第827話 チームアレン②無限ループ(2)
アレンは20分ほどで検証した2階層の無限ループの構造を仲間たちに理解させた。
「攻略に25000時間!? って、えっと……」
クレナが指を数えだしたので、アレンは改めて言い切る。
「クレナ。一切休まずに3年近く通路を探せば全ての道順を調べることができるかもだ。そもそも完全な検証になっていないから結論付けるのは早計かもしれない。迷ってミスしてもっと掛かるかもな」
無限ループと同じ構造のダンジョン内でとても道を迷いやすいとアレンは言う。
かなりの確率で徒労に終わり、このままだと仲間たちも救えない。
恐らくだが、10万通りの道順のある無限ループの中で特異点は背後に1階層の扉がある、今アレンたちがいる場所だけだ。
だから移動を開始する前に、どうやって2階層を攻略するのか現状を踏まえて皆に説明をしている。
「……ふえ!? そ、そんなの無理だよ!!」
クレナが分かりやすく少し時間差を置いて絶句して吹き出した。
仲間たちにも聞こえるように無限ループがどれだけ大変か理解させてところで、キールが思ったことを口にする。
「だが、このまま座っていてもしょうがないんじゃないのか? 例えば俺たちがバラバラに探すとか。そしたら何倍の速度で探せるだろ」
状況が分かったところで攻略法を探さないといけなという話に自然と移行する。
「調べないといけない選択肢は10万通りだ。たしかに、少しでも効率よくするためバラバラに探したほうがその分、一度に調べることができるからその点は良い意見だが、キールの場合は敵の狙いに通りの行動になるぞ。俺たち7人は固まっておいた方が良い。恰好の狙い目だ」
「……た、たしかに。俺たちは既に3つのチームにバラバラにさせているからな」
「メンバーが減ればパーティーでの戦いになれた我らも不利になり、魔王軍の遅れをとる形になるだろう」
アレンの言葉にキールは納得し、フォルマールはこれ以上の分散は得策ではないと言う。
「だからハッチたち、産卵と王台だ。あと王台で生まれたハッチたちにも産卵を使わせてくれ」
『ギチギチッ!!』
『ギチギチッ!!』
アレンは10体の虫Aの召喚獣たちに特技「産卵」と覚醒スキル「王台」を使用させる。
さらに覚醒スキル「王台」で生まれたハッチに特技「産卵」を使用させて子ハッチ100体産ませる。
これで虫Aの召喚獣10体からハッチ10体、子ハッチ1000体を誕生させた。
「地上の戦況が厳しいんじゃないのかよ」
「……かなり厳しいがな、キール。目標は何も変わっていない。ルプト様を助けれないと世界は終わる。この10体は今回の2階層攻略に必要最小限な数だ」
虫Aを召喚し共有したことによって、虫Aの召喚獣越しに見た地上の戦況をアレンは共有する。
一度に200体を超える数に増やすことのできる虫Aの召喚獣は地上の戦場でも活用し、最も被害が出ている召喚獣だ。
「これで10万通り25000時間は1000分の1の25時間まで減らすことができたぞ。まあ、これでも1日以上かかる計算だかな」
(2階層の敵が少ないのは助かる。ハッチたちには移動に専念してもらおう。まあ、魔王軍側も10万通りある無限ループの迷宮の全ての通路に魔神を配置するわけにはいかないだろうな。全通り1体でも魔神10万体必要だし。神界を攻めてきた魔神たちの100倍の数だ)
通路に魔神が少なかった理由が分かったような気がする。
「精霊たちは別に俺たちと一緒に行動する必要ないんじゃないのか。俺もソフィーも精霊たちと意思の連絡できるし」
『たしかにな。精霊神ローゼン様のお力で、これだけ補助魔法貰ってんなら魔神どもに後れ取らねえぜ』
『なんじゃ、こき使われるのか』
毒沼の大精霊ムートンは納得するが、水の大精霊トーニスは自らの腰を叩き大変だと嘆く。
『ソフィーの精霊たち、ルークの精霊たちはそれぞれ同じ魔力で繋がっている。それぞれで別れた方が良いコンね』
『地上に降りて、こんなことをするとは思ってもみなかったポンね』
精霊王コンズと精霊王ポンズも、ルークとソフィーの精霊たち10体ずつで別れて行動しようと助言する。
ソフィーとルークの大精霊と精霊たちは、ソフィーのスキル「生命の泉」の効果でスキルレベル9のため、最大10体までこの場に顕現している。
彼ら精霊たちはソフィーの同じスキルの効果で自動的に秒間1万まで魔力を回復させることができる。
1万を超える魔力消費があれば、ソフィーとルークの魔力の負担は相応にあるのだが、精霊が自らの意思で動くこともでき、精霊使いの精霊の間で意思の共有もできる。
さらに、召喚獣を共有するアレン同様に10体の精霊同時に意識に語り掛けてくるため、相応の精神力は削られる。
さらに、ソフィーが効率の良い攻略法に気付く。
「あとはそうですわね。5回、10通りの選択肢があるというなら最初の4回まで同じ道を進んで、最後の5回目の通りを行き来したら、調査する時間の短縮につながるのではないかしら」
全通り調べるなら戻る頻度がなるべく少ない方法が良いとソフィーは言う。
「そのとおりだ。数は増やしても何度も1回目の選択肢に戻ってもしょうがない。ハッチたちには最後の最後から順に埋めていく。ソフィーの精霊、ルークの精霊、俺たちの3組は俺の感の順で効率良く正しい道を探していくぞ」
アレンは攻略方法が固まってきたなと言う。
【魔王城2階層の攻略方法】
・アレンたち7人とグラハンは常に一塊に移動する。
・ソフィーの精霊9体は一単位に移動し、道順攻略のために分散も可
・ルークの精霊9体は一単位に移動し、道順攻略のために分散も可
・虫Aの召喚獣10体は、ハッチ、子ハッチと移動し、道順攻略のために分散も可
・アレンは⑩⑩⑩⑩⑩からスタートし⑩①①①①まで1万通り調べる
・ソフィーの精霊たちは⑨⑩⑩⑩⑩からスタートし⑧①①①①まで2万通り調べる
・ルークの精霊たちは⑦⑩⑩⑩⑩からスタートし⑥①①①①まで2万通り調べる
・虫Aの召喚獣たちは⑤⑩⑩⑩⑩から数の若い順に5万通り調べる
また全て終わったらアレンたちの道順を⑩①①①①から数を増やす形で調べていく
(後ろの順番の方を厚くしてと。俺たちが順次調べてくると魔王軍側も考えつくだろうし。手前から調べると予想して俺なら後半に答えを用意するぞ。だが、最後だと分かりやすいからソフィーやルークの精霊たちが発見する可能性が高いか。運が良ければ1時間以内に発見できるはずだ)
効率よく探しつつ、敵の狙いを読んだアレンの割り振りを説明した。
「……わ、分かんないッピ」
プスプスッ
アレンの説明をクレナは理解できないと頭から音を立て煙が出ている。
「クレナは侵攻の邪魔をする魔神たちを倒せ。倒しておかないと先に進んでも背後を狙われることになるかな」
「アイアイサー! アレン総帥、分かりやすい!!」
「よし、いくぞ!!」
既に2階層にやってきて30分以上過ぎた。
細かい作戦は、探しながら説明するとアレンたちは行動を開始する。
ギチギチ!!
ブウウン!!
さっそく1000体の虫Aの召喚獣たちが直進して5つ目の十字路を右手に曲がる。
左手の道は右手をまっすぐ進めば、戻ってくる場所なので、今回の作戦は左手の道は捨てている。
ガリッ
ガリッ
最初に進んだ虫Aの召喚獣は尻にある針の伸ばしたままお尻を振るう。
曲がり角の位置に壁を傷つけるように✖字の傷をつけた。
同じ構造で迷いやすい通路の中で、この道は進んだことを記録し、同じ道を進んで迷わなくするためのものだ。
(ゲームと違って、倒した魔神は死体が残るし、壁や柱を傷付けても元には戻らないよな)
アレンは仲間たちと共に決めた順路をたどって5回右手に曲がって行き止まで進もうとする。
空を飛べるのはクワトロの特技「飛翔羽」のおかげでグングンと空を飛んで、無駄なく1つずつ10万通りの道順を埋めていく。
「敵だ!! ソフィー、フォルマール!!」
「敵だ! やああ!! 真飛剣!!」
「むん!!」
遠距離攻撃を持っているクレナとフォルマールに3体ほどの魔神の小集団がいたため、クレナの飛ぶ斬撃とフォルマールの弓矢が襲い掛かる。
耐久力の高い重厚な装備をした魔神が咄嗟に後方の弓を持った魔神を守ったため、一気に全員倒せなかった。
『げは!! ぐおおおおお!!』
盾の隙間から縫うようにフォルマールの弓矢が弓使いの魔神を襲うが、倒すには至らなかった。
必死に弓に矢をつがえようとしたとき、キールが自らのスタッフを掲げた。
『俺だって! 真・浄化!!』
『ぐるおおおお!?』
まばゆい光がスタッフに集まったかと思ったら魔神相手にカッと照らす。
既に死にかけている2体の魔神と一緒に弓使いの魔神の体が炎に包まれ、焼失した。
「助かる! 人数も少ないからな。だけど、お前の役目だぞ。ペロムス! ほかの皆は移動に集中してくれ!!」
「わ、分かっているよ!?」
召喚獣は地上での激戦にほぼ狩り出し、2階層攻略のためにも枠を消費しているため、移動時に遭遇した魔神たちを倒すための余裕はアレンにはほとんどない。
キールに止めを刺させず、スキル「銭投」を持つペロムスの遠距離攻撃系のスキルで倒すように言う。
こうして、3時間ほどの時間が経過した。
道中の敵を倒しつつ10万通りの道順の6割強を調べたところで、ルークが声を荒げる。
「お! 見つかったって! カカの向かった先の突き当りにデッカイ扉があるぞ!!」
「数字で答えられるか?」
「えっと……! ⑥……⑧……⑨……⑧……⑥だって!!」
「ルークとソフィーは⑥⑧⑨⑧⑥でほかの精霊たちも集合させておいてくれ。俺たちも向かおう!!」
道順が分かれば、10分とかけずにアレンたちは精霊たちが待機する⑥⑧⑨⑧⑥の通路の先にある扉の前に立つ。
「本当だ。すごい、扉がある!!」
重厚な宝石の付いた扉がありクレナが理解できないと驚いている。
「よし、皆よいか? ソフィーもロザリナもバフは切れそうにないか?」
「問題ありませんわ」
「大丈夫よ!」
「よし、扉を開けるぞ。俺が触るから皆は攻撃の体勢を!!」
「分かった!!」
『2階層に入ってきた者たちの到着を確認! 中へ案内します!!』
ゴゴゴゴゴッ
扉が開くとその先は通路になっている。
「このまま先に行くぞ!」
アレンとクレナを先頭に全員で通路の奥に向かうと大きな広間となっていた。
大広間にいる人影に気付く。
「誰だ、お前は!! 私は天騎士クレナ!!」
クレナが大剣を掲げ自らの名を名乗る。
『おやおや、私はこの城で監獄長を務めるブレマンダと申します。以後お見知りおきを。まさかこんな速度で私の作りし「無限回郎」を攻略されるとは思いませんでした……。いやいや、警戒に値しますね』
監獄長ブレマンダが扉の先にある大広間の中央に立っていたのであった。





