第832話 チームアレン⑦ブレマンダ戦(5)
作戦が決まりアレンは100万を超える速度でブレマンダに迫る。
「いくよ!!」
『ええ。倒しましょう』
圧倒的な速度のアレンを追ってクレナもファルネメスに乗って駆けてゆく。
『かかりましたね。皆さん、力を解放するときです』
(やはり仕掛けてきたか。自らが攻撃を耐えている間に仲間たちを使って倒す作戦か。お互い王道の戦法ってことだな)
アレンは100万を超える素早さによって世界の全てがゆっくりと進んでいるように見える。
ブレマンダの口の動きと表情から何がしたいのか推察する。
アレンは新たな敵を魔法陣を使って永遠に呼び続けるブレマンダを狙った。
ブレマンダは自らを餌にパーティーリーダーのアレンをおびき寄せ、鉄壁の防御で攻撃を防いでいる間に、アレンの仲間たちを襲う作戦のようだ。
アレンとクレナがいなくなったタイミングでブレマンダが仕掛けてきた。
ブレマンダとバロンカロンの2体がかりで守りを固め攻撃力を向上させるバフを掛けているだけではなかった。
ドライゼンは腹いっぱいに漆黒のブレスを、万力の力を両腕に込めていたリンブルラは跳躍して残されたソフィーたちに迫る。
「ペロムス!! 今だ!!」
「う、うん! りゃあああああああ! 真・銭投! って!?」
このダンジョンを進む上での過程と幸運上昇の魔法具によってペロムスの幸運は80万近くに達している。
幸運依存で威力が上がるスキル「真銭投」の一撃を受けたら上位神であってもただでは済まない威力がある。
神界で手に入れた光金貨を握りしめたペロムスは、作戦どおり回復役のバロンカロンに対して数歩歩いて、投擲しようとした。
ガッ
「ああああ、ごめん!! 金貨が!?」
「ペロムスさん!」
「おい、何してんだ、ペロムス!! ムートンたち身を守れ!!」
目の前で転びそうになるペロムスにソフィーとルークは絶句する。
魔王軍の脅威が仲間たちに迫る中、足元の戦いで砕けた床石の隙間に足を引っかけてしまい、金貨は明後日の方向に飛んで行ってしまった。
だが、アレンは淡々と距離を詰める。
1秒が永遠に感じるほど濃縮した時間の中でアレンは構わず自らの剣を上段から振り下ろす。
『何度攻撃しても同じことですよ。私の無限障壁は砕けません!!』
『ソウルセイバアアアアアアアアアアアアア!!』
神界でレベル250まで引き上げた知力依存の特技を使用し、仲間たちと共に攻略して手に入れた「アレンの剣」に、自らの勇気をもって剣神セスタヴィヌスから手にした「ソウルセイバー改」を振るう。
バキッ
『む? な、何ですが!? この威力は!!』
剣の周りにあまりの威力に魔力が青白く弾け、紫がかった障壁を1枚容易く粉砕する。
それでもいっこうに斬撃の威力は衰えない。
知力が上昇したこととソウルセイバーは改になって2倍の威力がある。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
バキッ
バキッ
「く、砕かれる!? 障壁展開解除!!」
4枚あるうち3枚を砕かれたところで、ブレマンダは慌てて回復役のバロンカロンに渡している「無限障壁」の1枚を返してもらう選択をする。
(瞬時の判断だな。だが、ここは全て俺が砕く!!)
さらに1枚の「無限障壁」が戻ってきたころには4枚目の「無限障壁」が破壊された後であった。
バキバキ
5枚目にしてようやく威力が収まりつつあるが、アレンはそれでも5枚目の「無限障壁」を1人で破壊しようと試みる。
『なんて威力ですか!?』
ブレマンダは迫る中、背後で仲間たちと呼び寄せらた3体の敵との攻防が同時に行われていた。
「ごめええええん!?」
こけたペロムスが慌てて新たな光金貨でスキル「真銭投」を発動しようとする。
だが、明後日の方向に飛んで行った光金貨は投擲の際に通常とは違う力が入ったためか、回転しながらも放物線を描き進んでいく。
進んだ先には奇跡的に飛び上がったばかりのリンブルラの腹にぶち当たる。
ドパンッ
『ゲピュア!?』
一気に腹を突き破り吹き飛ばしたリンブレラは床石に着く前に絶命する。
光金貨の勢いは耐久力10万かそこらの腹を貫通したくらいでは衰えることもなく、そのままカーブの軌道を進みながら、本来狙っていたバロンカロンの顔面に吸い込まれていく。
『ドピャ!?』
幸運80万の力を込めたスキル「真銭投」の効果によって、バロンカロンの頭部は粉砕される。
たまたま床石のつなぎ目に足を踏み外したペロムスであったが幸運なことに2体同時に敵を倒すことができた。
「やった……。ふあ!?」
『燃え尽きよ!! ぐおおおおおおおおおお!!』
ペロムスが良かったと思ったのは束の間、ドライゼンの凶悪な口から頭上から漆黒のブレスに吹き荒れる。
『水の障壁が蒸発してしまうぞい。ふぬぬ』
トーニスが作った水の障壁を蒸発させるドライゼンは、それともアレンたちへの憎悪が大きいのか、自らも漆黒の炎で口やのどを高熱のブレスで焼きながら吐き続ける。
『だけど、世界の命を循環を担う我らの敵ではないコン。やられるコンよ!!』
『ぐあああああ!?』
アレンの仲間たちに攻撃を集中しているドライゼンに対して、コンズは自らの周囲に浮遊する火の玉の全てをぶつけ、全身を燃やそうとする。
炎と炎の対決は精霊王コンズに軍配が上がるようだ。
バキッ
背後で仲間たちも必死に戦う中、アレンはとうとう5枚目の「無限障壁」を破壊することができた。
『こ、これは!!』
「うおおおおおおおおおおお!!」
そのままブレマンダの胸元めがけて特技「ソウルセイバー改」の斬撃を振るい切る。
『がは!? だ、だが、これさえ絶え凌げば! エビルリカバ……』
回復と守りに特化したブレマンダは自らの戦い方をよく理解していた。
視界の先でリンブルラとバロンカロンが倒されても呼び出せる枠が空いたに過ぎない。
この攻撃を防ぎ自らの体力を回復しつつアレンから距離を取り体勢を立て直す。
だが、漆黒の炎が精霊王や大精霊たちにドーム状に封じている漆黒の炎の隙間から、ペロムスの動きも自らに迫るブレスの脅威にも身じろぐこともなく淡々と自らの役目を果たす男がいる。
「秘奥義! 神閃!!」
『!?』
フォルマールは秘奥義を発動し、前方の仲間たちもアレンもクレナにも当たることなく、ブレマンダの喉元目掛けて矢を放ち声が出ないようにする。
だが、全身に駆け巡った魔力は詠唱によって発動する寸前だ。
アレンに切られた胸元も、フォルマールに放たれた喉元も速やかに全回復する予定であった。
だが、自らの魔力が何か四散するような気がする。
フォルマールの神技「神閃」は圧倒的な速度で矢を放つが体力だけでなく魔力を四散させる。
魔力の吸収や破壊は敵の攻撃手段を封じる効果がある。
「よし、上手くいったな。クレナ、止めを刺せ!!」
ガッ
「うん! はああああ! 秘奥義蒼天!!」
斬撃を浴びせたアレンはフォルマールの秘奥義「神閃」の効果を確認するとブレマンダの肩を蹴り上げ、クレナのために攻撃する場所を空けてあげる。
剣に全魔力、全霊力が込められると上段から一気に振り下ろした。
『ぐびゃあ!!』
斬撃が前方から津波に用にように押し寄せてくる。
デバフの効果もなければ複数の回数攻撃もないし、範囲攻撃でもない単純だが最強のクレナの秘奥義「蒼天」だ。
ブレマンダは迫りくる斬撃の衝撃波に両手を突き出すと指の先から粉々に消し飛んでいく。
『きゅ、キュベル様!? ぐひゃあああああ……』
ブレマンダの絶叫はやがてなくなりアレンの魔導書の表紙にログが流れた。
『魔神王ブレマンダを1体倒した』
「よし、上手くいったな。後はもう一体の……」
アレンは魔導書のログを見ながら魔神王ブレマンダが倒されたことを確認する。
ズウウウウウン
さらに、フォルマールたちの視線の先でコンズの攻撃によってこんがりと焼かれたドライゼンが真っ黒に焦げた骨だけになって倒れる。
【クレナの新取得スキル、奥義、秘奥義の説明簡易版】
・奥義「絶空」:1回攻撃。対象をノックバック※ 超絶速さで攻撃。クールタイム1日
・秘奥義「蒼天」:1回攻撃。超絶威力。クールタイム1日
・天地無敗:天騎士のスキル、地面に突き立てて上空に切り上げる斬撃。1回攻撃。地面、上空にいるものに大ダメージ
・獄竜連撃:竜騎帝のスキル、竜使いと竜騎士による連携コンボ。各4回攻撃
・三界無双:剣帝のスキル、上段切り、突き、胴切りを一瞬で同時攻撃。斬撃の間合いは1キロメートル
※デバフ効果のため通じないこともある
【フォルマールの新取得スキル、奥義、秘奥義の説明簡易版】
・奥義「天弓」:最大100回攻撃。魔力1000消費当たり1本の矢が降り注ぐ
・秘奥義「神閃」:1回攻撃。圧倒的速度。体力、魔力を破壊する
・無限絶弓:1キロメートル以内にいる敵に印をつける。
障害物があろうと転移しようとどこまでの矢が追いかけていく。矢自体の威力は並
※デバフ効果のため解除が可能で通じないこともある
「はぁはぁ」
「倒せましたわ……」
「まったく、無茶な作戦だ。大丈夫か? ソフィー、ルーク。オールヒール!」
大精霊や精霊王のために体力をぎりぎりまで消費するアレンの作戦に呆れながらも、キールは2人の体力を回復させる。
「もおおおお、上手くいったからいいけど、死ぬところだったよ!!」
転んだペロムスが起き上がると戻ってきたアレンに対して不平不満を言う。
「いやいや、あいつら幸運が0だったからな。幸運差で何とかいけると思ったんだよ」
ステータス幸運は、相手との幸運の差によって効果の現れやすさが違う。
ブレマンダが呼び出した敵たちはどれも幸運0だったので幸運80万のペロムスに優位に働くと考えた。
「だが、さっさと倒すに限る。ん? ドライゼンのログがまだ流れないな……」
一気に叩き込むに限ると言うペロムスの言葉をアレンは魔導書の表紙を睨む。
「もう、って、アレン、聞いているの!って、うわ!!」
ゴゴゴッ
『き、貴様ら絶対に許さんぞ! 我を本気にさせたようだな』
「おいおい、骨だけになっても死なないのかよ……」
キールが絶句して見上げたのは、骨だけになっても立ち上がるドライゼンであった。





