」が魔力を集めた右腕を天に向かって掲げた。
右腕の手首から手のひらまでが魔力の象り、宙に浮いていく。
魔力の手は空中で人差し指を指しながらグルグル回っていく。
ピタッ
ロゼッタたちがその様子を見る中、魔力の手がピタリと通路の先を指し示した。
「あったわ! この階層にお宝があるわよ!! 宝物探検! とびっきりのお宝の場所に案内しなさい!!」
クイクイッ
ロゼッタの指示を聞いたかのように魔力の手は人差し指をクイクイとゆっくりと空中を進みだした。
「もっと急ぎなさい! 宝物探検!!」
ビュウウウン
一気に加速する魔力の手を全員で右に曲がったり、左に曲がったり、分かれ道を直進するなどしながら30分ほど追いかける。
「む? 扉があるぞ」
「って、敵よ! 扉の番人がいるわよ」
まっすぐ進んだ通路の先が行き止まりだ。
『何者だ! ここは魔王様の宝物庫で……』
『我らはこの魔王城の宝物庫を守る……』
『むん!!』
扉を守る2体の上位魔神をヘルミオスのパーティー内で先行するリオンが錫杖の横殴りの一撃で、一瞬で粉砕する。
そのまま扉を力いっぱい押そうとするが、ピクリとも動かない。
『ふむ、鍵がかかっているのか。かなり頑丈な扉だな』
リオンがそう言って扉に向かって金の神Aの錫杖を掲げようとする。
扉には大きな宝玉が中央にはめ込められており、リオンの力であっても押しても引いてもピクリとも開かない。
ヘルミオスのパーティーは魔王城内の宝物庫に辿り着くのであった。





