第826話 チームアレン①無限ループ(1)
アレンたちのチームが2階層に入って15分ほど経過した13:45頃だ。
アレンたちは1階層から3チームに分かれ2階層の魔王城の攻略を目指す。
アレンたちのいる場所は、シアたちが飛ばされた場所と同様に果てしなく通路が伸びており、鳥Eの召喚獣を2方向に2体を飛ばして、2階層の攻略を進めていた。
「おいおい、いつまでこの場につっ立っているんだよ」
「まったくだぜ。地上がまずいんだろ。さっさと移動しようぜ」
キールとルークが魔導書を広げ、鳥Eの召喚獣の調べた道順などを魔導書に移し続けている。
なお、思ったことをすぐに口にするのは良いことだとアレンはパーティーメンバーに伝えてきたので2人の発言は当然のことだ。
「ここは魔王城の2階層でしょうか?」
1階層の扉をそれぞれ3チームが近付き、扉に取り付けられた宝玉に触れた瞬間転移したため、上の階層に物理的に移動できた感覚はない。
「ああ、そうだな。『2階層を守る』だとかあの魔神王たちの中で言っていた奴もいたし、間違いはないようだ。通路にはそこまで多くないが魔神たちもいるようだ」
鳥Eの召喚獣たちはバフを受けてものすごい勢いで移動させながらも、アレンはソフィーの問いに答える。
「魔神? アレン、魔神がいるんだね」
「ああ、クレナ。そこまで多くないが敵も多い。だが、問題はそんなことじゃない。この魔王城の2階層は無限ループ迷宮になっているってことだ」
アレンは仲間たちに催促されながらも、2階層に転移した場所で動かず、マップを魔導書に埋めるところから始めた。
それは失敗の許されない状況にあるからだ。
魔王城の中にいるからといってセーブポイントもないし、蘇生魔法があるからといって回数に限りがあるし、無条件に成功するわけでもない世界だ。
忘れ去られた大陸の要塞間に設けた地下迷宮に敵陣を隠していたり、ヘビーユーザー島を打ち落とす戦力を保持していたりと万全の準備を魔王軍は整えてきたと、現状の戦い方を見た上で既に分かっている。
随分な頭脳か知略家がいるのか、まるで未来を読んでいるのかと思えるほど、こちらの戦法を超える戦術が練られている。
2階層に飛んですぐに動き出さないのは魔王軍の知略が警戒に値し、アレンが慎重な性格であることも理由にあるのだが、鳥Eの召喚獣を飛ばしてみたらすぐに違和感に気付いたからだ。
(まじかよ。初見殺し過ぎてマジで切れそう)
「無限ループ迷宮?」
「無限ループ迷宮?」
「無限ループ迷宮?」
アレンの言葉に怒りに振るわせながら、今の状況を説明しようとする。
「そうだ。もうすぐ1周して戻ってくるはずだ」
『ピイッ』
「おお、ホークが戻ってきた!!」
「ああ、戻ってきたけど、ん? あっちに向かって飛んでなかったか?」
バフを受けものすごい速度で飛行した鳥Eの召喚獣が戻ってきたことにキールはクレナと違って気付いたようだ。
ここは正面の通路と左右の通路の3手に分かれており、背後には1階層へ転移するための宝玉が埋め込められた扉がある。
なお、背後の1階層へ向かうための扉は近付きあちこち触ってみたが反応はなく、引き返すことは出来ないようだ。
「そういうことだ。まず左右の通路だが、これはグルグルと真っすぐの道を200キロメートルほど飛ぶことになる。さらに正面は、200キロメートルの間に完全に等間隔で左右10個ずつ、20の分岐があるようだ。柱も窓も床石の数も等間隔で見た目は完全に一緒で見分けがつかない」
「変な構造だな。ってことは正面の道を進めってことだな。でも道が似ているとどこまで進んでいるのか分からねえな。正面の道の分岐を曲がるとどうなるんだ?」
無限ループで苦労したことのない純粋無垢な小学校低学年の見た目のルークは今の状況が分からず、アレンに尋ねてくる。
「分析したのは15分程度しかしていないからな。ここから先は予測だがさらに200キロメートルの間に完全に等間隔で左右10個ずつ、20の分岐があると思われる。さらに分岐を曲がると全く同じ通路と柱の構造の……」
だんだん仲間たちの表情が青ざめてきており、アレンの言葉にクレナとルーク以外の者たちが魔王城2階層の構造の怖さが理解できたようだ。
『巨大な大迷宮か。大地の迷宮を思わせるな』
グラハンも話している内容に理解をして会話に参加する。
「大地の迷宮は物理的な広さだったからな。これは明らかに魔法的な何かだろう。人口の構造物としてあり得ない広さだ」
結局、魔王城の中で3方面、地上も含めて4方面に分かれて激しい戦いをする中、仲間たちに状況を把握してほしいため、現状を丁寧に説明する。
(碁盤目状の無限ループだね。魔王城でふざけたダンジョンを作りやがって。無限ループは心に余裕のあるタイミングで、賊のアジトを探したり、エルフの森を探す時くらいしか用意してはいけない)
アレンは今の状況に憤りを覚える。
前世で健一だったころも、やり込んだゲームの中で、場所の間隔を失うほど同じ構造のダンジョンや森の中を移動した記憶がある。
こんな無限ループ系のダンジョンは決して魔王城でやってよいものではない。
ソフィーは冷静なアレンの表情の中から普段よりも早口であったりする変化を見抜き、説明の区切りが終わったところで口を開く。
「……もしかしてほかの場所はかなり厳しい戦況のでしょうか。キュベルは、地上は確実にせん滅できると言っておりましたし」
「……えっと、それは」
「アレン、いってよ! ハクは大丈夫!?」
「地上については断続的な情報しか入ってこないがかなり厳しい。最悪の結果を覚悟しておいてほしい。既にアレン軍を含めて全軍の被害が万に達しつつある」
仲間思いのクレナにこの場での戦いに集中させるべきか迷ったが、1体倒すにも苦労したガンディーラ改が7体同時に現れて、アレン軍本陣も含めて被害が出始めている話をする。
メルスに任せている地上の情報は召喚獣が倒され、こちらで召喚し直し、共有したタイミングで召喚獣の記憶から知ることができる。
タイムリーな情報でもないし、こちらから指示できない地上の召喚獣たちをそのためにわざわざ倒される余裕もない。
それでも激しい地上での戦いの中、魔王城2階層の分析のため、鳥Eを召喚した際に地上の情報が入ってきた。
「も、戻らないと……」
キールが思わず、地上に置いてきた仲間やアレン軍、勇者軍、ゴーレム軍のことを思う。
「それはできない。元々魔王城に俺たちは閉じ込められているからな。それに魔王城を発見し、地上から攻めるために彼らも必死に戦っている」
諭しながらも自らの選択肢が正しいか言い聞かせる。
「じゃあ、急ごう。とんでもなく広いなら早く攻略始めないと、せめて城の中で別れた仲間たちと合流しないといけねえだろ。敵も俺たちを長く分かれさせて倒そうって魂胆なんだろうし!!」
チームの中でも精神的にも一番幼いルークは時々、本質を突いたことを口にする。
「そのとおりだ、ルーク。だが、無限ループ系のダンジョンを攻略するにはコツがいる。闇雲に攻略すると無限に時間を浪費するからな」
「さっすが、アレンだ!! コツが大事だよね!! そのコツって何!!」
コツを早く言ってくれとクレナの表情が明るくなる。
「攻略の方法は2つあって、1つ目は無限ループ系の中で特異点を発見する」
「特異点? アレン様、特異点ってなんでしょう」
「例えば、正解の道へ進む通路の床石の色が違う。柱がない場所の近くの道に進むとかだな」
「魔王軍も間違わないよう目印をつけているって感じでしょうか?」
「そうだが、そんな目印をつけて攻略されたら、意味ないんじゃないのか」
(仲間たちも迷宮の中で暮らしているような、隠れ家的なとこ路に住んでいる場合に有効なのだが、ここは完全に時間の浪費も狙っているからな。物理的な特異点はないと思って良いだろう)
「そうだな、キール。この魔王城に特異点は、配置している魔神たちがそれぞれ違ったり特徴があるくらいで、ほとんどないようだ」
倒した魔神の死体や遺留物が消えるわけではないので目印にはなるとアレンは言う。
ソフィーに続いてキールが会話に参加する。
仲間思いのキールは、状況を丁寧に説明するアレンの対応に苛つきもあるようだ。
「じゃあ、2つ目の攻略の方法は何だよ。急いでいるんだろ。もったいぶらずに説明しろよ!!」
仲間たちも同意見のようで強めの視線がアレンに集まる。
「2つ目の方法は残念ながら総当たりだ。攻略できるまで全ての道順を力技で、総当たりで調べる方法だな」
「総当たりって、この広い魔王城の正しい順序が出るまで探すってことか」
「そうだ。順番にな。よし、5回曲がってようやくホークが最初の突き当りを発見したぞ」
「え!?」
「え!?」
「え!?」
仲間たちが説明を求めて驚愕するまでの間、アレンは2階層の攻略のため鳥Eの召喚獣をひたすら飛ばしていた。
この丁寧な説明もアレンの無限ループの城を攻略しながら状況を理解してもらうためのものであった。
鳥Eの召喚獣の1体は左から進んで右からやってくるまで無限の通路を調べて貰った。
さらにもう1体は、召喚獣は正面から進み、最初の通路を左手に曲がり、次に現れた分岐点も左手にとずっと左に曲がってきた。
現在、アレンが視界を共有する鳥Eの召喚獣の1体の正面には通路の行き止まりの壁が存在している。
これは左回りに3回曲がるとアレンのいる場所に戻ってこないことで、無限ループの確証を得るための行動でもある。
その後、来た道を戻り、右手に5回曲がって新たな行き止まりに辿り着いた。
(さすがの魔王軍であっても完全な無限ループ構造を作ることは出来なかったと。とんでもなく広いがな。この場にテミさんがいたら占いで最短ルートを選んでくれそうだけど。いないし仕方ない)
「この無限ループは全長200キロメートルの道のりの中で1つの通路に20キロメートル置きに10ヶ所の分岐路がある。それを5回、正しい分岐路を選ぶと3階層へ続く道が発見されるんじゃないのかな」
「左右で20じゃないのか、アレン」
「左右の道はループが戻ってくるときの場所だからな。基本的に一方通行。攻略すべきは正面の道だ」
「ん? ああ、なるほど……」
左から戻ってきても右の道につながるという説明をキールはギリギリ理解できたようだ。
「ん? あれれ? 一周15分くらいかかるんだよな」
「そうですわね、ルーク。そこから10手に分かれ、さらに10手に分かれ。それを5回って……」
ソフィーとルークが指を降りながら頭を掲げ計算しようとするが、既に自らの攻略方法が見つかったアレンが答えを言う。
「10の5乗で10万通りだ、ソフィー。1通り調べるのに15分かかる計算だな。だから最初に状況を説明したかった。全ての通路を調べるなら25000時間かかる計算だ」
(まじでふざけてやがる。鬼畜の所業だな)
「25000時間!? そ、そんな……」
ソフィーは絶句し、驚愕する仲間たちにアレンが必死に冷静に2階層の厳しさを説明する理由がようやく理解したのであった。





